第11話 特別レッスン〜そして…
次の日から騎士達は王都の外周を走ってから、イザベラが主体で格闘術などの基礎となる部分を教えていた。
そして昼休憩を挟んだあとに各々武器を傭兵達から教えてもらう事となる。キツいと思う者もいるかもしれないがどうせ慣れるので問題ない。
「ま、周回数は増やすがな」
「い、イザベラ様!本当にこれ貰ってもいいのですか?」
「ん?」
リアーナは自分の剣を興味津々に見つめていた。それもそのはずで彼女の手の大きさを考えて握りやすいように作られていたりするのでリアーナ専用の剣なのである。
「どうせ既存の剣だと1回で壊れるだろ?」
「えぇ…まぁ」
「だから壊れないように設計した。しかし常人には持てない重さなんだぞ?」
私は持てるがな。と言ってリアーナの持っていた剣を持ち上げた。しかし彼女は常人は持てないという事を信じてないらしい。それにイザベラは気づいた。
「なら誰かに持たせてみたらいい。フィル来てくれ」
「私ですか?」
武器の使い方を教えてもらっていたのを中断してこっちに来てもらった。ちなみに彼は槍の適正があった。
「この剣持てるか?」
「至って普通の剣…えっ?」
ドスンと音がして剣が落ちる。持つ事も出来ずにただ滑り落ちた。そしてフィルは落下した剣を持ち上げようとするが全く動かなかった。
「もういいぞ。戻れ」
「は、はい」
フィルは何が起こっているのか分かっていなかったが自分のいた場所に戻った。それをイザベラは見送り、リアーナの方を振り返った。
「これで分かったか」
「私専用の…改めてありがとうございます!」
「構わん。なら早速始めるぞ」
「はい!」
それから数ヶ月、リアーナに大剣の使い方を教えた。彼女の習得する速度は凄まじく、日が経つにつれて誰が見ても「強者」と言えるぐらいには成長した。
だがイザベラには勝てなかった。何回、何十回と打ち合った。しかし彼女を倒すどころかよろけたりもしなかった。
「まだまだだな」
「…もう一回お願いします!」
「分かった。だが次で最後だ」
ガキンッと鍔迫り合いを引き起こす。。それと同時にお互いの地面が凹んだ。それは完全な拮抗状態を意味していた。
「成長したな!」
「貴方に教えられたからですッッ!」
「なぁ…あんな笑顔になるのっていつぶりだ?」
「俺らが最後に見たのは…かなり前じゃないか?あのほらグリムス見つけた時」
「あー魔物と戦っていた時か。正直、周りに姐さんと同じ強さをもつ奴なんていないもんな」
「強いていうなら…サキとかギャランじゃないか?」
「でも姐さん手加減してるじゃん」
「あっそっか」
イザベラとリアーナが戦っている時、傭兵や騎士達は少し離れた場所で見ていた。すでに騎士団の強化は終わっていて、かなりの強さを持っていた。あとは彼女がイザベラを倒すだけであった。
「反撃してみろ!」
「ぐっ…このぉ!」
イザベラの止まらない攻撃にリアーナは防御に徹するしかなかった。イザベラの攻撃は一つ一つが重たく、油断するとすぐに吹き飛ばされる。「避ける」というのも1つの手段ではあるが彼女の前で避けれる者はいない。
「くっ…!」
「そのままだと前と同じだぞ!」
「まだまだぁ!」
なんとか彼女の剣を弾き、リアーナは前に踏み込んだ。そうでもしなければ不利なのは自分だ。前へ、前へ、イザベラのように足を止めてはいけない。止めた瞬間に自分が斬られる。
「貴方を倒します!」
「さぁ来い!」
懐に潜り込み全力で斬りあげるリアーナ。その時、彼女の見る世界がゆっくりになった。イザベラの剣の動きも動作も全てが見える。
「はぁぁぁぁ!」
お互いの剣が交わり、ガキンッと鈍い音がした。自分の剣を杖代わりにしてなんとか立ち上がるリアーナ。イザベラの方を見ると剣を持っておらず、ニコッと微笑んでいた。
「頑張ったな。私の負けだ」
「勝った…やっと…勝った!」
ウォォォォ!と歓声が上がる。最初の頃とは見違えるほどに成長した第6騎士団。全員が一騎当千の猛者となった。もはやこの国で彼らを馬鹿にする者はいない。
その後集合の合図をかけ、整列させた。全員がテキパキと動きすぐに集まった。
「3ヶ月間、よく私達の訓練についてこれたな。お前らはこれから本当の意味で国を護る騎士となる。もしまた機会があれば…最初のように集団で模擬戦でもしよう」
「「「「ありがとうございました!」」」」
これにて騎士団の強化任務が終わった。その後、イザベラは王城に戻ってアステールに報告した。
「さてと…全然お金が足らないのは分かるな?」
「…まさか3ヶ月もかかるとはな」
「当たり前だ。経験がある者ならまだしも…戦争に行った事すらない者ばかりだったからな」
「分かった。早急に手配しよう」
「話が早くて助かる。一旦私は領地に戻る。良いだろうか?」
「そうだな。イザベラには色々頼みすぎた。あとはこちらで対処する」
イザベラが騎士団を鍛え上げていた頃にアステールは様々な改革を施した。他国との友好関係、腐った貴族共の一掃etc…フライム王国はアステールの手によって生まれ変わったのである。
「これからどうするのだ」
「特にやりたいことは決まってない。まぁ久しぶりに個人で依頼を受けてもいいかもしれないな」
「そうか。ではまた…」
「あぁ」
その日のうちに馬車に乗り、遠くの景色を見ながら王都にいた時の事を思い浮かべる。すでに傭兵達は各々解散しており、今はイザベラとクローネ。そしてセバスチャンの3人。そして何人かの兵士を連れて帰っている。
「面白かったな…」
ボソッと呟いたイザベラにクローネは話しかけた。
「寂しいですか?」
「どうせまた会える。それに私と対等に戦える相手もいたんだ」
「確か…リアーナという方でしたっけ?」
「あぁ。彼女を引き抜きたかったが…仕方ない」
実はリアーナを引き抜こうとしていたイザベラ。しかし彼女は「この国を守りたいのでお断りします!たとえイザベラ様であっても…」と言われたのでやむなく断念。
「まぁいい。さっさと帰って休みたい。流石に動きすぎた」
「そうですね。少し滞在し過ぎた気もします」
「少し寝る」
「承知いたしました」
こうして長かったフライム王国の改革は幕を閉じた。
______
これにて第1章終わりです。人物紹介や閑話を挟んでから第2章に移行しますのでのんびり待っててくださいm(__)m
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