神様、天童様

 どちらかというとコメディ回です

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「か、か、か、かみ、かみさ、ま」


「その呼び方まずやめてくれ。俺は人間だ」



 ついでに言うと神は嫌いなんだよ、と吐き捨てるように神様はそう言った。


 突然僕の部屋に現れた神様は、それはもう神々しい力をまじまじと感じ取れるほどの存在感があった。生きてるステージがまるで違うと当たり前に理解できる。


 ああ神様、ごめんなさい。僕はあなたの機嫌を損ねてしまったのでしょうか。ごめんなさい。



「あ、ああぅ、ごめ、ごめんなさい、すみません、ごめんなさい」



 言葉がうまく出ない。掠れた途切れ途切れの声だけが自分の喉から漏れていく。神様の前なのに、どうして。うまく機能しない自分の身体が心の底から憎かった。


 力を授けてもらったのに。せっかく世界を感じて、世界を変えることのできる力を得たのに。僕自身は何も変わっていないんじゃないかという不安が溢れ出して止まらない。僕は何で生きている?



「別に不機嫌じゃないぞ。……無理に言葉に出さなくていい。心の表層を覗く程度わけはない。まずは落ち着け」



 ああ、流石神様。あなたにはきっとできないことなんかなくて、どこまでも優しい。ありがとうございます。心の底から感謝しています。



「うーん……妥協案だ。神様じゃなくてせめて天童様って呼んでくれねぇか?そっちの方がまだ呼ばれ慣れてるからな」



 はいわかりました天童様。あなたの言うことには全て従います。


 全部神様に託せば、幸せになれる。きっとそう。いや、絶対にそうに違いない。だってそうですよね?そうに決まってる。



「おお、不健全な依存一直線じゃんこれ。マジで良くないわ」



 天童様が困っている。僕は天童様を困らせたということだ。本当に生きている価値がないことを改めて実感する。どうしよう、どうすれば。



「メンタルケアとか無理だよ俺……精神科医じゃないし……あーあやだなぁ、力技しかないじゃんこれ」



 天童様が悩んで、悩んでいる。僕のせいだ、僕のせい。これは僕のせいで、僕、僕、僕は?何で生きている?



■■■■落ち着け



 その声を聞いた瞬間、頭にかかっていた途方もない負荷の全てがパッと消えた。


 思考が明瞭になる。抱えていたストレスが全て投げ出されたみたいだ。同時に、今までの自分の状態が如何に危険だったかを理解する。



「あ……りがとう、ございます。これも、天童様の力ですか?」



 呂律が回る。発声もはっきりできる。力を初めて得たさっきの瞬間よりも、世界を認識できていた。



「そうだよ。力ある言葉であり、言葉の形をした力だ。悪いがそんな不安定な精神で力扱うの普通にめちゃくちゃ怖いから無理やり安定させた。すまんね」



 あと男のヤンデレルートとか本当に嫌なのでと天童様が小声で言っているのが聞こえる。



「と、とんでもない……です。力を授けて下さった上に、精神まで安定させてもらって……本当に、ありがとうございます」


「いやーぶっちゃけこれあんまり良くないんだけどね。鬱でおかしくなった脳やホルモンバランスとかうんたらかんたら全部無理やり正しい状態にしてるから。別に反動とかはないけど」



 それは。……それは。



「えっと……それは、とても良いことなのでは?」


「病気で変わってしまっているとはいえそれも自身の性格の一部で、それを無理やり治してしまうってなるとある意味洗脳じみた行為だからなぁ……こんな対処しかできない俺を許してくれ」


「いや!あの!全然、大丈夫です……!本当に、何とも思っていません、むしろ心の底から感謝しています、本当です」



 この人、は。もしかして。

 底なしに、優しいのかな……?



「……そうか。なら、いいんだが。……とりあえず、状況の説明からするか」



 こほんと天童様が咳払いをする。……おずおずと顔を見つめると、本当に綺麗な方だ。イラストそっくりだし、顔出ししていた動画通り、いやそれ以上に格好いい。

 いいな……



「……あー……うん。まあいいか。まず初めにな。お前は力を得ました。おめでとうございます」


「あ、ありがとうございます」



 天童様が微妙な顔をしているのを見てハッとする。そうか、心の声全部聞こえちゃってるんだ。恥ずかしい……


 そ、それは置いといて。やっぱりさっきの感覚は勘違いじゃなかったんだ。世界の全てを思うがままにできるような全能感。心の底から欲しくて、でも存在しないものをやっと手に入れたような気持ち。


 僕は本当に、魔法を使えるようになっている。



「うん。望んだ通りに力……お前の場合魔法か。魔法使えるようになってます。そんでさっきのままだといじめてたやつらとか前の職場のやつら、あと両親も含めて皆殺しにしてたのでそこらへんのカバーをするために俺の分霊を送り込んだんだわ」


「分霊……ですか?」



 皆殺しにしていた、という言葉に特に驚きはない。全能感に溺れて間違いなくやってたと思う。それくらい僕は僕に対する負の信頼感があった。



「分霊だ。俺の本体の力をほんのちょびっとだけ分け与えた分身だな。カバーのために送ったとは言ったがぶっちゃけ他の力を与えた彼ら彼女ら全員に送ってるから。そんなに力を求める奴らのことかけらも信用できないし」



 ちょびっと。このとんでもない力を感じるお姿が、本体のちょびっと分しか力を持ってないらしい。すごすぎる。流石天童様。略してさす天。



「やめんかい!天ぷらの一種か俺は!……はぁ」



 ごめんなさい。少しだけからかいの気持ちもありました。ナイスツッコミです。



「ばーっちり伝わってるからなあんま調子乗んなよ……ちなみに俺霊体だから普通の人には見えないぞ。あんま人前で俺と会話するのは控えとけ」



 元から僕おかしな人扱いだと思うので多分大丈夫ですよ!ばっちこいです。



「お前が良くても俺が嫌な気持ちになるからヤダ。……お前わざとボケてるよな」



 バレちゃった。てへ。



「心の声でてへって言うのキモ」


「言葉に出せばいいですか?てへっ」


「もっとキモい。お前意外とメンタル強いだろ」



 前の会社でいじめ倒される前は割と社会復帰できそうだったので実際そんなにメンタル弱くはないと思う。運が悪かったのかなぁ。

 それとも僕が可愛いのが悪いのか。みんなキュートアグレッション起こしたのかな。自分の可愛さが憎い。よよよ。



「やっぱり無理やり治したのは不味かったか……なんか前よりこれはこれでアレじゃない……?コホン。なんでもいいけど話が進まねぇよ。本筋に戻すぞ」


「はーい」


「お前が魔法を使えるようになったことで、このままいけば順当にいろんな組織に狙われたり怪物に襲われることになるわけだ。んで力の使い方も知らないお前は死ぬ。それは困るよな?俺は困る」



 僕も死にたくはないです。いやさっきまでは死にたかったんですけども。正気に戻って全然生きたくなってきました。生存本能ばんざーい!



「もう突っ込むのはいいか」


「僕は天童様になら全然突っ込まれたいですけど」



 もちろんいろんな意味で。



「うるせぇ!クソ変態が!」



 あ、罵倒ボイスだ。かなり嬉しいかもしれない。寝起きに聞きたいなこれ。



「もうほんとやだ……違う人担当が良かった……」


「泣かないで天童様。あー撮影したい、推しの泣き顔ジューシーすぎる」


「全てを無視して結論まで飛ばします。お前が死ぬの困るからある程度力を使えるようになるまで俺が鍛えてやります。死ぬまで感謝してください」


「はいわかりました死ぬ瞬間まで天童様のことを考えます」


「オデ、コイツ、ブンナグリタイ」



 からかい甲斐があって好きすぎる。とんでもない力持っててこんなキュートなのやばすぎるでしょ。一生天童様についていきます。ほんとに。



「……あー。あとこれは嫌じゃなかったらでいいんだが」


「天童様からお願いされて嫌なことなんて存在しませんが」


「うるせぇ。まあ、あれだ。力の修行が終わった後、Vtuberにならん?」


「なります」


「ああうんはいそうだね……理由とか聞かないんだね……」



 天童様の言うことには全てイエスなのは当然なんだが?むしろ頷かない理由がなさすぎる。Vtuberにはなってみたいし。あ、でも可愛い男の娘魔法使いVtuber、需要ありすぎ問題発生しない?全世界を沸かせちゃうよ……大変だ……世界征服しちゃったらどうしよう。きゃっ。



「この自己肯定感の塊が鬱になる世の中こわ……」


「それは僕もそう思います」



 頭の中がすっきりして、欲しいものを手に入れて、目の前に頼りになる人もいて。この世の全てを手に入れたも同然の状態になった僕ははっきり言って最強だった。最強は天童様か。失敬。じゃあ2番目で。


 本当の自分をようやく取り戻せた気がする。


 ようやく、自分らしく生きていいんだと。


 自分らしく生きることが、許されたんだと。


 今更実感が湧いてきて。



「……ひっく」



 悲しくないのに涙が流れたのは、いつ以来だろうか。子供の頃にみた、魔法少女たちの劇場版で感極まって泣いたときが最後だったような気がする。


 僕もあんなふうになりたい。絆を通わせて、仲間と一緒に誰かを助けるために力を使う彼女たちのように。

 ううん、なるんだ。僕のために。天童様のために。



「ありがとう、ございます」


「いいよ。大体全部俺の都合でやったことだ。気にすんな」



 それでも。



「僕はあなたに、救われた」


「……これからの厳しい修行を体感した後でもそう言えるかね」


「言えます」



 言ってみせる。何度でも。



「あっそ。……んじゃまずは顔洗ってこい。そんで家族と話つけな」


「はい。わかりました」



 今度こそ、本当に自分の足で立って生きていくんだ。過去にケリを付けて。まずは、この大きすぎる恩を返さなきゃ。いや、返せないかもしれないけど、それでも。


 頑張るからね。天童様。




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 名前も出てきてないこの子の再登場は後になる予定です。他の子の話もそのうち

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