第5話 断罪
国王との会談から時は経って、ついにイザベラが演説する日になった。クローネとセバスチャンは王都の屋敷にて待機してもらうことにした。
議会は王城の隣にある議事堂という場所で行う。そして王都に住む貴族、通称「中央貴族」がこの議会に出席して政策を決めていくらしい。一応平民も何名かはいるが潰されるのが怖くてあまり強気ではないらしい。
まぁ上からの圧力などで、現国王の政策は妨害されており上手く進めれてないのが現状である。
「今日はよろしく頼む」
「あぁ頼まれた」
今は安全面などを見て、国王と一緒の待合室で議会が始まるのを待っていた。ふとアステールの方を見ると、少し体調が悪そうであった。緊張しているように見える。
「緊張してるのか?」
「いつものことだ。次期に治る」
「そうか」
するとコンコンとドアをノックする音が聞こえた。もうすぐ議会が始まる。
「よし、行くぞ」
待合室から出て国王と2人で議場に向かった。この時、扉の前に立っていた兵士がいたのだが、国王と実力派の辺境伯が並ぶ光景を見た時は何もしていないのに緊張で汗が止まらなかったという。
すでに議場には、代表の貴族と平民が揃っていた。どうやら1番最後は私達だったらしい。私の姿を見るなり、ザワザワと議場が騒がしくなった。
「それではな」
「あぁ健闘を祈る」
「お互いにな」
議場は丸く作られており、中央に演説台がありその周りを囲むようにして階段状に席が作られている。イザベラは1番外側に座り、アステールは1番内側の席に座った。
「静粛に!全員集まりましたね。それでは議会を開きます」
議長がカァンッと槌を叩いて始まった。イザベラは出番が来るまで何もやることがないのでしばらく議会の様子を見ることにした。
「〜は〜であり!」
「しかし〜は〜」
「つまらん」
見てて思った感想である。長々と同じ事しか言わない。やはり腐っていると思った。おそらく今話している奴らは公爵家の息がかかった貴族。どうにかして国王派を出させないつもりなのだろう。
「公爵家……あの国王と同じ席列にいる奴らか」
公爵家の当主達は何もせずにただ話を聞いているだけであった。たまにこちらをチラッと見てくるがすぐに目線を逸らされた。
「では次にとある人に演説をしてもらいます。ヴァルデン辺境伯…こちらに」
「了解した」
やっと私の番が来た。椅子から立ち上がり、コツコツと階段を降りてふぅ…と一息ついてから演説台に上がった。
「それではお願いします」
「貴族の皆さん、平民の皆さんごきげんよう。私はヴァルデン地方の領主をやっているイザベラ・フォン・ヴァルデンという。以後よろしく」
するとざわざわと騒がしくなり、「あの人が…」「貴族傭兵」「国潰しの異名を持っている…」などなどが聞こえた。
「静粛に!静粛に!」
議長が静粛にと収めようとするが一向に止まる気配はない。するとイザベラはダンッと演説台を叩いた。
「少しは静かにしろ。たかが自己紹介で騒ぐな」
ドスの効いた声を出しながら威圧すると一瞬で静寂になった。ある貴族は緊張からなのか脂汗をかいていた。
「そうだ。それでいい。さて今回私が国王に呼ばれたのは私がどちらにつくのかの意思表明である」
静寂の中でバンっと演説台を叩いた。
「結論から言おう。私は国王派につく。形だけの公爵家の下にはつかない」
すると再び、ザワザワと声が聞こえてくるようになった。「あの傭兵が…」「だったら私も…」「今までは公爵の下にいたが…」など国王派に行こうと考える者たちが現れ、一気に流れがこっちに向いた。
「議長!少しいいだろうか!」
どんどん騒がしくなると思いきや、突然大きな声が響いた。声の方向を見ると、少し太った男がいた。国王と同じ列にいるので公爵家だとすぐに分かった。
「何か意見が?」
「ヴァルデン辺境伯。たとえあなたが国王に味方すると言っても何も変わらないのだよ」
「それは何故だ?」
ニヤリと笑いながら彼はこう言った。
「こちらについている公爵家は3つ。どうやっても国王の政策は通らない」
「ふむ…確かに貴様の言う通り。ならもしそれを覆せるものがあるなら?どうなる?」
「なに?」
イザベラはパチンっと指を鳴らした。するとどこからか紙がひらひらと降ってきた。1人1人に紙が行き渡るのを確認し、話し始めた。
「これはなんだ?」
「3つの公爵家の犯罪を表したものである。公爵家とは言ってもそちらの3人…つまり当主の犯罪だな」
再び騒がしくなった。なんとなく知っていたという人もいれば、全く知らなかった人もいる。どうやら隠蔽されていたように見える。
かなりうるさくなったので議長が静粛に!と呼びかけるとすぐに静かになった。
「こ、こんなの出鱈目だ!」
「ならその動揺はなんなのだ?」
「ぐっ…!」
彼以外の2人の公爵を見ると青ざめた顔でブルブルと震えている。
「では一つ一つ読み上げていこう。彼らが犯した罪を。ちなみにこれらは全て王国騎士と私の傭兵団が協力して調査したものである」
それからイザベラは彼らの犯した罪を説明し始めた。奴隷売買や賄賂など、細かく説明するとキリがないほどに彼らはやりすぎていた。
「とまぁ……中々に酷いものだ。そこで私はそこにいる3人を我が領地に傭兵として雇うことにした。書類はもう揃えてある」
何か言いたそうな顔をした公爵らにイザベラは目を向けた。
「普通なら処刑だぞ?傭兵になれるだけありがたいと思え。それに公爵家は全員武術には優れているはずであろう?」
「……クソがクソがクソがぁぁ!」
そう言って当主の1人は突然剣を抜いて切りかかってきた。ちなみにこの議会で剣を抜くという行為は「私はこの国を攻撃する」という意味合いになる。つまり王国との敵対を意味するのだ。
「お前…ここで剣を抜いたその意味を知った上での行動か?」
「あぁ!そうだ!やってきたことがバレたんだ。後戻りはできない」
「そうか。ならばこの書類はなかったことにしよう」
彼らの救済措置であった書類がビリビリと破られ跡形もなくなった。
「すまない。国王…少し手荒な真似するが良いか?」
「構わん。予想はしていた」
はぁ…と国王はため息をついた。彼の表情は分からない。しかし落ち込んでいるように見える。
「よそ見するなぁぁ!」
「うるさい…にしても動きが遅すぎるな。避けるまでもない」
彼が振り下ろした剣を素手で止め、剣を折り彼の腹に拳をぶつけた。そして彼は吹き飛ばされ壁に激突した。
「グハッ…」
「皆のものよく聞け!この書類が無効になった事でそこの3人は貴族ですらなくなった!もはや犯罪を犯した罪人である!そして罪状を踏まえて下される判決は……誰が見ても万死に値する!」
自分の鞘に納めていた剣をガンッと突き立てる。この剣を突き立てる行為というのは「勝敗が決まった」という動作である。つまり判決が確定したという意味を持つ。
「なお、次の当主は決まっているので順次発表されるであろう。あとは頼んだぞ?王様?」
「分かった」
「では失礼する」
すでに1人は壁に激突して気を失っており、残りの2人はへなへなと床に倒れ込み動く様子はない。そのことを確認したイザベラは静寂に包まれた議会から出て行った。
後日、王の命令によって彼らは処刑された。
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