中央都市・アゼリア

「というわけだ」

「「承知しました」」


屋敷に戻り、セバスとクローネに事情を話すと2人とも快く了承してくれた。するとセバスから手が上がった。


「1つ良いでしょうか?」

「なんだ?」

「傭兵の皆さんは連れて行かないのですか?」

「私がアイツらを引き連れて行けばかなりの騒ぎになる。だから各々で来させるつもりだ。それと私が直接指示するのはおそらく難しい。だから彼らとの仲介役としてクローネ頼めるか」

「お任せを」


今回呼ばれたのは私を何かから遠ざけるつもりなのだろう。まぁ杞憂であれば別に問題はない。私がただ深読みしすぎただけに過ぎないだけだ。確実に言えるのはセバスとクローネが忙しく動き回ることになる。


「1週間程滞在する。セバスはギルド本部の内部を探ってもらいたい。出来るか?」

「分かりました。もし何か分かったことがあれば彼らにも連絡しますか?」

「そうだな…万が一も備えて連絡しておけ」

「承知しました」



それから領地にいる傭兵にこの事を伝えて様々な準備をしていった。一応傭兵団は兵士と同じで防衛も担っている。そのため動きやすい少数精鋭で行くことが決まり、Aランクの傭兵15人を連れていくことが決まった。


また彼らは全員クローネの指揮下に置かれる。


それとしばらく帰れないとアステールにも連絡した。すると返事が来て、彼の妻…つまり王妃が亡命先から戻ってきたとの事。今度会った時に紹介したいという。あいつ…許嫁がいたのか。


閑話休題それはさておき、2日程経って向かう準備が出来た。



「さて…行くか」

「そうですね」


イザベラとクローネは馬に跨り、ギルド本部へと向かった。イザベラは専用の戦闘服に着替えていた。またクローネもメイド服ではなく、戦闘用の服装に着替えている。


クローネは自分の拳で戦うため、身軽な服装であった。またダボっとしたズボンを履いているが、理由を聞くと相手を蹴りやすいとの事。それとメイドの時とは少し口調を変えている。本人は自覚してない…おそらくメイドの時と傭兵の時と、モードの切り替えをしているだけなのだろう。


「セバスチャンは今着いた頃ですかね?」

「そうだな…もう潜入してるかもしれん」


セバスは先に行かせた。彼は集団で動くよりも1人で動きまわる方が性に合っている。また先に行かせた方が呼ばれた理由をいち早く知る事ができるかもしれない。


「イザベラ様と一緒に…久しぶりです」

「…あぁ」


クローネの表情は少し嬉しそうで、耳はぴょこぴょこと動いており尻尾も上機嫌であった。


「ところでイザベラ様、何故行こうと?」

「暇だっからというのもあるが…ギルドの本部がある中央都市には行った事があるか?」

「何度か依頼で行きました。それが何か?」



「中央都市・アゼリア」

大陸の丁度真ん中に位置する都市でどの国にも属さない中立都市。またギルドや宗教などの国に属さない組織のトップが集まっていることでも有名である。ちなみにヴァルデン領から馬で急いでも2〜3日程かかる。



「なら今のギルド長の名前は分かるか?」

「元Sランク冒険者のルーク様ですね。『剣聖』という二つ名で活躍していましたが、片腕を失って引退したとか」

「そう。勝手に私をライバル呼びしてた奴だ」

「印象が違います。という事はイザベラ様と同期…?」

「まぁそうだな。歳は違うが」


ギルドは基本的に実力主義。どんなに幼くても強ければ誰も文句を言わない。ちなみにイザベラは成人になる15歳にギルドに加入している。


「つまり旧友?に会いに行くのが目的ですか」

「まぁそうだな。片腕を失ってもアイツは強いぞ」


元とはいえSランクなので強い奴は強い。


「それにここ1〜2年遠出する事がなかった。気分転換みたいなものだな」

「あっもうすぐ今日泊まる予定の町に着きますよ」

「分かった」



それから2日と半日かけてアゼリアに着いた。盗賊などに襲われる事もなかったため、かなり順調である。現在2人はアゼリアに入るための検問所にいた。重要な施設、建物が多いので、ここの検問所はかなり厳しく検査される。そのため昼から並んで、街に入れたのが夜なんて事もある。


「ま、私は問題ないがな」

「ですよね」


彼女専用のギルドカードを門番に見せると、少し慌てながらも通してくれた。そのやりとりを見ていた他の人達はあの人は誰なんだ?とざわめいていたという。


「ギルドは…あそこだが…先に予約しておいた宿に行こう。セバスもいるはすだ」

「そうですね」


一応ギルドにも泊まれる所はあるが、話が聞かれる可能性も踏まえギルドと離れた宿に泊まることにした。まぁセバスの息がかかった者の宿なのだが…


ちなみにこのアゼリアという都市に貴族の屋敷などはない。そのため誰であっても宿に泊まる事になる。


宿の中に入り、受付カウンターのところに向かった。するとスタッフがこちらにお辞儀をしたのが分かった。


「いらっしゃいませ」

「1週間程泊まりたいのだが」


そう言いながらギルドカードを見せると1つの鍵を差し出してきた。


「ありがとう」

「突き当たり右の部屋となっています。ごゆっくりお過ごしください」


言われた通りに突き当たり右にある部屋の扉を開けた。そこには来るのが分かっていたかのように紅茶や菓子などの準備をして待っているセバスチャンがいた。心なしかいつもよりニコニコしている。久しぶりの潜入だからか…とイザベラは結論づけた。



「長旅ご苦労様でした」

「そっちも潜入捜査ご苦労」

「全然難しくはありませんでしたよ。紅茶でも飲みながら話しましょう」

「あぁ」



椅子に座りテーブルを囲むように3人が座り、お互いに少し紅茶を口にしてからイザベラが先にカップを置いた。


「それで何か呼ばれた理由は分かったか?」

「えぇ。イザベラ様の予想通りでしたよ。どうやら貴方様が離れた時にフライム王国が攻められるそうです」

「……まぁ大丈夫だろ。多分アステールも勘付いているはずだ。それに騎士団もいる」


前の王国は攻められたら一瞬で陥落しかねない状況だったが、今は全然心配するような不安要素は全くない。


「それで私を呼んだやつは誰だ?」

「その手紙は基本的にギルド長…ルーク様名義で届きます。しかし彼本人が送ったわけではありません」

「だろうな。どのみち隣国と繋がっている奴がいるんだろ?」

「はい。ただいくら調べても証拠となる物が見つかりませんでした…不甲斐ないです」

「ふふ…上手く隠れられたな」


セバスチャンの潜入技術は優れている。しかしそれを踏まえても相手は上手く逃げていることにイザベラは少し笑っていた。


「まぁいい。セバスは急いでアステールに連絡しとけ。それと彼ら傭兵にも一応な。あとは引き続き頼む」

「承知しました」

「じゃあ私はこれからルークに会ってくる。クローネは他の組織と何か関係があるのか調べてくれ」

「はい」



そう言うとセバスとクローネはその場からいなくなった。イザベラは菓子を1つ食べ、椅子から立ち上がった。愛用の大剣グリムスを持って…














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