蘇我えもーん!

「というわけで助けて先輩」


「お前はいつも唐突すぎるんだよ」



 困ってるんだからしょうがないじゃんね。

 自分の企画力のなさを自覚してからの俺の行動は早かった。俺に欠点があるなどありえないので。完全無敵なんだよ俺はよぉ!


 そのためには人にすぐ頼れる男だよ俺は。批判は聞こえません知りません。



「あー、それで……企画力がなくて困ってるって?」


「そうなんだよ。俺の動画そりゃ珍しいから好評っちゃ好評なんだけどさぁ、企画の方が分かりづらいとかなんかおかしくない?とか言われて凹ん……ではないけど困ってんのよ」



 凹んでないけど。凹んでないけど!凹んでねぇよ!

 あ、ハンバーグ美味い。先輩に奢ってもらう肉最高〜。



「相談に乗ってもらう癖して俺に奢ってもらうってお前すげぇ神経してるよな……」


「いや……金ないんで……すんません……」


「いやいいけどよ。ファミレス連れてきたのは俺だしな」



 本当に優しいよな先輩。そのやさしさにつけこんでるのはちょっと心が痛むが、手段は選んでられないんだよなぁ。肉うま。チーズインハンバーグうま。



「企画力がない、ね。その原因、分からないこともないぜ」


「マジで!?教えてくださいよ〜!」


「総、お前自分がやりたいことやってるだけで視聴者のことかけらも考えてないだろ」



 おおぅ、いきなりキッツイところ突っ込まれた。



「確かにお前の力はすごい。それをネタにして動画撮ってるだけでいくらでもこの業界で成り上がっていけると思う。だがな、大事なところが抜けてるんだよ」


「……大事なところ?」


「配信は自分の凄さの自慢大会じゃない。あくまで視聴者を楽しませるエンタメだ」



 これも痛いところだ。確かに、エンタメとしての意識は俺の中に無かった。基本的に俺のやりたいことをやるだけ。やり終わったら配信停止。確かにエンタメとしては不恰好もいいところだ。



「……ただ、ゲームの上手さや身体能力の強靭さ、技能の高さを配信してる人たちだっているからいいんじゃねぇの?」


「そうだな。そういうスタイルで配信している人もいるよ。分かりやすく凄いことやる人ってのはみんな好きだからな。人気もでるし、それもアリだ。……だけどな」



 先輩が俺の瞳を見つめる。色々見透かされそうないい瞳してんよ、マジで。


「その人たちは自分の能力を通して視聴者に楽しんで欲しいから配信をしてるんだ。だけど、お前のは自慢大会ですらない。……なにか別の目的ありきでVtuberやってるだけだ。視聴者のことはおろか、配信者としての自分のことすら考えてないだろ」



 あーあーあーあー。

 この俺が、まさか。そこまで見抜かれるとはね。蘇我山先輩が凄いのか、俺の余裕がないのか。ま、どっちもか。



「まぁ……まぁ」


「……深くは聞かねーよ。誰にだって隠したいことくらいあるしな。別にチャンネル登録者数増やすとか、収益化を目指すなら今のままでなんの問題もないだろ。動画の本数はもうちょい増やした方がいいが」



 言い切ったあと先輩がジュースを飲むのを眺める。……それはそうだな。別に企画力なんてなくてもいいんじゃないか……?


 まさか。自分のやるべきこととやりたいことに乖離が生じ始めている?



「だけど俺に相談してきたってことは、配信者として成長したいってことだろ?自分と、そして視聴者のために」



 そうか。俺は。



「Vtuberをやることを、楽しんでるのか。俺は」


「なんだ今更気がついたのかよ。人の心は読めるのに自分の心には疎いんだな」



 先輩がイタズラっぽくにっこり笑う。

 ……だいぶと思ったんだがな。意外とまだまだ、俺には余裕がなかったらしい。まさか自分の心さえ手放してしまっていたとは。参るね。



「向上心があるなら大丈夫だろ。色々教えてやりたいところだが……ただ俺も別に企画が得意ってわけでもないしな。今度企画ガチ勢のVtuber紹介してやるから、許可取れたらそいつから色々教えてもらうといい」


「そこまでしてもらえるんすか?」


「お前にゃ大きな借りがあるからな。それに、可愛い後輩の頼みきいてやるくらいわけはないんだよ」


 俺は先輩だぜ?と言って先輩が笑う。

 あー。本当に。


 敵わねぇよ。



「そういえば。お前生活大丈夫なの?まだ収益化通ってないだろうし、副業もたぶんしてないよな?」


「先輩。俺は雑草の一本だけで数ヶ月は生きていけるんだぜ」


「おいおいおいおい」



 先輩が一気に呆れ顔になり、頭を抱える。



「貯蓄は?仕送りとかは?」


「貯蓄は全部使った。家は飛び出したから仕送りとかあるわけないよな。ちなみにこの前先輩にハンバーグ奢ってもらってから何も食べてないし飲んでないぜ」


「お前……おまっ……」



 いやごめんって。そんな心配させるつもりはなかったんだわ。



「食事はこのハンバーグだけで数ヶ月余裕だから大丈夫だし、家賃なんかは最悪祓いの仕事探してなんとかするわ。めちゃくちゃ嫌だけど」


「探すつったって……ツテはあるのか?」


「まあまあまあまあ……」



 俺凄いしなんとかなるだろ。多分。



「お前なー!ほんとなー!計画性ってもんがないのかよ!」


「すべるむずかしいことわかんない」



 今までなんとかなってきたからこれからもなんとかなるだろうっていう気持ち。大事だと思います。



「こいつ……はぁ。……俺さ。最近探偵の仕事復帰したんだよ」


「それ動画見たわ。おめでとうございます」



 復帰してからまさかVtuber霊能探偵になって動画で宣伝するとは思わなかったけど。よく運営やファンも許したもんだ。



「ありがとう。……会社に副業として探偵やりたいって相談したらいっそVtuberとしての自分を使って宣伝するのはどうかって言われてさ。ありがたいことにみんな受け入れてくれたんだ。いやなんでだよ」


「先輩の人徳の賜物でしょ」



 つーかそれ以外ないだろ。流石だぜ先輩。略してさす先。



「なんか馬鹿にされてる気がするんだが……まあ、そこはなんでもいいんだよ。問題があってな。……思ったより依頼が大量にきたんだ」


「そりゃそうよ」



 大人気Vtuberが急に霊能探偵の副業始めたって公式でアナウンスしたらそりゃどしどし依頼くるわ。当たり前すぎるでしょ。



「あーいや、そりゃ冷やかしで大量に来るのはわかってたんだが、そういうのは一瞬見ればわかるからな。すぐに弾いてるから大丈夫。……ただ本当にオカルト系で困ってる人も大量にいたんだ」



 ああ。なるほど。最近の化け物の増え方からしたらそりゃそうなるだろうよ。、なぁ……


 つまり。



「できるだけ助けたいけど人手が足りないんだな」


「そういうことだ。……手伝ってくれた分だけお金払うから、よかったらさ……」


「もちろん受けるぜ。渡りに船だし、何より先輩から頼りにされてんだ。やるさ」


「……ありがとう!」



 やめてくれよ。お礼を言うのはこっちのはずだろうに。



「いやー、双子にも手伝ってもらってるんだけどなかなか量が多くてな……」


「あいつらその後悪さとかしてねぇんだな?」


「全然!むしろ家事手伝ってくれたり仕事手伝ってくれたりですげー助かってるよ。なんであんなことしてたかわかんないくらいいい子達だ」



 ただなんか懐かれすぎてる気がするんだよな……という先輩の声を聞き流しながら考える。

 どうやら問題ないようだ。何かしらの悪意を持って行動を起こした時点ですぐにようにはしていたから分かっていたが、素行も大丈夫らしい。……ひとまずは安心か。



「あー、よかったらこれ食い終わったら仕事についての相談始められないか?あんまり外でする話でもないし、俺の家でさ。もう本当に大変で……」


「もちろん大丈夫だ。喜んで手伝わせていただきますよ、先輩」


「お前の敬語はなんか鳥肌が立つな……」



 うっせぇ。これでも敬意を払ってんだよ。


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