第9話 傭兵と騎士の差
休みを挟み次の日。傭兵団と騎士団は前回模擬戦闘をした平原に来ていた。ちなみにここから先はイザベラの自由にやっていいらしい。
「おはよう。諸君。体力は回復したかな?」
「姐さん!俺は元気だぜ!」
「お前らには聞いてない。騎士団に聞いているのだ。で…どうだ?」
反応がない。まだ疲れているのか、それとも怯えているのか…分からない。少し煽るか。
「だから弱いのだ。騎士という位に溺れ、鍛錬もせずに…それで王都を守れるというのか。雑魚共」
そう言うと、騎士の誰かの声が聞こえた。
「で、でも!今は平和だ。争いもない。鍛錬の意味がないじゃないか!」
「そうだ!そうだ!」
「いつ来るのか分からない戦争に鍛錬するのはあまりに…」
ワーワー言ってくる騎士団連中を見て、イザベラの表情は笑顔になる。傭兵達はそれを見て「あーあ…」と呆れたような表情になった。
「元気はあるみたいだな。なら体力、筋力をつけるためにこの王都外周15周!行ってこい!」
「「「「え?」」」」
突然の命令に困惑する騎士達。さらにイザベラが拍車をかけた。
「今走らない奴はあとで私と一緒に走る事になる。ちなみに30周。傭兵のお前らは行けるな?」
「もちろん」
「当たり前だ。鍛えてもらったし」
「これぐらいは余裕…」
「というわけだ。さっさといけ」
「「「「「は、はい!」」」」」
バタバタと走り出す騎士を見送り、傭兵達の方を向いた。全員こっちを見ている。まるで犬のようだ。
「行くのは彼らが2周してからだ。全速力で行くから、準備しとけ」
「もう準備は出来たぜ!」
「俺も…」
「私も…」
みんなやる気十分である。しかし何故そんなに元気なのかというと、イザベラが傭兵の頃、依頼などが無い日は誰かしらを鍛えていたのである。
しかし彼女が貴族になってから忙しくなり、だんだんと誰かを鍛えるというのはなくなっていった。
なので久しぶりに彼女と一緒に体を動かせるので傭兵達は元気なのである。別の言い方をするなら「慕われている」という言葉が合う。
「さて2周したな。行くぞ」
「「「「「はいッッ!(姐さん!)」」」」」
ズドドドド……
カタカタと水が入ったカップが揺れる。細かい振動はしばらく続いた。ある者は「何かが目覚めた!」と考えたり、ある者は「モンスターが襲ってくるんじゃ…」と考える者もいたが……
「この音…久しぶりですね」
「彼女が辺境伯になってから…1回か2回聞いたぐらいでしょうか?」
王城の執務室にてセバスチャン、クローネが話している。2人は書類の手伝いをしていた。アステールはこの振動が何なのか分からなかった。
「この音は一体…?」
「アステール様はご存知ないのですか?」
「予想はついている。イザベラが何かしているのだろう?」
「そうですね。イザベラ様は今騎士団の皆さんを鍛えています。そしてこの音はイザベラ様と傭兵の皆さんが走っている証拠です」
「…?」
ポカンとした表情になったので説明を続けた。
「じゃあこの揺れはなに?と思っていますね。例えるなら……」
「ここからは私が説明しましょう。それと一旦休憩です」
紅茶や菓子を持ってきたゼバスチャン。作業の効率を上げるためにも一旦休みながら話を聞く事にした。
「馬に例えてみましょう。馬が沢山いたとして走り出したらどうなるか?」
「足音がこう…ドドドドっと」
「そう。それと同じです。イザベラ様を含む、傭兵の皆さんが走っている影響で地響きのような音が聞こえるのです」
「……なるほど」
カップを置いて、セバスはイザベラについての話をし始めた。
「何故彼女が魔力を一切持たないのか知っていますか?」
頭を回転させて考えるが、答えは出ない。唯一知っているのは魔力を持たない者は差別されるという事だけだった。
「…分からない」
「呪いですよ。まぁ
「一応。伝説の一種だと思っていたが…」
「私もそう思ってました。しかし思い出してみてください」
彼女の身体能力やあの大剣…グリムスを持てる腕力。さらに長時間動き回る事ができる無尽蔵の体力。
到底、努力で賄えきれないことは明白だった。
「古い文献にも同じような人がいたと記録されていますから確実でしょう」
「なるほどな」
紅茶を飲みながら街の景色を見た。改めて彼女と
「さてと良い休憩になった。続きをやろう」
「「かしこまりました」」
ズドドドド…
「姐さん!久しぶりですね!」
「鍛錬は1人でもやっていたが…皆でやるのもたまには良い。速度を上げるぞ」
「「「「はい!」」」」
凄まじいスピードで王都の外側を周る。騎士が1周するころにイザベラ率いる傭兵団は2〜3周。しかし騎士達は周回数を重なるごとにだんだんと速度が落ちていき遅くなる。
それに比べて傭兵達は全くスピードを落とすことはなく、少しずつペースが上がっているようにも見える。
ちなみにペースを上げているのはイザベラである。つまり傭兵達はイザベラの速度に追いつける脚、体力を持っていたのであった。
「にしても騎士の奴らは体力がないな…あんなに重い鎧をつけて走り回るのは厳しいんじゃないか?」
「我らのような戦場を転々とするような職業とは違う。当然実戦経験も乏しい。そこが一番の違いだろうな」
「それもそうか」
こんな調子で雑談しながら走れるほどには体力がある傭兵達。気づけば、騎士が10周する頃には30周を走り切ったのであった。
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