出前もやってますが、戦士もやってます

第2話 苦しむ依頼人

翌日、李華はいつも通り中華屋で鍋を振っていた。昼間の彼女は戦士の顔など微塵も見せない、ただの陽気な中華屋の店主だった。店内にはいつもの常連客たちが座り、談笑しながら料理を待っている。

「麻婆豆腐、出来上がり！はい、お待たせ！」

李華が笑顔でお客に料理を出すと、常連客の一人が話しかけてきた。

「おや、李華さん。最近忙しいみたいだね。夜中に街中をうろうろしてるって噂だよ？」

「え？私が？そんなことあるわけないでしょ。毎晩ちゃんと寝てるわよ！」

彼女は冗談っぽく笑ってみせたが、内心では少し焦っていた。最近、夜中に変身して悪党を倒す活動が増えているため、誰かに気づかれてもおかしくはない。だが、戦士としての姿は絶対に知られないようにしなければならなかった。

その時、厨房の奥から、微かに鈴の音が響いた。

「……また来たのね。」

鈴の音は、路地裏にある賽銭箱が反応した合図だった。彼女は誰にも気づかれないように、そっと厨房の奥へ進んだ。

路地裏に立つ賽銭箱には、また依頼の紙と千円札が入っていた。彼女は紙を取り出し、読み上げた。

「夫の暴力に耐えられません…助けてください。」

その瞬間、李華の心がかすかに揺れた。暴力に苦しむ人々を見過ごすことはできない。彼女は一瞬で岡持を手に取り、店の外へ出た。

「また一仕事だわね。」

依頼人の住所を頼りに、李華は町の外れにある古びたアパートへと向かった。そこに住む女性が、暴力的な夫から逃げることもできず、助けを求めていたのだ。道中、夜の闇が深まる中、彼女の心は次第に戦士としての覚悟で満たされていった。

アパートに着くと、ドアの向こうから怒号が聞こえてきた。

「何度言えば分かるんだ！お前は俺の言うことを聞いてりゃいいんだよ！」

李華は静かにドアに手をかけた。すると、夫が暴力を振るおうとしている光景が目に入る。恐怖に震える女性が、壁に追い詰められていた。

「あなた、やめなさい！」

彼女の声が響くと、男は驚いて振り向いた。突然現れた李華に対して、憤怒の表情を浮かべた。

「てめぇ、誰だ！俺の家に勝手に入ってくんじゃねえ！」

「依頼を受けて、やって参りました。あなたを始末するよう、頼まれたのでね。」

そう言うと、李華は再び岡持をバズーカへと変形させた。巨大な武器を目の当たりにした男は、一瞬たじろぐが、すぐに怒りが爆発した。

「ふざけやがって…そんなもんで俺を止められると思ってんのか！」

男が襲いかかってくるが、李華は冷静にバズーカを構えた。

「これで終わりよ…」

バズーカが火を噴き、衝撃波が男を吹き飛ばした。彼は壁に叩きつけられ、そのまま倒れ込んだ。意識を失った男を確認すると、李華は静かにバズーカを岡持に戻した。

震える依頼人の女性に近づき、優しく手を差し伸べた。

「もう大丈夫よ。これであなたは自由よ。」

女性は涙を流しながら李華の手を握った。感謝の言葉を口にしようとするが、感情が溢れ出て言葉にならない。

「ありがとう…本当に…ありがとう…」

李華は微笑んで頷いた。そして、依頼を果たした後、彼女は静かにアパートを後にした。町は再び静けさを取り戻し、李華は日常へと戻っていった。

「また一つ、街を守れたわね。」

彼女は、次の依頼が来る日を心のどこかで待ちながら、中華屋へと戻った。

次の戦いが始まるその日まで──。