とあるVtuberの受難
短めです
──────────────────
【というわけでその方にコラボのお誘いをお送りしました】
【ば〜〜〜っかじゃねぇの?】
大手の企業勢Vtuberたる蘇我山勝は同期がやらかしたリスクヘッジのリの文字もない行動に呆れを通り越して戦慄すらしていた。
突然桐ヶ崎からグループチャットで面白い新人がいたのでコラボすることにした、と送られてきたのだ。あまりにも突然すぎる。
【いくらゲームが上手いつっても人間性が保証されてるわけじゃないだろ】
【配信を拝見させて頂きましたがとても面白い方でしたよ】
【そんなに配信回数もないだろ?人間性なんてまだわかんねぇよ】
誰でも最初は猫を被れるのだ。企業勢でも配信数回後に未成年に手を出して捕まったクソ野郎もいるくらいだ。個人勢の人間性なんてわかったもんじゃない。
【まあまあいいじゃないですか!面白そう!】
【お前なぁ】
能天気すぎる同期──ミミルナ・イルイロップから擁護のDMが飛んでくる。
【桐ヶ崎さんの人の見る目、信じてないんですか?この前もヒドラさんとのコラボ大成功させたじゃないですか!】
【あれとこれとはわけが違うだろ】
あれはそもそも格ゲープロとして活躍しているヒドラさんの人気ありきだし、新人Vと絡んで炎上のリスクを抱えるのとはわけが違う。
【大体会社に許可取ったのか?】
【はい。何があっても責任は取ります、と言われましたがもし何か間違いがあれば私が全ての責任は負いますとお伝えしました】
そこまでするのか……
うちの会社、ウィズドリが許可するのはわからなくはない。そもそもうちの箱はさまざまな個人勢と絡んでいってお互い高め合おう、伸ばし合おうというコンセプトだ。ゲームがめちゃくちゃ上手い個人勢が急に出てきたとなれば数字が取れそうだし、FPSガチ勢の桐ヶ崎と絡ませるのもおかしくない。
【ゲームが上手いというだけではないんですよ。どうやらこの方、オカルトの分野でも活躍してるようで……勝さんともコラボしたら面白そうですよね】
オカルトつったか今こいつ。
【俺がその分野苦手だってわかっていってんだろオォン?】
【何それウチとキャラ被ってない?】
【霊能力者設定なのに頑なにホラゲ配信しない0能力者は黙ってろ】
【あんだと恐山!】
【その呼び方やめろ】
籠町まで出てきたら収拾がつかなくなるだろとため息が出そうになる。
まあいいか。新人と絡むのは初めてってわけでもない。もうちょい活動実績が見えてれば安心できるが、覚悟決めてるやつに突っ込むのも野暮だな。
机の上に置いた飲みかけのエナドリをグビっと飲む。口出しするのはやめておくか。
【桐ヶ崎がそこまでして絡みたいってんならまあ悪いやつじゃないか。すまん、心配でつい口出しちまった。ちなみに名前はなんていうんだ?】
【大丈夫ですよ。私も他の方がこんなことを言っていたら心配してしまうので気持ちはわかります。名前はですね、天童院 総さんです】
「ゴガッ」
飲みかけのエナドリが喉に詰まる。
【天童院さんですか!なんかカッコいい名前ですね】
【名前覚えたからな……ウチからオカルト系最強Vの名を奪おうとするものは滅ぼす……】
「ゲホッ、ガハッ、ぐぐぅ」
天童院?天童院つったかこいつ今。
【天童院さん?】
【はい!なんでも動画越しからでも霊視ができるとか。凄いですよね】
おい待てや本当に霊視持ちだったらシャレにならないぞマジで。
急いで天童院総と検索する。スレの方が先に出てくるな……殺人犯を自供させた?おいおいおいおい。
初配信、あったこれか。
「マイクテスマイクテス。あー、聞こえるか?」
──本物だ。
Vtuberという虚像の立ち絵越しでもわかる。溢れ出る恐ろしいほどの清浄な気。力を持つ者の声。
これは、本当に。
「あの天童院じゃねぇか……」
名を騙る偽物ではない。そもそも天童院の名を騙るなんて、その名を知っているなら絶対にやらないが。
しかも、この動画越しでも伝わってくる力。常識では考えられないほどの位階に達した者に違いない。天童院でもかなり上の方の実力者だろう。なんでVtuberやってんだよアホか。
とんでもないことになってしまった。そもそも殺人犯がのんびり新人Vウォッチしてんじゃねぇよとか初配信のタイトルが初配信!はちょっと思い切り良すぎだろとか視聴者を霊視して色々バラしていくスタイルは問題ありすぎるだろとか言いたいことは色々あるが、それよりもまず。
「なんでこいつ本姓でVtuberやってんだよ……」
そんな疑問が口から出てしまったのはしょうがないのではないだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます