金魚と習字 4

少しでも手を止めてもらえるようにお願いしたくても、上手く話せない。


この前よりも長く触れられてる気がする。あの時は、人の体温が心地良いということしか思わなかったのに。


零れそうになる声をどうにか飲み込む。だって、泣いてる時のような声に似てるから。お姉さまたちはその声を聞くと苛立つとおっしゃってたから、旦那さまもそうに違いない。



「あの……っ、て、てを……」



止めて、という言葉が言えない。身体が勝手に動いてしまう。



「そのまま感じてろ。声は抑えんな。」


「で、も……っ、あ、」



身体がずっとむずむずする。旦那さまの指がつっとお腹をなぞって下りた時に、びくっと震えてしまった。


旦那さまの指が触れた場所……。前はとても痛くてたまらなかったところ。指を動かされた時にぬるりとしたものを感じて、顔が青ざめる。


もしかしてまた、血を出してしまった? 布団に広がったあの真っ赤な染みを思い出してどうしていいか分からなくなった。



「痛てぇか?」


「だ、だいじょぶ、です」


「なら、ほぐすぞ」


つぷ、と指が私の中に入ってくる。この前のような痛みは無い。でも、変な感じ。


痛くはないけど、そこに旦那さまの指があるってよく分かる。


よかった。あの痛みをまた耐えなければいけないかと思ったから。



「まだせめぇな。さっさと慣れろよ。」


「は、はい」



旦那さまがもう一本指を入れられる。さっきより少し、痛い。でも動かされなければ大丈夫。



「ふ、うぅ……、」



旦那さまの指にぐううっと力が入ってゆっくりと押される。身体を内側から押される感覚は慣れない。



「あ、まって……」



親指を置かれた所がくすぐったくて身を捩る。中に入れた指と外から親指を合わせるようにされると、くすぐったいのが強くなる。



「だんなさま、そこは……っ」



つい「だめ」と言ってしまいそうになり、慌てて口を閉じる。その間にも旦那さまが親指をすりすりと動かされるから、情けない声をあげてしまう。



「ひ、あっ、ああ、ぅあっ!?」



熱い。身体が熱い。足に、つま先に勝手に力が入って、ぴんと伸ばしてしまう。頭も真っ白になって、何も分からなくなる。


さっきよりずっと強く、私の中に入れられた旦那さまの指を感じて身体が震えた。



「だ、だんな、さまぁ……っ、もう、」



これ以上は、と言う前に、旦那さまはさらに指を奥へ進めた。


さっきまでとは違う感覚。さっきまでは、痛くないだけだった。押されてると感じるだけだった。



「……っ、ぁ」



ゆっくりと動かされると、指先を押し込まれると、つい逃げたくなってしまう。なに、これ。あの夜はあんなに痛かったのに。


旦那さまがあの日より時間をかけてくださっているから?



「前よかマシなはずだ。挿れんぞ。」



足を抱えられたかと思えば、何か硬くて熱いものが押し当てられる。それが身体を引き裂くような痛みをもたらしたものだと気づいた時には、ずぷりと埋め込まれていた。



「く、……うぅ」



鈍くて鋭い痛み。苦しさから汗が滲む。それでも、指で慣らしてもらえたからか呼吸を整える余裕はあった。



「はぁ、はぁ……、ふ、ぅ」



ゆっくり息を吸って、ゆっくり吐く。旦那さまをお待たせしてはいけない。



「もういいな? ……動かすぜ」



私を見下ろして、旦那さまがさらに奥へと立ち入る。ぐぷぐぷと進められるとまた鈍く痛んだ。それとは別に、強くむずむずとするような感覚も走る。痛いのに似てて、でも全然違うもの。


身体に力が入ると、よりむずむずとしたものを強く感じてしまう。



「ひぁ……っああ、」



これ、ずっと続くとだめなやつだ。でも私には止められなくて、耐えることも逃げることもできないまま過ごすしかなかった。






旦那さまとの行為がひどく淫らなものということは、菖芽や桔杏が貸してくれた本を読むうちに分かった。

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