第8話 模擬戦闘

「お前らよく聞け」


始まりの合図と同時に一旦傭兵達を引き止めた。何故?と首を傾げている者もいるが、まずは聞いてほしいと呼びかけた。


「おそらくこの模擬戦は我々の勝利で終わる。誰もが予想できることだ。しかしそれではつまらん」

「何か縛りでも?」

「そうだな……私含めて259人。そのうち選抜して30人でアイツらを倒す。というのはどうだ?」


するとサキが手を挙げた。何か質問でもあるのだろうか。


「お金は出ますか?」

「もちろん。その30人には金貨100枚上乗せしよう。さらにその中の1人…もっとも活躍した奴に金貨100枚さらに上乗せしよう。これでどうだ?」


するとバッと手が上がる。傭兵達全員の手が上がっている事が分かった。


「やらせてください!」

「俺が!」

「私が!」

「いや俺が!」


イザベラの教訓を全員が理解しているせいで、お金にはがめつい。しかしすでに試合は始まっているので早めに決めなければならなかった。


「そうだな…サキ、ギャラン。お前達を筆頭に残り28人を選抜しろ」

「よし…」

「分かりました!姐さん!」


そんなこんなで選抜された30人は向こうの陣地目掛けて突撃していった。ちなみに2人共近接攻撃が可能な傭兵を中心に選んでいた。


「さて……向こうはどうなっている?」

「守るように組まれています。攻撃はしないのでしょうか?」

「警備担当の第六騎士団…基本的に王都の防衛を担当するのは第六と第五騎士団だ」


しかし王都の防衛は第五騎士団の役割。つまり第六騎士団まで防衛するということは王都が攻められている時ということになる。


「……弱くなるのも頷けるか」

「ですね。平和になりつつある世の中。仕方ないと言えば仕方ないでしょう」


依頼を受けて、戦い、報酬を貰う傭兵とは違う。来るかもしれない攻撃に備えて準備をしておくのが騎士である。


「あっ斬り込みましたよ。サキが」

「早いな」


遠くをよく凝らして見ると、サキが1人で騎士達を吹き飛ばしているのが見えた。ギャランは他の傭兵と共に集団で防衛線を突破しているのが分かる。


「サキは1人で行動するのが好きだからなぁ…だがサキを先頭にして一点突破しているように見える」


周りの傭兵はサキのサポートをしているので理にはかなっている。


「この調子ならすぐに決着がつきそうだ」


しかし…いくらなんでも弱すぎる。逃げている奴も何人かいるので全く鍛錬などしていないのだろう。そいつらを鍛えるのか…


「これから骨が折れるな…全く…」


はぁ…と大きなため息をついたところでパァンパァンと音が鳴った。この音は決着がついた合図である。




「勝負あり!ヴァルデン辺境伯陣営の勝利!」


模擬戦闘が終わった。傭兵達は全く疲れておらず、戦っていた30人もケロッとしていた。それに比べて第六騎士団は気絶している者や立ち上がれない者など死屍累々であった。


その光景を見ながらイザベラは思った。


「流石に弱すぎないか?」

「貴方達が強すぎるんですよ」

「む?そうか。しかしな…」


フィルが話しかけてきた。フィルも戦った影響からか鎧が汚れている。持っていた剣もどっかに弾き飛ばされたらしい。


「こんな無様な姿を晒して…すみません」

「いやいい。明日…いや彼らの体力を考えて明後日から君も含めて第六騎士団を強化させるからな」

「お願いします…」


トボトボと戻るフィルを見届けて、イザベラは傭兵達の方を振り返った。それまで騒がしかった傭兵達だが一瞬で静まった。


「お疲れ様。今回の戦い見事だった。今回戦ってくれた30人には今頃セバスが報酬を手配しているはずだ。あとで確認してみると良い。さて…これからの話だが…」


面倒だなと呟き、また話し始めた。


「あの第六騎士団を鍛える。基本的に私が訓練内容の指示を出すが、細かいところまでは手を伸ばせない可能性がある。なのでお前達がそのサポートをしてほしい。適正や細かい動き方などを見てもらえると助かる。できるか?」


「騎士団の連中は新兵みたいなものだ。むしろやらせてくれ」

「教えるだけで金貨100枚なら全然やるさ!」

「思うところはあるしな…」


ある傭兵はお金目当て、ある傭兵はあの弱さから思うところがあるのだろう。皆考える事は違うがやってもらえそうだ。というかやってもらわないと困る。


「「「「やらせてください!」」」」

「なら訓練は明後日からだ。明日は休みだ。ゆっくり休むと良い。では解散!」



こうして第六騎士団との模擬戦闘が終わった。



次の日、ギルド新聞にて大々的に報じられる事になった。タイトル名は『王国騎士団。ヴァルデン辺境伯に敗れる』


これを読んだイザベラは少し不満だった。それに気づいたクローネが紅茶を入れながら話しかけた。


「昨日のことですか」

「あぁ。だがこれだと私単体で彼らに勝ったような言い方ではないか。内容も…」

「確かに…しかしイザベラ様お一人でも勝てますよね?」

「それは…そうだが」


彼女に正論を言われムスッとした顔のまま何も言い返せないイザベラ。それを見たクローネはクスッと笑ったという。








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