出前もやってますが、戦士もやってます

第11話 静けさの中で

黒龍との激しい戦いが終わり、街は一時的な静けさを取り戻していた。町の人々は何事もなかったかのように日常を送っているが、李華の心には次の戦いへの不安がわだかまっていた。彼女は中華屋で普段通りに鍋を振るいながら、少しずつ平穏な生活に戻ろうとしていた。

「また餃子一人前、お待たせしました！」

明るく店を回す李華の姿に、常連客たちも笑顔を浮かべ、店は活気に溢れていた。しかし、彼女の頭の片隅には常に「街の秘密」と黒龍が口にした「強大な力」の存在がちらついていた。

その日の夕方、閉店準備をしていた李華の元に佐藤が訪れた。いつもは黙って餃子を食べる佐藤だが、今日は何か話がありそうな雰囲気だった。

「李華ちゃん、少し話せるか？」

「佐藤さん、どうしました？」

李華は佐藤にカウンターの席を勧め、二人は静かに向き合った。

「この町は今、一時的に平和になったが…次に備えなければならない。」

佐藤の顔はいつになく真剣だった。李華もその言葉の意味を理解していた。黒龍を倒したことで、町の裏社会は崩壊したかのように見えたが、完全に終わったわけではない。

「佐藤さん、例の『強大な力』について、何か分かったんですか？」

李華が尋ねると、佐藤はしばらく考え込んだ後、静かに話し始めた。

「実は、俺の昔の仲間に、この町の地下の秘密について調べていた奴がいる。今は引退して静かに暮らしているが、もし本当にその力が悪用されるとすれば、そいつに話を聞いてみる必要があるかもしれない。」

「昔の仲間…？彼に会えば、何か手がかりが掴めるんですか？」

「そうだ。だが、そいつは人付き合いが嫌いでな、簡単には協力してくれないかもしれない。だが、俺が説得すれば、何とかなるかもしれん。」

李華はその言葉に少し安心したが、すぐに気を引き締めた。地下に眠る「強大な力」が町の平和を脅かす存在であるなら、早急に対策を立てる必要があった。

「その方に会いに行きましょう。私も同行します。」

「いや、俺一人で行く。奴とは長い付き合いだが、あまり他人を信用しない性格だ。まずは俺が話をつけてくる。その間、お前は町の様子を見張っておいてくれ。静けさの裏で何が起きるか分からん。」

李華は佐藤の決意を感じ取り、彼の言葉に従うことにした。

「分かりました。佐藤さん、気をつけてくださいね。」

佐藤は静かに頷き、店を後にした。李華は彼を見送りながら、自分にできることを考えていた。黒龍を倒した後の静寂は、一見平穏なものに見えるが、李華はそれが嵐の前の静けさだと感じていた。

---

その夜、李華は一人で街を見回りながら、かすかな不安を抱いていた。夜の街は静まり返り、人気のない路地を歩いていると、遠くからかすかな足音が聞こえてきた。

「誰かいる…？」

李華は周囲を警戒しながら足を止めた。その時、暗闇から一人の影が現れた。彼はゆっくりと李華に近づいてきたが、どこか様子がおかしかった。顔に覆いをしていて、まるで何かに追われているかのような表情だった。

「あなたは…？」

李華が尋ねると、男は低い声で答えた。

「俺はこの町の住人だが、最近奇妙なことが起きている。この町の地下で何かが動いている。あんたに伝えなければならないと思って、こうして来たんだ。」

「地下で…？何が起きているのか知っているんですか？」

「はっきりとは言えないが、地下で動き出しているものがある。黒龍が言っていた強大な力とは別の何かが…」

李華はその言葉に動揺しながらも、冷静さを保った。

「それはどこで起きているんですか？詳しく教えてください。」

男はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと答えた。

「地下の一番奥だ。そこに隠されているものが、再び目を覚まそうとしている…」

そう言い残し、男は姿を消すようにその場を去った。李華は再び不安を感じ、地下に眠る秘密が思った以上に危険であることを実感した。

「地下で何かが動き出している…急がなければ。」

李華は急いで中華屋に戻り、佐藤の連絡を待つことにした。地下で起きている動きを止めるため、彼女は再び戦士としての覚悟を決めていた。静けさの裏で何かが蠢いている。新たな戦いは、すぐそこまで迫っていた。

### 続く