1〜30
初配信!
というわけでこれから初配信だ。
パソコンの前でいそいそと用意を始める。各種SNSも作り終えたし、初配信の告知もしている。大して注目されてないが、個人勢ならこんなもんだろう。
なんとなくソワソワする。修羅場なら慣れてるが、こういうのは初めてだ。正直言って少し緊張しているかもしれない。
どうせ自分がモデルなんだと開き直って名前も天童院 総にした。馬鹿みたいな名前だしちょうどいいだろ、米津○師みたいなもんだな!
配信が、始まる。
「マイクテスマイクテス、あー、聞こえるか?」
:聞こえてます!
:きこえてるよー
:大丈夫やで
「おお、人がいる」
3人か。十分すぎる、人がいるってこと自体が嬉しいもんなんだな、こういうの。
「はじめまして。俺は天童院総って言うんだ。この世を総べる者になって欲しいからつけた名前らしいぜ」
:はじめまして!
:この世を総べる者w
:アホくさwww
「俺もバカみたいだと思うよ、ほんと」
本当にな。あいつら何考えてたんだろうなぁ。馬鹿どもが。
:絵、カッコいいですね!
「お、マジで?サンキュー、これ手描きなんだわ。絵なんてほぼ描いたことないから手間取ったぜ」
:手描き!?
:マジで!?うっま
:ほぼ描いたことないってどゆこと?
「実は1週間前に絵の勉強を始めたばっかなんだわ!Vtuberになりたくてな!」
:1週間前www
:うそくさwwwww
マジなんだけどね。まあ冗談に聞こえるか。自分で言うのもなんだがなかなか上手いしなこの立ち絵。
「名前だけってのもなんだし自己紹介続けるか。年は28歳で、25までは家の仕事として祓魔をしていた。祓魔ってのは悪霊とか悪いもんを祓う仕事だな」
:へー
:設定乙
「設定じゃないんだがな。まあ色々あってその仕事が嫌になってな、25でやめて遊んで暮らして、金がなくなったからVtuber始めたってわけだ」
:遊んで暮らしてw
:まともに働けや
「はっ、まともじゃない家業やってたのに今更まともな仕事できるかっつーの」
自嘲気味に笑った。俺のアバターも合わせて笑う。いやほんといい出来だ、俺の顔そのまんま。
:じゃあなんかオカルト能力あるの?
「おっ」
良い質問が来たな。これを待っていたと言っても過言ではない。
「もちろんあるぜ!悪霊を実体化させてぶん殴ったりこの世ならざるものを呼んだり人の心の声が聞こえたり土と霞だけ食っても生きていけたり縁が繋がったやつの過去と未来がある程度見えたりな!」
:多い多いwww
:土wwwww
「いや土はいいだろ。俺だって別に食いたくて食ってるわけじゃねぇんだぞ美味くねぇし」
ほんと不味いからよほど切羽詰まったとき以外食わないしな。霞は腹が全然膨れないけど味がしないから土よりマシ。
:過去と未来が見えるって占いができるってこと?
「大体そういうことだ。通りすがりの人ってレベルでも結構いろんなもんが見えるんだぜ」
:わーすごーい(棒)
:占いができるなんて素敵です!
「信じてねぇな〜?」
信じさせてやるよ。すぐにな。
「たらこさん。あんたヨモギのことよほど大事にしてたらしいな。今も膝の上で眠ってるぜ、そいつ」
今まで反応の早かった返信が途絶えた。俺の言葉にだいぶ戸惑っているらしい。
:?なんの話してんの?
「8歳の時に服におしっこつけられて餌やりしなかったこと未だに申し訳ないと思ってんだろ?時々夜に思い出して泣いてしまうことすらある。そいつぜーんぜん気にしてないぜ。家族の中でお前が一番大好きだってよ」
:よもぎいるの、?
「いる。そこにいる。お前の守護霊になって悪いことから守ってるぜ。今でもお前のこと、妹のように愛してる」
:急になんなのこれ
:これが占いですか!?
「これはどちらかというと霊視さ」
あーあ、そんなに泣きやがって。コメントも打てないでやんの。
:ありがとう
「どういたしまして。さて、あと2人だな。3人しか来なくて逆に良かったぜ、見やすいからな」
:なにこれやらせ?
:私も見てください!
どちらかというと「信じてるフリ」してるやつの方が信じてねぇなこれ。ま、なんでもいいが。
いやでも分かるぜ、これからな。
「やらせかな〜?ひぐちまるく〜んお前愛ちゃんのこと好きだったのに意地悪して嫌われたの未だにトラウマになってるよな〜?」
またコメントが途絶える。ウケるね、天丼かよ。
:なんでそんなこと
「あれはお前が悪い。愛ちゃんお前に傘隠される前はお前のこと好きだったんだぜ?まあ今はもうお前のことなんて覚えてないけどな!ざまぁないね。ちなみに次に好きになる女性にも同じようなことやるから今のうちに素直になっとけよ」
:お前なんなんだよ!ウイルスか!?俺のパソコン見てるのか!?
「パソコン見て分かることじゃねぇだろこれは。人生の先輩からのアドバイスだよアドバイス。受け取っときな」
:次々当てるなんてすごい!私も見て欲しい!
いいとも。そんなに見て欲しいんならどこまでも付き合ってやらぁ。
「もちろんいいぜ、なあ末永透」
:え?もしかして本名?
:俺たちはハンドルネームだったのに
こいつは洒落にならんからな。加減はしない。
「お前5年前に加藤殺しただろ?」
:何を言ってるんですか?
「恨んでるぜ、そいつ。お前への恨みでほぼ悪霊に成りかけている」
:あの、なんの話
:え、これマジ?
:やだこわい、
「うまく隠したなぁ。警察にもまだバレてないし確かにお前はこれから捕まることもない。ま、お前3日後には完全に悪霊に成った加藤に殺されるからな」
:出鱈目言ってんじゃねぇよ
「出鱈目かな〜?最近首筋に手の形をしたアザが浮かんできてるだろ〜?」
まだ手遅れじゃないけどな。お前肝っ玉が太いんだな、今の今までなんとも思ってなかったんかい。
「それが完全に浮かび上がった時にお前は死ぬ。加藤と同じ苦しみで鬼のような形相を浮かべてな」
:ふざけんな
「まだ嘘だと思うか?ん?」
:ふざけんなつってんどよsおこあんのかよ
「○○県。26時。△△製の包丁」
ほら青ざめた。お前はもう疑えない。
:たすけてくれ
「それは俺に言う言葉じゃねぇよなぁ?」
:ちがうまがさsたんだゆるしてくれたすけてしにたくないおれゆmがとららるたおもって
:マジかよ……
:もしかしてまだ犯人が捕まってないあの事件、?
加藤も同じかと思っただろうによ。……ったく、お前と違って懐が広いな。
「安心しろよ、お前の今の醜態みて加藤ちょっとスッキリしたってよ。警察に出頭したら許してやるってさ」
あーあ、見るからに安心しちゃってまあ現金だなお前は。
:しゅっとうします ありがとうござました
「はいはい今日中な〜、早めにしないとまた加藤がキレちまうかもよ」
あ、泡食ったように急いで出てった。牢屋の中で数十年しっかり反省しろよ?生きて出てこられるかは知らないけどな。
……ありがとうだって?いいんだよ別に、この世に悪霊が増える方が困るわ、身の回りに出たら嫌でも祓わんと鬱陶しいからな。
「あーあ、配信見てくれてる人が2人になったわ。さーみし」
:言ってる場合じゃないだろ……
:ほんとに、本物なんだ
「本物かどうかは近日のニュースでわかるさ。楽しみにしてなってことで今日の配信は終了!」
:はっ!?
:えっ
「ぶっちゃけこれがやりたかっただけなんだよね〜、ほら俺の能力って信憑性ないし?みんなに信じて欲しいんだわ」
:あんな奴が来るってわかって配信したのか?
「流石にそこまで視てねーよ、人生の全部視るのはつまんねぇからな。適当にきた奴の恥ずかしい過去言いふらして終わりにする予定だったがまさかあんなのが来るとは」
俺も結構驚いてるんだぜ、これでも。まさか初配信で未解決事件の殺人犯来るとは思わねぇだろ!なんであいつ呑気に新人Vtuberの配信見てたんだ馬鹿野郎。
:趣味わりぃ
:それでも私は救われました
:本当に、ありがとうございます
はっ。
「感謝されるようなことは何もしてねぇよ。全部俺のエゴだ」
だからそんなに泣き腫らした目で、画面に向かって頭下げるんじゃねぇよ。
「じゃあな!次回はゲーム配信でもやるかもな!」
:お疲れ様でした。また来ます
:しゃーねぇなまた見てやるわ
生意気言いやがってガキがよ。小学五年生の時にしょんべん漏らした過去言いふらしてやろうか。お前はの○太くんかよ。
そのまま配信を閉じた。なんかとんでもない初配信になっちゃった気がするけど気にしたら負けだ負け。むしろあいつの出頭がニュースになったら俺が一躍有名に……ってあれ?
よく考えたらこれ事情聴取受けるやつだよな?
数日後、突然家に来た警察に散々問い詰められて非常に面倒な思いをしたのであった。霊視だからなんの証明もできないんだけどな!はは!……クソ面倒だった……なんで俺本名でVtuber始めたんだろ……
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