出前もやってますが、戦士もやってます

白鷺(楓賢)

プロローグ

静かな路地裏、ひんやりとした空気が漂う中、ひとつの賽銭箱が音もなく現れる。人々の目には見えないその箱は、苦しみ、悲しみ、そして恨みの声にのみ応える特別な存在だ。今日もまた、一枚の紙と千円札が投げ込まれた。


「お願いです…助けてください…」


かすかに震える声が賽銭箱の前に消えた。


その頃、街の片隅に佇む小さな中華屋では、ひとりの女性が忙しく鍋を振っていた。彼女の名は李華(リファ)。昼は町中華屋の店主として、夜は密かに街を守る戦士として生きている。


「注文の麻婆豆腐、できましたよ!」


陽気な笑顔で客に料理を差し出す彼女。しかし、裏では街に潜む悪党たちの影が忍び寄る。依頼が来るたびに、李華は岡持を手に戦士へと変身し、街を守ってきた。


そして今夜も、隣の路地裏で賽銭箱が反応していることを、彼女は知っていた。やがて夜が深まる中、李華は鍋を置き、岡持を手に静かに立ち上がった。


「出前のついでに…また一仕事ってわけね。」


静かに呟くと、彼女は店の扉を開け、街の闇に姿を消した。

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