フォームチェンジはみんな大好き
「あー……魔法少女じゃないんだな」
「確かに僕って見た目はほぼ女みたいですけど。別に性別変えたいわけじゃないので……そもそもそのままで可愛いし。むしろオリジナリティあってよくないですか?魔法美青年」
ああうん、(どうでも)いいんじゃないかな。
こいつと付き合ってたら頭がおかしくなりそうだ。分霊はよく耐えたよ。えらい。120点あげるからこの人のお世話頑張ってね……
「なんでもいいが。とりあえず性能チェックするぞ。ほら、こい」
「では遠慮なく行きます!」
む。
思い切りがいい。大きく前進し腹に飛び込んできたパンチを手でとって止めてやる。意外と肉弾戦もやれるタイプか。
「魔法美青年なのに肉弾戦メインか?」
「自分の身体が思うままに動くのって楽しいんです、よっ!」
止められた後打撃を連発だから出してくる。全部止められたのをみてからハイキック。パンツ見えそうで微妙に嫌な気持ちになるな……
意外と素人臭くない。これ短期間でだいぶ鍛えられてるな。分霊の指導の賜物か、もしくはこいつの才能か。どっちもだろうな、多分。
「その系統で肉弾戦しかできないってことはないだろ。ある程度分かったから魔法の方見せてくれ」
「えーっ、もうちょい触れ合いたかったのに……」
そういうの本当にいいんで……きついっす……
「その顔は僕も悲しくなります……分かりましたよ!でもこのフォームだと無理なので一回チェンジしますよ」
「チェンジ?」
こいつ。まさか。
「母なる大地よ!堅牢たる加護を今ここに!」
星野の身体がまた光に包まれる。そうして変化したのは、茶色を基調としたスタイル。ほう。
力の性質が変化したな。
「テラ・フォーム!……フォームチェンジっていいですよね」
「否定はしない」
しかし……複数の変身か。かなり珍しいな。
変身系ってのは理想の自分があることが前提の力の形だ。性質上、いくつも理想の自分があるってのはそうあることじゃない。魔法少女が好きってのがこう関わってくるとはね。面白い。
「気に入った。見せてみろ」
「分霊さんの方もそれ言ってくれました!でも何度言われても嬉しいですね!」
星野が両手を前に突き出し、俺を眼前に捉える。力が俺の下に集中しているのがわかる。こりゃアレだな。
下から一丁前に突き上げてきた土塊を軽く踏み潰してやる。そのままボロボロと崩れていき、土へと帰った。
「……マジですか」
「分霊は避けてたか?悪いが俺は分霊の万倍強いからこれといって小細工が必要ないんだわ」
もっとも、分霊だってまともに直撃したところで大した傷も負わないだろうが。
「力の挙動をあまり見せないようにしろ。見えるものには察されて簡単にかわされるぞ。後発動もちょい遅いから練習しな」
「それ、分霊さんにも言われました……」
がっくりと肩を落としている。修行始めたてでこんだけ戦えれば十分なんだよ本来は。甘えんな。
「あ、と、は……ちょっと防御性能も見るかね」
「えっ?わっ」
かるーく、軽く、ステップを踏むように移動して星野の目の前に立つ。そして限界ギリギリまで手加減したデコピンを食らわせてやる。
「へぶしっ!!!」
おーよく吹っ飛んどる。どれどれ。
思いっきり崖に激突して土煙が立つ。が……全然平気そうだなありゃ。傷一つないわ。
「流石に、いきなりは、ひどいです……」
「仮に怪我しても治してやるから気にすんな。しかし硬いな。そのフォームの特徴か?」
「うぅ……天童様の僕の扱いが酷い……でもそれはそれで……」
気色悪いこと言ってないで早く答えてくれんかなぁ!もう一回デコピンしたろうか!あァ!?
「もーすぐ怒るんだから。そんなところも好き。あっはいはいそうですこのフォームの特徴です、大地の力を使えるようになるのと、防御力がかなりアップします。でも基本の状態に比べて動きはちょっと遅くなりますね」
「発展途上って感じだな」
いやしかし、悪くない。むしろ良い。これだけ短い期間でここまで力を使いこなせるなら十分すぎるほどだ。
「うっし、決めた。テラフォームを含めて4種類フォームチェンジできるようになったらVtuberやろうぜ」
「えっ!いいんですか!?」
本当はもうちょっと先のつもりだったんだがな。魔法紳士美少女Vtuberとかいうふざけた存在が出てこなければ。早めにデビューしてあれと絡んだ方が面白くなりそうなんだよな……修行の世話も押し付けられそうだし。うふふ。
「……なんか悪いこと考えてません?」
「いいや?なんにも?ま、力の修行を頑張ることだ。頑張れば頑張るほどVtuberデビューも早くなるぞ」
「よーっしやるぞー!」
元気が良くて単純でいいね。素晴らしい。頑張ってくれたまえ。俺も色々やりたいことあるんでね。
「今日はこれくらいで良いか。んじゃ解散ってことで」
「えっ!」
なんだよ。そんな驚いて。力の確認以外何もやることないぞ今日は。
「この後天童様とのイチャラブデート回は!」
「存在しません。帰れ」
「そんなー!!!頑張ってるんだからご褒美くださいよ!天童様とたくさんいいこ」
うるせぇ帰れ。万の道。
よし。帰ったな!じゃあ俺別のところに出るから……あ、その前に。
「分霊」
「あいよ。どうだ、うざかっただろ」
いや本当にそうだね。お前はよう頑張っとる。これからも地獄を見てくれ。
「勘弁して欲しいんだがな…………やっぱ、感じたか」
「ああ。あれは化ける。俺の一個下くらいにはなれるかもな」
才気の塊だ。おそらくあれは星を起因として万物に変化する力。超越までたどり着くことができれば恐ろしいほどの強さを発揮するだろう。気が長い話にはなるがな。
「大事に育成しないとな」
「そうだな」
目的のためにも。保険にもなるしな。
「じゃ、育成頑張れ」
「変わってくれねぇか?」
「やだ」
「死ね」
うるせぇ。じゃあな。もうおうち帰る!
ひょいっとね。飛べばあら不思議、そこは見慣れた我が家なのだった。
「ああ、家マジで落ち着くな……」
やっぱ必要なのは我が家だよ。さて。
あと11人のチェック、流石にしんどいなぁ。なんか問題があればすぐわかるししばらくは良いか。1人ずつしっかり様子を見ていくことにしよう。決して一気にやるのが面倒とかそういうわけじゃないよ。うん。
そんなこんなでうだうだしてると、スマホに通知が届く。お?先輩からじゃん。
【企画力の件についてアポ取れたぜ、感謝しろよ】
マジで天使か何かか?本当に先輩様々ですよ。あんたなんでもできるな。よっ大将。
【愛してるぜ先輩】
【それはなんか嫌だな……】
あれ?もしかして今俺って星野みたいな感じになってる?やだ、死にたい。
妙に影響された気がして気が沈んだのだった。
【本物】オカルトVtuber【現る?】 高菜田中 @takanatanaka
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