第7話 絶対的強者

パァンッッ!


「良い蹴りだ」

「褒められた気が…しませんッッ!はぁっ!」

「詰めが甘い」

「ガハッ…流石です」


現在、場所を移動して闘技場に傭兵達とイザベラ、そして観覧席にはアステールや大臣などの重鎮が座っていた。もちろん騎士団長も。


今戦っていた傭兵は格闘のセンスが良い。しかし最後の最後まで殺意を感じなかった。根は優しいのだろうか。


「さて次は?」

「私が」

「お前も来ていたか…サキ」


彼女は以前、東の国に行った時に拾った孤児である。イザベラが暇な時は彼女に剣術を教えていたので剣の技術だけなら引けを取らない。


「そうだな…ここは真剣でいこうか」

「了解。全力で行かせてもらいます」


サキの使う武器は刀。それに比べてイザベラは大剣。しかしその大剣が問題であった。騎士団長が動揺しているのに気づき、アステールは声をかける。


「あっ…あれは…」

「どうかしたのか?」


「見間違いかもしれません。しかしあれは…どう見ても最上級の…」

「かの昔、竜を一撃で倒したとされる大剣。通称『崩竜剣ほうりゅうけん・グリムス』ですな」

「あ、あなたは…」


国王の後ろからスッと現れる老紳士。セバスチャンであった。騎士団長は冷や汗が出てきた。


「気配に気付けないとは、まだまだですね」

「セバス様…申し訳ありません」

「怒っているわけではないですよ?どのみち貴方も戦う事になるのでイザベラ様の戦い方を見た方が良い事を伝えたいと思ったので」

「えっそれはどうy…」


ガァン!キィン!


どうやら始まったようだ。お互いの刃が重なるたびに大きな音をたてながら衝撃波が発生する。サキは自身の素早さを活かしてイザベラに斬りかかるがあまり効果はない。


ちなみにイザベラに剣術を教えられたサキであったが、彼女の剣は『技』を重視した剣術。それに対してイザベラは『力』を重視した剣術であった。


簡単な言い方をするなら、攻撃を受け流しながら戦うのがサキで真正面から打ち破っていく戦い方をするのがイザベラである。


「動きは良い。だが私は一歩も動いていないぞ?」

「くっ…このぉ!」


どれだけ斬ろうとしても止められるか最小の動きで避けられる。まるで未来が見えているかのような動きであった。


果敢に攻めるサキであったが、徐々に勢いが落ちてゆく。体力がなくなってきたとその場にいる誰もが分かった。


それでもサキはなんとかイザベラの体勢を崩そうと斬ろうとするが効果がなく。サキの方が地面に手をついてしまった。


「はぁ…はぁ…」

「限界か?」

「いえ…まだやれます!」

「……足は震えてるぞ」


なんとか刀を杖代わりにして立ち上がるが、およそ30分間全力で動いていた彼女は限界であった。


「じゃあ私から行くぞ。これに耐えたらサキの勝ちでいい」

「はいッッ!」


大剣を背中に担いで、超前傾姿勢になるイザベラ。まるで限界まで縮んだバネのように見えた。


「ゆくぞ」


パァンッッ!


大きな破裂音と共に、一気にサラに詰め寄り剣を抜いて斬りかかる。間一髪で受け止めるが今のサラにはその勢いを止める力はなかった。


吹き飛ばされて壁に激突したサラは気絶して倒れ込んだ。なんとか受け身は取れたらしいので怪我はなさそうだ。


「医療班。彼女を頼む」

「は、はい!」


運ばれていく彼女を横目にイザベラはニヤリと笑い、呟いた。


「成長したじゃないか」




「これが国潰しと言われる所以ですか…」

「やはり彼女は凄い」


観覧席で見ていた人らは驚いていた。しかしアステールやセバスは見慣れていたのか表情を変えずに自然体のままだった。


するとアステールは大臣らに向かって立ち上がった。


「皆のもの…よく聞け。彼女を辺境伯にさせた理由はあの絶対的な強さを持っているからだ。もし何か彼女が我らに刃を向けようものなら我が国は終焉に繋がる。気をつけよ」

「「「「はっ!」」」」


再び目を向けると、彼女はまた別の傭兵と試合をしていた。傭兵達も強い。それは分かっている。最低でも傭兵1人、1個大隊の強さは持っているはずだ。それなのに彼女は……単体で国を容易に潰す事ができる。


「本当に味方でよかった…」


その日、傭兵約250名はイザベラに負けた。戦い終わっても彼女は息を切らさず、まだ戦える者はいないのかと呼びかけていた。




翌日、再び闘技場に集まったイザベラと傭兵達。そして隣には騎士達が集まっていた。


騎士は傭兵を見て馬鹿にするような事を話している。まぁ傭兵達は全く気にもしなかったが


「姐さん」

「なんだ?」


ギャランが話してかけてきた。


「騎士だからどんなものだと思いましたが、弱そうですね」

「強かった奴らは引き抜いたからな。まぁ国に忠誠を誓っているからと断った奴もいたが…」

「えっ?そんな事していたんですか?」

「私が個人でやっていたからな。しかもアステールが王に就く間、つまり国が混乱しているのを狙ってやったからな」



彼女はもっと強い人材はいないのかと彼が王に就任する前に探しに探してその当時の騎士団長などを引き抜いていたのであった。そのため残ったのは戦争などを経験した事がない騎士の集まり。正直言って弱いのである。


ちなみにこの国には第一から第六騎士団の6つの騎士団がある。それぞれ役割が違うのだが、今回戦うのは街の警備の役割を持つ第六騎士団である。


「確か…騎士団長は貴族の…」

「そうだ。何も分かっていない貴族が騎士になるというのはどうかと思うがな」

「それは同感です」


するとギラギラとした鎧を身につけた男がこちらに歩み寄ってきた。


「すまない。少し良いだろうか」

「なんだ?」

「私は第六騎士団、騎士団長のフィルと言う。今日はよろしく頼む」

「ヴァルデン地方を統治しているイザベラだ。よろしく」


お互いに手を握り、握手した。


「ところでこの騎士達を見てどう思う」

「正直に言っても?」

「全然構いません」

「弱い…と思った。隊列も何もかもがだらしなくてダメだ」


それを聞いてフィルは頷いていた。予想通りとでも言うのだろうか。


「何故お前は納得しているのだ?」

「まぁ…自分自身弱いですから。我が第六騎士団は簡潔に言えば負け組の集まりなのです」

「どうゆう事だ?そんな話聞いたことがない」


その後模擬戦が始まるまでの短い時間であったが、その理由を知ることができた。どうやら1人1人訳ありとのこと。ちなみにフィルは当主争いに負けて名ばかりの騎士団長として就任したらしい。


その結果としてやる気がなく、横暴な騎士団ができたとのこと。



「やれやれ…アステールにもっと金を払わせるしかなくなったな」

「では始め!」


騎士団の内部事情は一旦置いておいて、戦闘に集中することにした。今回の模擬戦は人数が多いので闘技場だと厳しい。


そのため王都から少し離れた平原にて大規模な模擬戦闘をするらしい。実践形式なのでどちらの陣営も良い経験になるはずだ。





















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