【閑話】上に立つ者として…(sideアステール)

「流石に疲れた…」


執務室で1人ため息をついた。それはフライム王国で1番偉い人物。アステールであった。今は国民のための政策を施し、貴族だからと優遇されない国を作ろうとしている真っ最中である。


「アステール様。大丈夫ですか?」

「ルーシェか」


部屋の扉が開き、1人の綺麗な女性が入ってきた。


「すまない。少し疲れてな…」

「なら紅茶でも入れましょうか」

「頼めるか?」

「任せてください」


そう言って彼女は棚にあるティーポットや茶葉などを取り出して準備し始めた。彼女は私の婚約者で貴族名は「ルーシェ・デ・モンフォール」という。モンフォール家は代々国に尽くしてくれている名家で、4大公爵家の1つである。ちなみにアステールの政策に唯一賛成していたのもモンフォール家である。


幼少の頃からルーシェとは親密な関係でそのまま婚姻を結んだ。しかし反乱が起きて身の危険を感じ彼女だけは他国にしばらく亡命していた。それからやっと国が落ち着いてきたので最近帰ってきたのである。


そのためイザベラとは面識がない。そういえばイザベラと最後に話してから半年が経つが…何をしているのだろう。


「何を考えているのですか?」


紅茶をカップに注ぎ入れながら話しかけるルーシェ。彼女の淹れる紅茶はとても優しい味がする。


「ちょっとな…前に世話になった奴の事だ」

「もしかしてヴァルデン辺境伯様のことですか?」

「知っていたのか」

「えぇ。亡命していた時も傭兵から貴族になった人物がいるとみんなが噂してましたよ」


クスクスと笑いながら話す彼女を見てアステールも傭兵時代は有名だよな…と呟いて笑った。


「父のようにならない。そう決めてから私はこの2年間…様々な事を取り組んできた。しかしまだ国は弱い。兵力も少ない。だからそういった武力に関する事で判断出来ない事は基本的にイザベラに相談しているのだ」

「確かに武のエキスパートに相談するのは理にかなってますね」

「私はそっちの方面には弱い」

「それは昔からじゃないですか?」

「知識を得る方が楽しかっただけさ」


アステールは幼い頃から戦うのが苦手であった。剣術や馬術など一通り学んだがどちらかといえば、本を読み知識を増やす方が楽しかった。


「その知識のお陰で今がある。君と再び会えたことも」

「そうですね」



この先の未来は誰にも予想出来ない。他国が攻めてくるかもしれないし、私に刃を向けてくる者がいるかもしれない。それでも王として…上に立つ者として…この国を導いていかねばならない。


窓の外に広がる王都の景色を眺めながらそう考えた。するのコンコンとドアをノックする音が聞こえた。


「なんだ?」

「私が出ます」


扉の奥には執事がいたのが分かった。そしてルーシェはありがとうと言いながら何かを受け取り扉を閉めた。


「それで何を受け取ったのだ?」

「ヴァルデン辺境伯からのお手紙です。魔法筒で突然来たそうです」

「なに?」


そう言って一枚の手紙を差し出した。封蝋印にはヴァルデン領を象徴するイザベラが住む屋敷の姿が記されている。すぐにイザベラが出した手紙だと確信した。


「タイミングが良すぎるな…全く」

「何かあったのでしょうか?」

「読んでみないと分からん」


手紙の封を開けて、中の紙を取り出した。どうやら彼女直筆の手紙らしい。珍しいと思いながらアステールは読む事にした…



「どのような事を書いていたのですか?」


覗き込むような形でルーシェが聞いてきたので、手紙をルーシェに見せながら話した。



「ギルドの本部に呼ばれたからしばらくそっちに行けないらしい」

「ギルドですか?」

「おそらくイザベラを呼ばないといけないぐらいの事が発生したのだろう。でもそんな重大な事は起こってないはずだが…」


ギルドから発行されている新聞を見てもそのような事は書かれていないし、各地に潜伏させている我が国の諜報部隊からの連絡もない。


「何か嫌な予感がする…一応他国の警戒を強めるか」

「このまま平和だと良いのですが…」

「そうだな。君とも一緒にいれる」

「はい」


よし…と言って椅子に座って再び書類を見始めた。もう休憩時間は終わりのようだ。


「手伝います」

「ありがとう」



取り敢えず、彼女がいない今が1番我が国で危険な状態だ。やれるだけのことをやるしかない。そう決心して準備をし始めた。


































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