旧友との再会
「ここに来るの何年ぶりだ?」
周りの建物よりも一際大きいのがギルドである。なんでも初代ギルド長が「分かりやすいから」という理由で大きくしたとか。
「とりあえず入るか」
イザベラは重厚な扉を開き、ギルド内へと足を踏み入れた。とても落ち着いた雰囲気でヴァルデンにある支部とは大違いである。またその辺で話している傭兵達も武器や防具から見て、高ランクの者が多かった。
「昔はここも荒れていたんだが…全てアイツが変えたという事を考えると納得がいく」
昔のことを思いだしながら、受付嬢がいるカウンターに足を運んだ。するとこちらに気づいたのか頭を下げた。
「こんにちは。ギルド本部へようこそ」
「ルークギルド長はいるか?会いにきたのだが」
「何か招待状みたいなものなどはありますか?」
「招待状ではないが…この手紙とこのギルドカードで足りるか?」
そう言って自分のギルドカードと貰った手紙を受付嬢に渡すと彼女は少し焦った表情をしていた。
「か、確認してもよろしいでしょうか?」
「構わん」
そのカードを魔導具らしき物に通すと、空中にウィンドウが現れた。何やら字が書いているが反対方向から見ているのでよく分からない。おそらく自分の事が書かれているのだとイザベラは結論づけた。すると何かボソッと受付嬢が喋った。
「本当にいたんだ」
そう聞こえた瞬間、イザベラはフフッと少し笑った。それに気づいた受付嬢はコホンと咳払いしてこちらを向いた。
「確認はとれたか?」
「え、えぇ…はい。イザベラ様ですね。少々お待ちください」
「あぁ。私はあそこで待つことにしよう」
しばらく時間がかかると思ったのでギルド内のラウンジにて待つことにした。受付嬢も連絡が来たらすぐに伝えます。と言って慌ただしく動き始めた。
イザベラは
「あいつも偉くなったな」
「ルーク団長のことですか?」
「ん?」
後ろから声が聞こえた。振り返ると私よりも少し背の低い赤い髪色の男がいた。子供ではないが…15〜6歳だろう。
「知っているのか」
「もちろん!元Sランク傭兵で『剣聖』と呼ばれた男。剣捌きは凄まじいもので…あの『国潰し』で有名なイザベラとも互角やり合ったとか…」
「そうか」
「それから…」
彼は互角にやり合ったと言われるイザベラが目の前にいることに気づいてないらしく、熱弁していた。彼の話を聞くかぎり多くの人から尊敬されているのだと感じる。
「ところでお前の名は?」
「それで彼は…あっごめんなさい。僕の名前はイルスって言います。ランクはBでルーク団長の傭兵団に入ってます」
「じゃあイルスに質問だ。今のルークとイザベラが戦ったらどっちが勝つ?」
そう言うと少し考え込んだが答えが出た。
「団長が勝つと思います。引退はしてますけど、鍛錬は欠かしてないので」
「そうか」
久しぶりにアイツと模擬戦でもするかと考えていると、後ろから気配を感じて振り返った。
「この気配は…」
そこにいたのは少し老けた
「久しぶりだな」
「お互いにな」
面と向かって握手をする。昔の頃とは違ってかなり性格が丸くなったと感じた。彼が現役の時は闘争心丸出しの戦闘狂で自分の決めた道をとことん進み続ける奴でもあったので少し面食らった。
「その手…義手か」
「あまり上手く剣は振れなくなったが、それでも左手で剣を振れるようには頑張ってるさ」
「剣への情熱はまだ捨てていないか」
「あぁ」
その会話のやりとりを見ているイルスは不思議そうな顔をしてイザベラを見ていた。何故団長であるルークと会うことができるのか?とでも思っているのだろう。
「あっイルス君。元気かな」
「げ、元気です!ところで団長!彼女は一体…」
「イザベラといえば分かるだろ?」
「……えっ?」
「俺のライバルだよ」
目を丸くして驚くイルス。それに対してイザベラは自信満々に言うルークの姿を見て、ため息をついた。
「あとで模擬戦でもしよう。その前に…少し聞きたい事がある。2人で話したい」
「分かった。それじゃあイルス…あとで訓練所の方に行くから準備の方よろしくね」
「あっえっ?あっ…了解!」
そう言ってイルスは慌てながら動き始めた。彼の姿を見送ってからルークに連れられてきたのはギルド長専用の執務室であった。
部屋の奥には大きな窓がありアゼリアの街並みを見渡せる。書棚には古びた魔導書や何らかの本がぎっしり詰まっていた。
「それで話って?」
「単刀直入に聞くが…この手紙を送ったのはお前か?」
ギルド支部でもらった手紙を彼に見せた。
「俺じゃないな。それに君専用のギルドカードを作る時に条件言ってたじゃないか」
「あぁ…自由の身である事を保証せよという条件だな」
「だから世界が滅亡するとか本当に大変な事態になった時ぐらいしか普通は送らない。それは君も了承してたろ?」
ギルドカードが彼女専用になろうとしてた頃。イザベラは様々な国から声がかかっていた。しかし役職に縛られては何か行動するときに支障をきたすため、断っていた。
それでも彼女を求める声は止まらなかった。なので彼女はギルド側に3つの条件を提示。
1、自由であること
2、私が求めればギルドが情報を提示すること
3、ギルドや国と対等な関係であること
それをギルド側は了承。すぐに全世界にこの事が伝わり、彼女を引き入れようとする国はなくなった。
しかし現在、イザベラはフライム王国の貴族兼傭兵である。ただ国王のアステールとは対等な関係となっており、貴族になったのはイザベラとアステールの利害関係が一致したからに過ぎない。
ルークは再び手紙に目を向けて読み始めた。するとあっ…と何かに気づいたような声を出した。
「これ明日の会議に出ろって…おいおい」
ルークの顔色が悪くなっていることにイザベラは不思議に思った。
「たかが会議だろ?何かまずいのか」
「明日は年に一回、各地のギルド支部長と俺…そして幹部が集まる重要な会議だ。2日、3日は平気でかかる」
「まぁいいさ。いざとなったら私が強行で終わらせる。それよりも…この手紙が誰が送ったのかだ」
「そうだな。あまり時間はないが…こちらでも調べておこう」
他にも様々な計画を話し合って、お互いに握手を交わした。その時の2人の表情は穏やかなものであった。
「協力を得る事ができて嬉しいよ」
「ライバルだから当然だろ?」
ハハッと笑うルークを見てイザベラは再びため息をついた。昔からどんなに打ちのめされても必ず起き上がる。不死身のような奴だった。
「これまでの合計148試合中、110勝、9敗、29分け。ほとんど私が勝っている」
「だがあと1勝するだけで、目標の10勝だ」
「…本当に諦めないな。まぁいい」
ニコッと笑うルークにつられてフフッと笑ってしまった。確かに昔から彼のことをライバルと認めてはいない。しかしこの世界で唯一、自分のことを倒せるかもしれない人物なので不思議と気分は昂っていた。
「さっさと行くぞ」
「あぁ」
執務室から出て、2人はギルドの建物内部にある訓練所に目指して歩き出した。
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