傭兵貴族
monokuro
プロローグ
第1話 傭兵稼業のその先へ
「悪いが、私はこの作戦には従えない」
「なぜだ!」
ダァンと机を叩く音が響いた。目の前にいる肥えた男が顔を真っ赤にしながら体を震わせている。周りもザワザワと騒がしくなる。
「これは国王陛下のご命令だぞ!」
「だとしてもだ。報酬も作戦も全部甘すぎる」
「なんだと?」
「それと……貴様は私が貴族になる条件を忘れたのか?」
男はハッとし、それと同時に一気に悪寒がした。これはマズイ事をしたのだと。
「私は国の為に働くのではない。金の為に働くのだ。そしてこのままだと負けるぞ。もし自由に作戦を立ててもいいのならその報酬に見合った作戦を実行するがな」
「わ、分かった……助言に感謝する」
「私はこれにて失礼する」
カツカツカツ……と靴音を鳴らしながら会議室をあとにした。
「クソが!」
ダァンと再び机を叩く音が聞こえた。彼女はそれを聞いてため息をつく。
「これだから貴族は嫌いなんだ。兵士を人として見ていない。取り敢えずこのぐらいなら勝てるだろうと油断をしている。頭の悪い上層部が…」
「お疲れのようですね」
「あぁ…クローネ。待っていたのか」
長い廊下を歩いていると、自分の荷物を持ったメイドが待っていた。彼女はクローネ。孤児だったところを引き取った。猫系の獣人である。
「はるばる遠くから来たのに結果はこれか。だから貴族は嫌いだ…昔からな。全く、私に託せば勝てるというのに」
「貴族のプライドが許さないんでしょうか?」
フフッと笑ってしまったが、思っても口にしないほうが身のためだぞ。と注意した。
「どのみち失敗しても責任から逃れるだろうな」
「前もそうでしたね」
「思い出したくもない。アイツらの作戦でどれだけの兵士が死んだことか」
「でも色々と有能な人材を引き抜けましたよね?」
「まぁな…」
悪い人です。とクローネは呟いた。建物の外に出ると同時に馬車が来た。あれは私の領地の馬車である。
「帰るぞ」
「はい」
ガチャッと馬車の扉が開き、私とクローネは座った。
「少し寝る。着いたら教えてくれ」
「分かりました」
クローネと御者が何か話しているのを横目に私は深い眠りについた。流石に1日で王都に来るのはキツかったか……
私はずっと1人だった。親は分からない。お金もなく、毎日残飯を探して、その日暮らしをする日々だった。
しかしある時、私は人攫いに捕まった。このまま奴隷に堕ちるのだと子供ながらに思った。もう自由にはなれないのだと。
だがその時、私はある傭兵に救われた。老人ではあったが剣術、体術。どれをとっても凄まじい強さであった。木々を薙ぎ倒し、人を吹き飛ばす。幼い私は人なのか?と疑問に思った。
それから私はその傭兵に頼んで、読み書きや計算などありとあらゆる事を教えてもらった。
剣術も教えてもらったが、どうやら私は思っていたよりも力があるらしく大剣などの大きい武器を振り回した方がいいらしい。
しかし年が経つにつれその老人はだんだんと寝たきりになってしまい、私が成人した頃に死んでしまった。
だがその老人は私に色々と遺産を残していたらしい。武器や食料、硬貨なども。そして手紙もあり、手紙にはこう書いてあった。
〜〜〜
イザベラ。俺はもう長くはない。これを読んでいる時にはもう死んでいるだろう。
俺は死に場所を探していた。戦争で傭兵仲間が全員死んだがリーダーの私だけが生き残った償いとしてな。
だがその時にイザベラに出会った。その時、なんとなくこの子は助けないとダメだと思ってしまった。結局今となってはそれが正解なのか分からない。
イザベラ、お前は傭兵になるだろう。まぁ俺の孫みたいなもんだからな。その上で話しておく。お前が傭兵になった時に思い出してほしい。
・金はあるだけ良い
・自分の意思で決めろ
・困っている人は助けろ
・家族は守れ
理解しなくてもいい。どのみち分かるようになる。じゃあな。元気でやれよ。
〜〜〜
それから私は傭兵として名を馳せていく。戦争に参加したり、国を潰したりした。気づけば私は「国潰し」「歩く災害」などと呼ばれるようになった。
それに伴い、私についていきたいという人が現れるようになった。最初は断っていたが、めんどくさくなったので私の動きについていける者だけ良いことにした。
その結果、傭兵なのに一国の軍隊のようになってしまったのは少し集めすぎたかもしれない。しかし1人1人が国を半壊させるぐらいはできる強さはあるのでまぁ良いだろう。
あくまでも傭兵なので依頼を受けるかは個人の自由なので数人しか依頼を受けなかったりする。
何故数人なのかといえば、強くなればなるほど指名料や報酬金が大きくなるので、1回の依頼で半年、1年は働かなくても生きていけるからである。
そうして私の傭兵軍団はどんどん有名になり、「冥府の番人」や「天変地異部隊」などと様々な二つ名で呼ばれるようになった。正直、軍団名などはないのだが……
ある日、私は亡命した王族に依頼を出された。なんでも国を取り戻したいらしい。お金はいくらでも出すとのこと。似たような依頼は何度もやったことがあるので、全然良かったが…その時私は閃いた。
自分の領土を持てないのかと。正直、私の下につく者の人数が増えすぎたというのもあるのだが、やはり帰るところがあるとないとでは違うと思ったからであった。
そのことを話したら、快諾された。むしろ心強いとまで言われた。その後も色々と条件を取り付けたのだが。
そして傭兵団総員300人弱を引き連れ、反乱を起こした国を攻め入り、30分も経たずに堕とした。
それからはトントン拍子であれよあれよという間に、私は「辺境伯」の爵位をいただいた。ヴァルデン地方を統治する事になったので、私の名前は「イザベラ・フォン・ヴァルデン」となる。とにかくこれで傭兵全員の家も建てることができる。
しかし、どうやら傭兵上がりの私は貴族には嫌われているらしい。私に依頼を出した王族…今は王様になっているが、そいつは有能な人材は農民であろうと使うと決めているが……一部の貴族を除いてあまりいい表情をしていない。
そのせいで政策などが遅れているのであった。
まぁそれはさておき、基本的に私の領地の領民の6割は傭兵である。私の部下でもあるので私の命令には従うが基本的には自由にさせている。
前のように傭兵稼業をするならしてもいいし、私の命令以外は農業などをしていてもいい。
残りの4割は元々住んでいた人で、主に農業や鍛治などをメインに生計を立てている。なので物資に困ることはない。気候も農業に適しているらしい。
経済面も特に困ったことはなく、私の部下たちが上手くやってくれるので問題はない。まぁ不正しようとするなら、私が許さないが。
とにかく私のやるべき事を彼らが全部請け負うせいで私は暇なのだ。久しぶりに王都に呼ばれたので、ワクワクしながら行ったらあの結果だ。
はぁ……自由に動き回っていた傭兵の頃が懐かしい。久しぶりに何か依頼でも受けようかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます