剣聖と国潰し
「まさか地下なのに観覧席があるとはな」
「傭兵同士で戦う時に見てる人は参考になるからね。あとこれから戦うけど、平原とかでやったら…」
「下手したら吹き飛ぶな」
「そうゆうこと。ちなみにここの訓練所は君の強さを参考にしている。だから絶対に壊れない」
訓練所は広い円形になっており、それを囲う形で観覧席が上に作られている。観覧席には沢山の傭兵がいた。イザベラとルークという誰もが知っている2人が戦う。「この試合は伝説になる」とその場にいる誰もが考えていた。
「じゃあルール確認といこうか」
そう言いながらイザベラは
「「1、武器は自分の武器を使用する」」
「「2、相手が降参または戦闘不能になった時点で終了」」
お互いにルールを確認したことで試合が始まりの合図の鐘が鳴った。それと同時に観覧席からの歓声が上がった。
「今回も勝たせてもらうぞッッ!」
「勝つのは俺だ!」
2人は真っ直ぐ駆け出した。そしてお互いの刃が激突する。それと同時に衝撃波によって土埃が舞った。
「義手になっても私の剣を受け止めるとはな!」
ルークはギリギリで回避したり、剣で流すなど、紙一重の状態であった。しかし自分の攻撃を一瞬でも受け止めれる実力を持った人物にイザベラは興味が湧いていた。
「正直片腕を失ったせいで昔の戦い方は厳しい。剣聖という名も現役の時のものだ。おっと…」
咄嗟でルークは彼女の攻撃を避けて距離をとり、危ない危ないと言って服についた土埃を払いイザベラの方を見た。
「ただ団長として…ギルド長としての意地があるもんで」
「ほう。面白い」
「こちらから行くぞ」
そう言ってルークがこちらに向かって走り出す。だが突然イザベラの目の前から消えた。
「…後ろか」
「おっ分かるかい」
「当たり前だ!」
イザベラは振り返り、背後から迫るルークに鋭い眼光を向けた。ルークの動きは速く、まるで影のように彼女の周りを舞いながら攻め立てられた。
「剣聖の名は今でも伊達じゃないか…」
「そこだ!」
「くっ…!」
次に来る攻撃を避け、ピンポイントでルークを吹き飛ばした。ルークは剣を地面に突き立て、イザベラから距離を取る。しかしイザベラは止まらない。地面を叩き、衝撃波を発生させると地面が隆起しながらルークに向かって行く。
「まだ倒れるなよ!」
「もちろん」
空中に範囲を狭めるとイザベラは彼に斬りかかろうとする。しかしルークは空中で体をねじって回避。着地すると再びイザベラに斬りかかる。二人の剣が激しくぶつかり合い、火花が散った。
何故彼が剣聖と呼ばれるのかはそのスピードと力の強さによるものであった。そのため彼の剣技とスピードが合わさると誰にも止めることは出来なかった。ただ1人を除いて…
「さすがは元Sランク」
「お世辞か?」
イザベラは全身に力を込め、大剣を振りかざす。その勢いは、まるで大地が怒りを爆発させたかのようだった。
「ふっ…!」
ルークは剣を構え、イザベラの攻撃に立ち向かう。再び二人の剣が衝突した瞬間、空気が震えて訓練所が揺れた。
「こりゃあ…やべぇぞ」
「もし2人が外で戦っていたら…」
「間違いなく戦場と化していただろうな」
イザベラは大きく息を吐き、ルークから少し離れる。彼女の額には汗が光っていた。
「互角か…」
「いやもう限界に近い。どうせ今の攻撃も全力ではないんだろ?」
「割と力を込めたはずだが」
ルークは刃こぼれした剣と痺れた手を見つめる。それからイザベラをじっと見つめた。
「だが…まだ終わっていない。これからが本番だ」
そう言うと、今まで使っていなかった義手の方で剣を握った。イザベラは静かに頷き、再び大剣を構える。
再び、二人の間に緊張が張り詰める。観覧席にいた傭兵達はこの戦いの結末を見届けるために、息を凝らしていた。
「俺の義手は少し特別でね…」
そう言うと銀色の義手が光り、それに連動して剣にもその光が伝わっていくのが見えた。
「なんだそれは…」
「この義手は魔力との相性がいい素材で作られているんだ。さらにこの剣は魔力との相性が良い」
剣を一振りするとその周りに蒼い炎が纏った。剣に宿った炎は、まるで生きているかのように躍動してイザベラに攻撃した。
「魔力を込めることができるのか。面白い」
イザベラは冷静に状況を判断する。魔力を持たない彼女は肉体と剣技、そして長年の経験で培われた戦術で対抗するしかない。ルークは剣を振るい、イザベラを追い込む。
「だが私の剣はそう簡単に壊れたりしない」
大剣をルークに向けて静かに告げた。
ルークは魔力を込めた攻撃で圧倒しようとするが、イザベラは一歩も引かない。そして彼女の剣は何かに導かれるようにルークの攻撃を巧みに回避して隙を突いていく。まるで全てが分かっているかのような動きであった。
「これでも有効打がないのか…ハハッ」
ルークは無意識のうちに笑っていた。越えないといけない壁がこんなにも高かったのかと。そう考えた時、自分がこの戦いを楽しんでいることに気づいた。
「そろそろ終わりにするか」
「次の攻撃に全てをかけることにしよう」
ルークはさらに魔力を込める。彼の剣はすでに限界を超えていていつ壊れてもおかしくはなかった。イザベラもふぅ…と深呼吸して心を落ち着かせた。
ブンッとイザベラが消えると同時にルークもそこから消えた。すると訓練所の真ん中で大きな衝撃音とともに砂が巻き上げられた。
「な、なんだ⁉︎」
「どっちが勝ったんだ⁉︎」
「クソ!砂で見えない!」
しばらく砂煙で見えなかったが、少しずつ全容が見えてくると地面に倒れ込んでいるルークと息を切らしながら立つイザベラの姿がそこにあった。イザベラは肩を上下させながらルークを見下ろす。
「負けだよ。剣が壊れてしまった」
そう言ってルークは柄のみとなってしまった剣を彼女に見せた。
「私の勝ちでいいな」
「あぁ。今回も負けてしまった」
イザベラは大剣を上に向けた。それはこの試合の勝者が決まった瞬間を意味していた。結果が分かるとウォォォォ!とあちこちから歓声が上がった。
「にしてもまさか義手にそんな能力を持っているとはな。少し危なかった」
「おっ珍しいね…そんな事を聞けたのは久しぶりだ」
負けて悔しいはずなのに彼は笑っていた。満足そうな顔をしているのを見てイザベラは疑問に思った。
「何故笑う?悔しくないのか?」
「もちろん悔しいさ。でも引退してから久しぶりに君と戦って…新しい技を見せる事ができてなんか嬉しかったのかな」
「…嬉しかったか」
そう言いながら訓練所をあとにした。出て行く時にイザベラの口角が上がっている事にルークは気づいてしまった。
「楽しかったんだな。昔は他人に興味なかったアイツが、お互いに成長したな…イザベラ」
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