第2章・破滅を招く道
ギルドからの呼び出し
「はぁ…つまらん」
目の前には2つに斬られた魔物がいた。しかし彼女にとっては弱い部類に入るのであまり手応えがない。今回も一振りで終わってしまった。
「アステールからの呼び出しもない。かと言って領地の経営などの執務は頭が良い元傭兵の奴らにやらせている。私のやるべき事がない…」
イザベラも貴族になる手前、貴族の基礎知識を学んだ。マナーや領地の経営など…しかし彼女がそういったことをやろうとすると「イザベラ様は自分のやりたい事をやってください」と言って仕事を取り上げていくため、暇な時は街を散策したり依頼を適度にこなしている。
今、彼女のやっている依頼は大型のモンスターの討伐。また場所がヴァルデン領なのでイザベラが向かったのである。
「まぁいい。さっさと報告するか」
倒したモンスターの討伐部位や売れる物を分け、それ以外は燃やした。この燃やす作業を怠るとアンデットになる可能性があるので必ずやらないといけない。
しかし魔法が使えないイザベラは火起こしから始め、燃料となる草木を使って火力を大きくする。だがこのやり方だとモンスターの素材は燃えにくい。
そのため粉状になるぐらいに細かく砕いてから少しずつ燃やす。この方法は魔法が発達するまで当たり前であった。
「昔からのやり方だが、私はこの方法が好きだ」
パチパチと燃えるのを眺めながらぼーっとする。小鳥のさえずり、風が吹く音、遠くの方で水が流れる音が聞こえる。イザベラはこのなんともいえない時間が好きだった。
「よし。ギルドに戻ろう」
燃え尽きたのでギルドに戻ることにした。当然火の始末などはしっかりと行った。
街に戻り、「傭兵ギルド〜ヴァルデン支部」と書かれた看板が目印の建物に入る。すると騒がしかったギルド内が一瞬にして静まり返った。
「アイツ…どこ行った?」
いつもの受付嬢を探すが見当たらない。するとぴょこっとカウンターから顔が出てきた。
「あっイザベラ様!早かったですね?」
「リリー。小さすぎて見えなかったぞ」
「小さいのは昔からです!」
むすっとした彼女を見てイザベラは笑った。領主となった時にここのギルドを訪れたのだが、その時に対応したのがリリーでそれから気づけばイザベラ専属の受付嬢となっていた。
そして会うたびに身長について揶揄っている。彼女のいる窓口に行き、討伐部位や素材が入った袋を置いた。
「討伐部位だ。確認してくれ」
「承知しました。にしても最近ずっと依頼を受けてもらっていますけど…執務は大丈夫なんですか?」
「仕事は全部部下に取られた」
「えぇ…」
困惑しながら討伐部位の合致を確認していく。今回は1頭だけだったので一瞬で終わった。
「今回も依頼達成です。カードを提出してください」
「あぁ」
ギルドカードをリリーに渡す。イザベラのギルドカードは赤黒く輝いていた。そしてリリーがギルドカードを魔導具に通すとカードは淡い光を発した。
「これでよし。あっそうだ!本部からイザベラ様宛に手紙がきてます」
「本部から?」
「そうです。でもどうしてですかね?」
「…まぁ私のランクだからというのが答えじゃないか?」
「あー確かにそうかもしれません」
このギルドカードというのはその人の実力、実績などを保存するデータベースのようなもので、それらを精査した上である「基準」に達しているとランクが上がるような仕組みである。
ただし、依頼に失敗したりするとペナルティが発生する。さらに高ランクであればあるほど、一度の失敗がランクを下げてしまう要因にもなり得る。そのため高ランクの傭兵は入念に準備をする者が多い。
これだけを聞くと「高ランクを目指さなくても…」と思うかもしれない。だが上にいけばいくほどギルドの様々な恩恵が受けれる。また報酬が沢山もらえる指名依頼も出来るようになるのだ。
ちなみに前にも説明したが「ランク」はF〜Sまで存在する。彼女も以前まではSランクであった。しかし他のSランクの傭兵とイザベラの強さは格が違うことが判明。ここで問題なのが先程述べた「基準」である。
この「基準」はそのランクになるための実績や依頼達成率など…そのランクの傭兵全員の強さの度合いの平均で決められている。AランクになるためならAランクの平均値を超えている事。SランクならSランクの…という形である。
何故そのような方法なのかというと、依頼を出す側が安心するからである。危険な依頼なのにFなどの低い等級の傭兵を行かせて失敗したとなれば、それは派遣したギルドの信頼に関わる。そのためこの「基準」というのは大事なのであった。
また日によってその「基準」が変わるというのが特徴である。ランクアップした傭兵がいるとそのランク帯の強さの度合いが変わる。そのため「昨日は大丈夫だったのに、気づいたらランクが下がっていた」というのも少なくない。
そしてイザベラについてだが…Sランクになってからほぼ休みなしで、依頼を達成していったせいで一気にSランクになるための「基準」が引き上がった。
なのでギルドは緊急でイザベラ専用のギルドカードを制作。
その結果、Sランクの基準はなんとか元に戻った。現在の彼女の強さは「判別不可」という位置付けに落ち着いている。そのため誰も手を出さない。彼女がギルドに入った瞬間に静まり返った理由もなんとなく分かったはずだ。
「えぇと…これです」
リリーが奥から一つの封筒を持ってきた。
「ここで見てもいいか?」
「どうぞ」
封筒を開けると1枚の紙が入っていた。イザベラはそれをゆっくり読み、読み終わると再び封筒に入れた。
「何が書かれていたのです?」
「詮索するのはダメなんじゃないか?」
「あっ…すみません。気になって…」
「本部に呼ばれた」
「えっ?」
1人の傭兵が本部に呼ばれる事はこれまでなかった。そのためイザベラだけが呼び出されるという事はかなりの事態だという事が分かる。しかし何故呼ばれるのか2人とも疑問があった。
「えっ?でもそんな大きな会議とかはない…」
「何か怪しいな」
「どうするんですか?」
「暇だから行く」
「えぇ…そんな軽く決めていいんですか?」
ここ最近のイザベラは特にやる事もなく。惰性で依頼を受けており、作業感覚でモンスターを倒していた。そのため少しだけワクワクしている。
「…分かりました。ではよろしくお願いします」
「承知した」
封筒を上着の内ポケットに入れてギルドを出た。
「セバスと…クローネ、連れて行くか。前に一緒に依頼を受けたいとも言っていたしな」
依頼ではなくギルド本部からの呼び出しなのだが…ともかくイザベラは足早に屋敷に戻った。
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