コラボ配信!2


「正直ゲームの腕が私は一番気になってるんですけどね」


「企画段階で最初はゲームにフォーカスするよりオカルトに焦点当てたやつにした方が差別化できるよね〜ってお互い話し合ったじゃんね」


「あら、裏の発言はNGですよ〜」



 :めっちゃ暴露してて草

 :新人Vの行く末まで気にしてくれる峰姐は神

 :事件の件と合わせてネットニュースになってるしな

 :まーた峰姐の優しさと生真面目さがバレてしまうのか

 :峰姐の目がガン決まってて怖い

 :そりゃあんな負け方したら再戦したくなるよ

 :他のゲームもうまかったら人気やばそう



「あれはもう本当に最高の試合でした。またお手合わせをお願いしたいですね」


「他のゲームも俺としてはやりたいけどなぁ。つーか占い企画の説明しないといかんでしょ」



 そういえばそうでした。私としたことがついうっかり。

 FPSであんなにコテンパンにされた経験は最近あまりないので、どうしても気になってしまいますね。これはいけない。



「はーい、わかりました。今回の占い企画ですが、天童院さんが様々なVtuberの悩みを占いでズバッと解決していく、というものですね」


「もうタイトルまんまだよね。ただそれだけじゃ普通の占いと変わらなくてつまんないよなぁ?」


「と、いうわけで。私たち先輩Vtuber側は天童院さんに一切悩みを打ち明けずにお悩み相談に乗ってもらいます」



 :???

 :エスパー限定ゲームじゃん

 :いやでも霊視できるなら余裕なのか?

 :裏で打ち合わせしてれば簡単やんけ



「そこは私たちを信じてほしい、としか言えません。私たちwith DREAMのメンバーが、積み上げてきた信用が試されるわけですね」



 :そういわれるとよわい

 :うーーーん

 :やらせとか無縁の企業だもんな

 :いつでも俺たちと向き合ってくれたいい箱だよほんと

 :ウィズドリはワシが育てた

 :信じたらァ!



「ふふっ。みなさんありがとうございます」


「……8割の人間が信じてんな。とんでもない人徳だ」


「私というより私たちの人徳ですけどね!頑張ってきましたから。みんなと、リスナーさんたちと一緒に」



 :自分に人徳があることも否定しないあたり本当に徳がある

 :神様峰様仏様〜


 うん、頑張ってきた。そこまで誇れるモノのない人生で、唯一と言えるほど輝かしくて暖かい4年間だ。



「敵わねぇなぁ」


「天童院さん相手だとVtuberとしてあっという間に追いつかれちゃいそうですけどね」


「……そういう意味じゃねぇさ」



 ふぅー、と溜め息が聞こえる。何か気に触ってしまったでしょうか。だとしたら申し訳ない。



「脇道にそれてきたな。時間の問題もあるし占い始めようぜ」


「あっ、そうですね。では一番手は私、桐ヶ崎峰がお勤めいたします。お手柔らかにお願いしますね」



 うーん。


 私の悩み。あまりこれといったものは思いつかないけれど。強いて言えばFPSがもっと上手くなりたいかも。あとはウィズドリの後輩たちとももっと絡んでいきたいなーと思ってることとか?



 なんて。本当の本当の悩みは自分でも分かってるし、ずっと前から知っている。



 昔から「不思議なことがあればいいな」と思って生きてきた。


 私の世界は普通で満ち溢れていたから。普通の家庭に生まれ、普通の両親のもと私は普通に育った。


 別にそれが悪いとは一切思っていない。愛されて育てられた自信はあるし、それがとてもとても幸せなことだと私は知っている。


 学生だった頃も普通に優等生で、普通に友達にも恵まれていて。いや、恵まれているから普通ではないかもしれないけど、そういうことではなく。


 それでも、なんとなく、たぶん、寂しかったんだと思う。


「不思議」が欲しかった。ずっと。



「わぁー!」


 小さい頃、親に読んでもらった絵本。妖怪たちが人間と仲良くするお話。


「この子たち、どこにいるの?」


 聞いたけど、親はただ困ったように笑っていて。


「いつか会えるといいね」


 そう言って頭を撫でられた。

 きっと本当に会えると思っていた私のの邪魔をしたくなかったのだ。



 それからずっと不思議が好きだった。

 スプーン曲げとか、超能力とか、霊能力者とか、占い師とか。神様も妖怪も悪魔も天使も好きで。ただそれが全部嘘だってことも大きくなるにつれ分かってしまった。


 スプーン曲げはただの手品で、超能力はただの偶然。霊能力者はただのインチキで、占い師はただのメンタリスト。神様も妖怪も悪魔も天使も仏様も、そして神様もいないんだって思うと、世界がなんだか色褪せたように感じた。



 この職業、Vtuberを選んだのも普通な人生を打破したかったから。私は普通じゃないものとずっと関わりたかった。


 4年。4年だ。私がVtuberを始めてから4年の月日が流れたけど、結局不思議なことはなかった。いや私のガチャ運は不思議だけどそういう意味じゃなくて。


 気のいい同期たち、優しいファンの人たち。FPSを始めて、負けて悔しくて、勝って嬉しくて。のめり込んでそれなりに上手くなって。正直嫌なこともたくさんあったけど、楽しかった。最高の4年間だったと思う。



 つまるところ、私はわがままで贅沢病なのだ。こんなに恵まれているのに、こんなに楽しいのに。不思議がずっとずっと欲しかった。ずぅっと寂しかった。



 幼い頃。一度だけ「不思議なこと」があった。



「ママ!パパ!どこ……!」



 親に連れて行ってもらった森の中のキャンプ。幼い私は、綺麗な蝶を追いかけて迷ってしまった。


 ひらひら、ひらひら。赤と青の色をした、鮮やかな蝶。綺麗だった。私は誘われるように森の奥へ奥へと入って行った。


 そうして当たり前のように迷って、後悔した。ここはどこなんだろう。帰りたいって。



「おや」



 突然声が聞こえて、ビクッと震えた。声がする方向をゆっくりと振り向く。



「こんなところに童が1人。大方タチの悪い妖にイタズラでもされたか」



 そこには、純白という言葉が誰よりも似合いそうな女性がいた。


 真っ白な髪で、真っ白な肌。瞳の中まで白かった。



「おねえさん、だれ?」


「知らなくていいよ。知らない方がいい」



 おねえさんが首を振る。その顔が、とても悲しそうだったのを今でも覚えている。



「これはね、夢だよ。そう思っときなさい。そうすれば、私たちともう関わることもないだろう」


「待って……!」



 そう言った後、彼女はパンと手のひらを叩いた。

 気がつけば私はテントの中で眠っていて、親も私がいなくなったことに気が付いている様子もなかった。




 きっとあの経験を、私はずっとずっと追い求めているんだ。


 あれが夢でないと。


 私の人生で唯一不思議だったあの経験が嘘じゃないって。


 私は、知りたかったんだと思う。



「夢でも嘘でもない。桐ヶ崎さんが5歳のときに経験した記憶は、全て現実だ」



 だから私は、その言葉を聞いた時。


 ただ、泣いてしまった。







 占い企画で相手が一番知りたがってること教えたらなんか泣かれたんだけど……


 おいおいこれ炎上するんじゃないの?「新人Vtuber、大手企業勢を泣かせるwww」みたいな記事乱立しない?俺は戦うからな絶対負けないぞこの野郎馬鹿野郎全員ぶん殴ってでも勝ちに行くからな(錯乱)



「ごめんなさい。ただ……嬉しいんです。それだけなんです。……ありがとう」



 :峰姐が泣いてる!?

 :今きたけど何何の何!!る!!?

 :新人何やらかした

 :マジで本物かよ

 :いや、ただコラボ企画で新人Vに悩みを話さずに悩み相談する!一番手峰姐!って流れだけど

 :無理定期

 :これ本物かぁ

 :裏で打ち合わせしてるだけ定期

 :じゃあこんな胸打たれたように泣いてる峰姐はなんだよ大女優か?え?

 :峰姐が泣いてるの初めて見た……



「信じてもらえないかもしれませんが。裏で打ち合わせなどは一切行っていません。もちろん、この悩みは、誰にも打ち明けたことはないです」


「そうだぞ俺は本物だぞだから絶対に燃やしたりするなよ悪意ある切り抜きとかマジでやめろよ馬鹿野郎」



 :めっちゃ焦ってて草

 :これがオカルトVtuber(多分本物)の姿か?

 :峰姐の羅刹相手に完璧な立ち回りした男の醜態は美味いのう

 :あーあ峰姐泣かした〜


 うるせぇ!羅刹よりもよほど炎上の方が怖いんだよ!新人なんて今が一番大事な時期なんだからな!お前らの恥ずかしい過去の全てをバラして犬のフンの上でタップダンス踊る呪いかけたろうかあぁん?



「ふふっ」


「笑ってる場合じゃないが」



 なんか俺が苦しんでるの見て楽しんでない?



「いえ、ごめんなさい。……本当に、不思議なこともあるんですね」



 そらあるよ。むしろそういうモノに関わらない人生のほうが俺は信じられねぇけどな。



「ある。この世は紙一重でそういうものと出逢わないようにできている。だが、たまに歯車が狂って行き逢ってしまう。桐ヶ崎さんはたまたま力ある人に救われたんだ」



 あのまま迷ってれば普通に死んでただろうな。手口からして人を迷わせて喰らうタイプのカスの犯行だ。見かけ次第潰してるが、昔はもっと多かっただろう。



 :なんの話してんの??

 :悩み事が本人間だけで解決されていく……!

 :おいなんの話か全くわかんねーぞ

 :小さい頃オカルトな出来事があった的な?



「想像にお任せします。ただ、私は本当に救われたとだけ。重ね重ねありがとうございます」


「知りたかったことに少し答えただけだ。そんなに感謝される謂れはないぜ」


「それでも。ありがとう」


「……ああ」



 まあ。感謝は、悪くないが。





「すみません、落ち着きました。……これ以上私に時間を使ってもらうのも申し訳ないので、次の方をお呼びしますね。それでは次のゲスト!蘇我山勝さんです!張り切って無言の相談をどうぞ!」


「うっす……よろしくおなしゃす……あのほんっとお手柔らかに……」


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