第6話 召集

公爵家は1つの家を除いて当主が変わった。これによって国王派の一強となり有利に政策を進めることができる。


今は国王に呼ばれて、昼食を一緒に食べ終わったところであった。


「まずはありがとう」

「依頼だからな」

「正直…まだ私が力足らずのところが多い。公爵如きに足がすくんだ」


アステールは悔しいのかため息をついていた。それを見たイザベラは呆れたように言う。


「シャキッとしろ。そのままだとお前は臆病な国王というレッテルを貼られるぞ。まぁその慎重さが良いところでもあるがな」

「今のは褒められたのか?」

「どっちもだ」


緊張がほぐれたのかフフッとアステールは笑う。イザベラはそれを見てニヤッと笑う。



「さて……また君に依頼を受けてもらいたい」

「いいぞ。まだ王都には滞在するしな」


アステールは依頼書を見せてきた。どうやら騎士の育成をしてほしいという依頼。しかしイザベラは少し疑問に思うところがあった。


「……ちょっと待て。この国の騎士は十二分に強いはずだ。何かあったのか?」


アステールは頷きながら訳を話す。


「確かに上の立場の騎士は強い。だが最近…騎士という理由で市民に圧力を与えているという報告が多い」

「なんとかできないのか?」

「私もなんとかしようとしている。しかし…」


敵対する国家があるとはいえ、今は何もなく平和な日々。騎士が腑抜けるのも頷ける。それに騎士は役職として強い。下級の騎士だろうと騎士は騎士だ。無理強いはできないのだろう。仕方ない……


「ふむ……なら傭兵団を呼ぶことにしよう。鈍っているかもしれないしな。もし了承できないなら私1人でもなんとかなる」

「そうか」


少し考える素ぶりを見せたアステール。しかしすぐに頷いた。


「良いだろう。役職を自分の強さだと勘違いしている者の心を折らせるには十分だ。許可しよう。それに私も彼らに会いたい」

「最後に会ったのはあの時か…国王に就いた…」

「懐かしいな」

「あぁ」


この国が崩壊しかけていた時の依頼でアステールと出会ったことを思い出した。少し前のことなのにとても懐かしく感じる。イザベラは紅茶が入ったカップを置いて立ち上がった。


「連絡はどうする?私から領地に連絡してもいいが……」

「いや問題ない。この笛を使う」


そう言って胸元から赤く輝いた笛を取り出した。吹くところが3つに分かれている。アステールはそれを珍しそうに見ていた。


「初めてみる笛だな」

「私が傭兵時代に彼らを呼ぶ時に使っていたものだ。近いと全く聞こえないが遠くにいればいるほどハッキリと聞こえるのだ」

「何かと便利そうだな…だが何故3つにわかれているのだ?」


そのことかとイザベラは呟き、吹き口に指を指した。


「この3つの吹き口はそれぞれに音階がある。この3つを組み合わせ次第で私の言いたいことが伝わる」

「暗号みたいなものか」

「それじゃあやるぞ」


イザベラは笛を咥え、息を吸い思いっきり吹き込んだ。右、中、右、左、右という順番で吹いたが部屋の中は静かなままだった。


「あと数刻もすればここ王都に数百人の傭兵が集まるだろう」

「じゃあ外に出て待つことにしよう」

「そうだな。面白いものが見れる」


2人は城を出て、王都の外に出た。流石にそのままの服装だと一瞬でバレるのでイザベラは傭兵時代の服装に、アステールは軍服で行く事にした。


ちなみに傭兵の頃に使っていた服装は非常にラフな格好である。しかし様々な素材で組み合わされている珍しい装備。そして一点に力が加わるとその部分のみ硬くなるという少し変わった性質を持っている。そのため防御にも攻撃にも転じることが可能というかなり凄い装備であった。


最初は鎧などを装備して戦っていたが、鎧で守るよりも自分の体が頑丈すぎる事に気づいたので身軽な装備…服装?となった。



「やっぱりこれが1番だ」

「なんというか昔の頃に戻ったな」

「さてもう見えたぞ」


遠くの方をよく凝らして見ると砂煙が上がっているのが見える。それは近づくにつれて少しずつ大きくなっているのが分かった。


「全員集まるのか?」

「まぁそうだな。私のこの笛は緊急時や号令などにしか吹かない。しかも数年ぶりだからな」

「なるほどなぁ」


かなり砂煙が目に見えて大きくなってきたので、イザベラは手を上げた。すると王城の方向からこっちに向きが変わった。


「姐さぁぁぁぁん!」

「この声は…」


手を振りながらこちらに走ってきている大男。彼の声には聞き覚えがあった。そしてイザベラのいる少し手前で止まりこちらに歩いてきた。


「ギャラン…久しぶりだな」

「姐さんの笛を聞いたんだ。みんな来ましたよ。なんてったって数年ぶりの笛の音が聞こえたんだから」


確かに周りの傭兵達を見ると見覚えのある奴らが多い。一大事だと捉える者もいるか…


「にしても、その格好も久しぶりに見ました」

「これから激しく動くのだぞ?貴族の服なんかで戦闘ができるか」

「ハハッちげぇねぇ」


ハハハ…と皆が笑う。するとここでパンッとイザベラが手を叩いた。


「皆のもの、よく聞け。今回わざわざ笛を使い呼び出したのはある依頼が理由である。詳しいことはアステール国王が説明してくれるはずだ。あとは頼む」


アステールの方を向き目配せをした。アステールは頷き話し始めた。


「あぁ、頼まれた。傭兵の諸君。久しぶりだな。早速で悪いが依頼の説明に移りたい」


そう言って王国の騎士の事を話し始めた。その間一切話し声は聞こえず、ただ国王の話をじっと聞いていた。


「というわけで彼らを倒してもらえないだろうか。報酬は1人金貨100枚でお願いしたい」

「そんなわけだ。受けてくれるか?」


不安そうな顔をしているアステール。それを見た傭兵達はお互いに顔を見合わせた。しかしすぐにこっちを向き笑った。


「当たり前でしょう。久しぶりの対人戦なんだ。ワクワクが止まらないですよ」

「イザベラ姐さんの依頼のようなものだ。ここにいる者全員が受けるだろうな」


周りも同じ感じで全員異議はないらしい。それを見てイザベラは安堵した。


「そうか。なら久しぶりに私も体を動かそう。後ほど模擬戦を行う。場所は王都の闘技場で…昼から始めよう。準備をしておけ」

「「「「了解」」」」


傭兵は基本的に1人で行動する者である。しかしイザベラという絶対的強者の下につく傭兵達は統率がしっかりと取れている、それでいて士気も高い。


それを見たアステールは「敵じゃなくてよかった…」とホッとしながら呟いた。






















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