【閑話】私はあの人に… (sideリアーナ)

「またやっちゃった……」


訓練場で1人落ち込む者がいた。握る部分しか残ってない剣を見てはぁ…とため息をつく。


「やっぱり武器合ってないのかな…」

「また壊したのか…」

「あっ団長…すみません」


騎士団長のフィルが呆れながらやってきた。


「いや…いい。むしろ良くないのは上層部だから。君に合う武器は絶対にそんな細い剣ではないのは分かってる」

「…ですよね」

「取り敢えず、備品のやつを送っておくから」

「ありがとうございます」

「それじゃあ」


フィル団長は元貴族と聞いたことがある。でもなんで騎士団長をしているのだろう…強い人がやると思っていたのに。あの人は弱い。


「今なんか悪い事考えてた?」

「いえ、別に…」

「まぁ別に気にしてないよ。あっそうだ…ヴァルデン辺境伯は知っているかい?」

「ヴァルデン辺境伯…あっあの人ですか?傭兵から成り上がったっていう」


ヴァルデン辺境伯。以前、国がクーデターによって危ない状況になった時に今の国王様が彼女に依頼を出して、国を奪還した英雄的存在。


以前、一度だけ見かけた事があるけど…オーラが凄かった。圧倒的な強さを持っていると誰が見ても分かったと思う。


「それでその人がどうしたんですか?」

「実は彼女がうちの騎士団を鍛えてくれるらしい」

「……えっ?」



どうしてそんな人が私達の騎士団を?

誰かがそうゆう依頼を出したの?

でもどうして?


様々な疑問が頭に浮かぶが、フィルがその理由を話し始めた。どうやら自分の騎士団の素行が悪いからという理由で国王様が彼女に依頼を出したらしい。


「リアーナは全く問題ないよ。しっかりと王都の警備をしてくれているからね」

「他の人…ですか」

「そう。前から言ってるんだけどね…まぁ聞く耳を持たない。私の実力不足でもあるのかな」



ハハハッと乾いた笑いをする団長を見て少し悲しくなった。リアーナから見て団長は人柄も良く、決断力もある。ただ実績が無かった。


「まぁいいや。ヴァルデン辺境伯が来るのは3日後。それまで剣は壊さないでね?流石に準備できない」

「わ、分かりました!」



それから3日が経って、第6騎士団は闘技場に集められたが…私は昼まで街の警備にあたっていたので行けなかった。そのため平原に移動したことを知って急いだ。


「はぁはぁ…」

「おーい」

「団長!お待たせしました…」

「すまない…まさかこんな日も午前中にやらせるとは…」

「仕方ないです。それで今から何を?」


模擬戦闘をするんだよ。と言いながら絶望した表情になった団長。一体どうゆうことなのか聞く事にした。


「一気に生気がなくなりましたね」

「ヴァルデン辺境伯1人ならまだなんとかなるかもしれない。けど……彼女の傭兵団が相手だ。冥府の番人と呼ばれた彼らが雑魚に等しい私達を倒しに来るんだよ」

「なるほど…」

「納得するんだね」

「…どのみち負けるんですよね?ならやれる事をやりましょう」

「確かに弱くても弱いなりに足掻こうか」

「はい。一泡吹かせて見ましょう!」




そう意気込んでいましたが結果は惨敗でした。



30人でこちらに向かってきた時はなんとかなるかもしれないと考えた私が馬鹿でした。彼らの足は決して止まらずにどんどん突き進みながら戦う姿を見て、傭兵団の別名「天変地異部隊」という名前もなんとなく分かったような気がします。


途中で私の剣は折れてどこかにいってしまいました…なんとか素手で応戦しようと思いましたが、周りの状況を見て意味がないと思い、すぐに降参して模擬戦は一瞬で終わりました。




「流石に…弱くないか?」

「すみません…」

「まぁいい。明後日から…」


倒れている者や気絶している者がいる中で団長はヴァルデン辺境伯のところに行って話をしている。どうやら明後日から鍛え始めるそうだ。


「傭兵の人達があんなに強いのなら…あの人はどれほどの強さを持っているのだろう」




1日、間を開けて本格的に騎士団を強化するという計画は動き出した。最初は全員で王都の外周を走る。周りの仲間のペースが落ちているのに気づいたが、リアーナは一定の速度のまま走っていた。


「はぁはぁ…」

「きっつ…」



「…全然いける」


このぐらいは全然問題ないかな。でも昔から体力には自信がある…でも子供の時からどれだけ走っても疲れなかったなぁ。どうしてだろう?


私は魔力がない。でもそれの代わりなのか運動神経が抜群に良い。その魔力がないということが関係しているのかも?



走りながらなんとなく考えていたらすでに完走していた。どうやら毎日やるらしい。それから私達は次にやる事を言われた。


「次にお前達は自分の武器を選んで欲しい。自分の武器を決めたらその担当の傭兵がいる。その人に教えてもらうように」


周りが右往左往、何の武器を使うのか迷っている最中。リアーナはその場に立って考えていた。


弓などは私に合っていないし、細い剣は壊しちゃうから…大剣とかかな?


そう考えて周りの傭兵を見渡した。しかし大きな剣を持っている人物は1人しかいなかった。ヴァルデン辺境伯である。正直、話しかけてもいいのか恐い。だがこのままだと何の進展もないので意を決して話しかける事にした。



「あ…あの!」

「ん?何だ?」


腕を組んでいた彼女はゆっくりとこちらを向いた。その瞬間、強者のオーラに圧倒されリアーナは一瞬気を失いそうになったがすぐに持ち直して話しかけた。



「その大きな剣…私も持てますか?」

「持ってみるか?」


大剣を鞘ごと渡そうするが自分の物を簡単に渡すのを見てルーシェは驚いた。


「いいのですか?」

「構わん。持てる奴はそういない」


諦めているような感じで言われながら、剣を受け取った。少し重く感じるがこのぐらいは簡単に持てると思った。


「持てました…」

「なに?」


イザベラは目を丸くして驚いた。今までその大剣を持てた奴はいなかったのだから。しかし彼女は取り乱す事もなく、淡々としていた。


「珍しいな…ちょっと待て。お前名前は?」

「リアーナと言います」

「リアーナ、君に質問がある。魔力はあるか?」

「ありません」

「全く?ゼロか?」

「はい。でもその代わりに昔から身体能力は高いんですよ」

「私と同じか…面白いことになった」



彼女がそう言ってニヤリと笑う。リアーナはその表情を見て少し怖くなった。


「あの…?」

「あぁすまない。それでお前は私に教えてもらいたいのか?」

「はい!色々見ましたけど、イザベラ様のその大きな剣に惹かれました」

「分かった。良いだろう。私に教えを乞う者は初めてだ。しかしあいにくこれしか手持ちがない。明日からでも良いか?」

「構いません」



教えてもらえる!でもイザベラ様の持っているような大剣は持ってないよ…どうしよう。お金もそこまでないし…


不安要素について考えていると彼女から話しかけてきた。



「質問だが、さっきの走り込みはどうだった?」

「あまり疲れなかったです。まぁ周りの仲間とペースを合わせていたので」

「剣は?持っていないように見える」

「一昨日の試合で壊しました」

「なるほど。だが何故抵抗しなかった?」

「勝てる方法が思いつかなかったので、それならさっさと負けた方が良いかなって」

「そうゆう考え方は珍しい」

「剣がないのか…ちょっと待ってろ」



それから、イザベラ様が色々やってくれたおかげで私専用の大剣。防具などを作ってもらい稽古をつけてもらう事になりました。


稽古はかなりキツかったです。それでも彼女の動きを出来るだけ吸収して自分のモノにしました。彼女も熱が入ったのかほぼ毎日朝から晩まで他の人とは別メニューで鍛えました。


2度とやりたくないですけどね。



それと私が大剣を上手く使いこなせるぐらいになった頃からイザベラ様との試合をする事になりました。でも一切勝つ事が出来ずに負けが積み重なっていきました。


何故負けるのか…それは私が100の技術があるとするなら、彼女はその2倍、3倍、もしかしたらそれ以上の技術を持っているからというのが一番合っていると思います。


休憩している時に一度だけ何故そんなに強いのか聞きました。


「強い理由か…自分の体質も理由の一つだが。まぁ傭兵だからというのが一番の理由になるだろう。今は貴族だが」

「傭兵はそこまでしないといけないのですか?」

「そうだな。騎士とは違って完全な実力社会。弱い者は淘汰される。それに使える物はなんでも使うというのが傭兵の中では常識だ。だから逃げる時も誰かを囮にするとかもザラにある」

「そうなんですね…」

「あと強くなればなるほど周りを気にすることなく依頼に専念できるというのもある。さて休憩は終わりだ」

「は、はい!」



それでもイザベラ様に一回でも良いから勝ちたかった。でもある日その執念が通じたのか、やっと彼女に一矢報いる事が出来ました。その時の光景は今でも覚えてます。周りの景色がゆっくりに見えて、その瞬間だけ自分が何でも出来ると思いました。


どうやらそのゆっくり見えるというのがイザベラ様は大事らしいです。人が唯一、神すら殺せる瞬間だろうと彼女は言っていました。



正直、あの人に勝てたのは偶然です。多分イザベラ様も少しは手を抜いていたのかなと感じます。多分次戦ったら負けます。



そのぐらいに彼女は強かった。それでもいつか隣で戦えるぐらいには成長して国の、彼女の…役に立ちたい。
































































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