回想、そして


 知ってることを話すのも変な話だが……俺は元々祓屋の家系で生まれたんだ。

 先代とか先先代はバリバリの武闘派だったみたいなんだけど俺そっちの才能がなくてさ。


「お前までこんな家業を継ぐ必要はない、好きに生きろ」って先代……俺の母ちゃんは言ってくれたんだけど、俺祓屋やってるばあちゃんと母ちゃんが好きだったんだ。


 だからどうしても、意思だけでも継ぎたかった。

 バケモンから人を助けるって意思だけでも。


 だから母ちゃんがバケモンとの戦いの後遺症で、もう仕事ができなくなった時に決めたんだ。俺は俺なりのやり方で家を継ぐって。


 幸い、戦いの才能はなくとも俺にはよく見える目があった。オカルト的な存在は大体見えるし、危ないエリアや人間性まである程度見えた。その人が持ってる力や才能もな。


 この力を活かして元々霊能系の探偵……占い師か?みたいなことやってたんだわ。

 割と頑張ってたと思うぜ?しょぼい霊くらいなら道具でなんとかできてたし、あ、この人このままだとやべーなって人がいたらいろいろと相談にも乗った。結構お安く良心的にな!


 そうやって仕事も安定してきた頃にな、依頼が来たんだよ。自分が所有してる土地……まあ山だな、それが呪われてるらしくてさ、迷い込んだ人がよく亡くなってたんだってよ。


 流石に死人が出るような依頼は受けたくなかったんだが、いろいろ頼ったけどどこも解決してくれない、もう貴方しかいないんだ!助けてくれ!って言われてほっとけなくてよ。


 馬鹿だよなぁ、俺様子を見るだけならつってその山見に行っちゃったんだわ。





「おーこわ……確かにとんでもない奴が住みついてんな……」



 その山にはやったらおっかねぇ妖がいてな。大木ほどの背丈がある鬼だったんだわ。


 いや流石にこれはどうしようもねぇ、流石に逃げるかってなった時に後ろから声が聞こえてさ。



「にいちゃんさっさと祓っちゃおうよー」


「そうだな。収穫するのにちょうど良さそうだ」



 振り返ると妙な白装束きた……姉妹?だか兄弟だかわからん子供達がいた。

 明らかにこっちの世界の人間だったが、心配になって声かけたんだ。



「お、おい!ここら辺は危ねぇぞ、やべぇ妖がいるんだ」


「あ?あんた誰?」


「そんなこと分かった上で祓いに来たんだよ。見てわからんのか?馬鹿が」



 祓いにきたってことは武闘派なんだなって分かってさ。ほらこの世界の実力って見た目によらないだろ?だから俺も安心したんだわ。



「あ、ああ、すまん……ありがとう、俺じゃ無理だからマジで助かるわ。あんたたちも地主に依頼を受けてきたのか?」


「そだよーん。まあ力が付くまで放置してたけどね〜」


「より強い妖を調伏した方が力になるからな。いくらか人を喰うまで待っていたわけだ」



 効率的だろう?とでも言わんばかりの言い方で。


 俺は信じられなくて固まっちまった。



「へ……?」


「なんだその顔は。文句でもあるのか?」



 だってつまり、助けられるはずの人を完全に自分たちのエゴで助けなかったってことだろ?


俺はそれが、信じられなかったんだ。そんな人間がいるって信じたくなかった。若かったんだな。



「お前ら人の命をなんだとッ──」


「あーうるさいうるさい。説教とかいいって」


「力の前に言葉など何の意味もない。どれ、少し教えてやろう」



 カッとなって説教しようとした後──、まあ、なんだ。ボッコボコにされたよ。


 そいつらが呼び出した餓鬼に囲まれてさ。全身あざだらけになるまで痛ぶられた。



「がっ……かはっ……」



 元々戦えないし戦うつもりもねぇからろくな抵抗できなかったし。



「木っ葉が。二度と手向かうなよ」


「戦う力もないのに善人ぶるなんて馬鹿みたい。一生そんな偽善振り翳して生きてなよ」



 そのあとついでみたいにバケモンを倒して行ったあいつらを見て、怖くなって。


 力がないと、誰かを助けることもできねぇんだなって思っちまった。絶対そんなことねぇ!って言いたいのによ。


 それからだ。バケモンと関わるのが怖くなっちまった。今までそりゃ軽く怪我したことくらいはあるけどさ、一歩間違えりゃ死ぬ目に会うんだってことが俺は分かってなかったんだ。


 そのあとは。オカルトと関係ない仕事を探して。今まで家業に関することしか知らなかった俺は普通の仕事にはつけなくてな。そこを今の会社が拾ってくれて、晴れてVtuberになれたわけだ。




「結局──俺が馬鹿だったんだ。力も、覚悟もないのに家業を継ごうとした。それが間違いだった」


「まあ実際人間が呼び出した餓鬼程度にボコボコにされたくらいで折れるくらいなら向いてないと思うわ」


「……言うねぇ」


「こう言われたかったんだろうに」



 ハンバーグをぺろりと食いあげた目の前の男が言う。そうだな。そうだと思う。



「それでも諦められねぇんだろ?いまだに人を助けたいと思っている。自分ができる範囲で、自分に助けられる人を」


「……ああ。それがどんなに小さい行いだったとしても」


「ばーか!」



 ケラケラと、本当に楽しそうにケラケラと笑う男を、見る。



「それが器を知るってことだ。人間1人でできることなんて大したことはねぇよ!それでも誰かを助けたいと思うその気持ちこそが善性だ!人間ってもんだ!」



 すげぇことだぜと笑って言ってのける。



「俺は心の底から尊敬するよ。あんたと──先輩と会えてよかった」



 おいおい。やめろよ。そんなこと言われたら。



「……ありがとな」


「いいってことよ。これが俺にできる小さな行いってなもんだ」


「いいやつだな、お前」



 少し、救われた気になっちまうよ。






「それはそれとして。その馬鹿双子しばきにいくぞー!」


「えっ」


「俺は並の人間じゃねぇからよぉ!解決するなら根本からやるんだわ!大きな行いやるぞオラ!」


「あのちょっといい感じにまとまったと思ったんすけど」


「いやトラウマ解決してないじゃん。いいから馬鹿泣かせて鬱憤晴らすべ。しかもうちの家の者だしほんまあいつら殺したろうかな……いやほんと申し訳ない」


「いやいやいや」


「企画書ももう作ってんだよね!ほら見てほらほらいい感じだろほら」


「結局やることになるんだ……」



 もっと穏便な方法でいいじゃん!何だったんだよこの時間は!


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