第3話 依頼去ってまた依頼

「帰ってきたぞ」

「お帰りなさいませ。イザベラ様。やはり早かったですね」

「一瞬で終わってしまった……つまらん」


セバスチャンの予想通り、彼女は日没前に帰ってきた。しかし久しぶりの戦闘だったのか彼女の服はかなり汚れていた。


「ですが服装から見るに、かなり楽しんだように見えますが?」

「少し…な」


フフッと笑い、彼女は上着を脱ぎセバスチャンに渡した。一張羅ではないが数が少ないので洗ってもらうことにした。


「もう夕食の時間になりますが、どうなさいますか?」

「できれば、先に湯浴みをしたいが…」


するとセバスチャンがイザベラ様…と暗めの声で言った。歩いている廊下が少し寒くなった気がする。


「クローネにクッキーを焼いてもらったそうですね」

「うぐっ」


完全に忘れていた。いつも通りの日、何事もない日だと思っていたのでクッキーを焼いて欲しいとお願いしたのだ。そこで丁度依頼がやってきてしまったというわけだ。


「依頼を伝えるタイミングを間違えたのは私の失態です。しかしクローネは落ち込んでましたよ」

「それは…すまない。なら先に食事にしよう」

「承知しました。クローネに伝えてきます。イザベラ様はごゆっくりどうぞ」


そう言い、スタスタと小走りで台所の方向に向かっていった。




食堂に行くと、料理を並べているメイドのクローネがいた。心なしか落ち込んでいるように見える。


「クローネ。今日はすまなかった」

「仕方ないです。久方ぶりの依頼だったんですよね?」

「あぁ…」


するとクローネは手を止めて、こっちを見た。じっとこっちを見てくるので少し怖い。


「楽しかったですか?」

「とても楽しかった」

「なら良かったです。次の依頼は私も連れて行ってください」

「わ、分かった。考えておこう」


久しぶりに彼女の怖さを味わった。クローネも強者の部類に当てはまる。なので彼女も戦いたいのだと私は思った。


前の依頼も私1人でクリアしてしまい今回と同じような詰められ方をされた。次の依頼は絶対に彼女を連れて行こう。


「食事の用意ができました」

「うむ。いただこう」


料理を食べる中で疑問に思ったことがあった。


「クローネは自分で何か依頼を受けようとは思わないのか?」

「主様と一緒じゃないと嫌です」

「……ギルドランクはいくつなんだ?」


ギルドランクというのは、ギルドが作った強さの基準である。「FランクからSランク」まである。


「えっと…これですね」

「金色のカード、Aか」

「そうですね。夜にコツコツやってました」


確かにこれなら一緒に依頼を受けることは可能だ。まぁ私のランクは少しなのだが。


「分かった。次の依頼は必ず連れて行く」

「ありがとうございます」


尻尾が揺れた。これは嬉しいリアクションだな。よしよし。


「失礼します。イザベラ様」

「セバスか。何かあったのか?」

「いえ、今回の依頼について完了した事を報告しに」


まだ数刻しか経ってないのに完了したことにイザベラは驚いた。王国も動きが早い。まさかと思いセバスチャンに尋ねた。


「ん?魔法筒を使ったのか」

「えぇ。速いので」


魔法筒というのは最近開発された伝達手段の一つである。同じ道具を「ある場所」と「ある場所」の2箇所設置し、魔力を流すことで簡単に手紙などを送れる道具。


要するに物を移す専用の転移道具である。


しかし制作コストが高すぎるので、重要な場所にしか置かれていない。ちなみにイザベラ達が住むこの屋敷と王城に置かれている。



「魔力持ちは便利だな」

「しかし私はあまり魔力がないので、1日に2回が限界です」

「私なんて魔力すらないんだぞ」


フフッと悲しそうに笑う。セバスチャンが魔力を持っていることに対して羨ましそうに見える。


「しかしあなたはそれ以上の強さを持っているではありませんか。魔法を放たれても元気に動き回れるぐらいには」

「まぁそれもそうか」


カチャンとナイフとフォークを置いて口元を拭き、立ち上がった。


「ご馳走様。今日も美味しかった」

「光栄に思います」





翌日、依頼の報酬金と国王の手紙が魔法筒によって送られてきた。お金はいくらあっても良い。今私は執務室で手紙を読んでいる。


「あいつ…本当に大丈夫なのか?」

「国王の事ですか」


手紙の内容は感謝のお礼と共に最近の王都での情勢が書かれていた。国王側が少し不利な状況らしい。やはり味方があまりいないというのが問題である。


「しかし何故だ?王のやろうとする政策はどれもメリットしかない。それなのに何故賛同しない?」

「そうですね。これは私の考えですが」

「よい、申してみろ」


それでは、コホンと咳払いをしてセバスチャンは自分の考えを話し始めた。


「いまこの国の貴族がどのくらいあるのか分かりますか?」

「全部は細かく把握出来ていないが……上から男爵まで200家ぐらいか?」

「そうです。全部で204家存在しています。その中でこの王国が出来た時から存在するのはいくつでしょう」


紅茶を飲みながら私は考えた。傭兵の頃よりも頭を使うようになったので最近は紅茶やコーヒーなどを好むようになった。


「4つ。4大公爵だ」

「正解です。そしてこの4大公爵の当主はおよそ40年以上変わっていないんです。」

「全員か?」

「えぇ。まぁその中でも国王側についているのが1つ」

「えぇと……ダメだ。名前が思い出せん」


名前などを覚えるのは苦手なので覚えていないが、顔はなんとなく覚えている。話をわかってくれる人という印象でしかない。


「なんとなくでいいです。イザベラ様は貴族の中でも特殊ですし、職業は傭兵ですから」

「そうか」

「あくまでもこんな人がいる程度で構いませんよ」


話を戻しますと言って、セバスチャンは続けた。


「国王側についている公爵は簡単に言うと国王と同じ考えを持っています。使える人材は誰であろうと使う」

「では残りは?」

「貴族が上につくべきだという昔ながらの考えです。正直40年前は貴族至上主義が当たり前な時代なので仕方ないかと」


イザベラは「なるほどな」と思った。盗賊に敗れた時も作戦を立てたのは一度も戦場を経験してなさそうな貴族連中であった。


そう考えた時、イザベラは何故国王が嫌われているのかなんとなく分かった気がした。


「おい…嘘だろ。まさかとは思うが国王に実績を作らせないようにさせたいのか?」

「やっと気づきましたか」

「前に王都に行った時にクローネに言われたこと。そしてセバスが言っていたことを思い出したのだ。冗談交じりで話していたが本当だったとは…」


はぁ…と大きなため息をつき、額に手を当てた。そんなくだらない理由で反対するとは思いもしなかった。


「ですが…」

「なんだ?続きがあるのか?」

「そういった貴族至上主義的な考えはもうその3家しかありません。しかし権力が強いので下の階級の貴族達は従うしかないのです」


なるほどと頷き、話を聞いて思った。


「その当主3人どうにかできないのか?」

「偽の犯罪をでっち上げたり、暗殺でもしない限り何も出来ません。もしそれが出来たら当主が変わり国王側につくでしょう。当主の御子息は貴族至上主義に疑問を持っているようですし」

「……お前はその情報どこから入手してきるんだ?」


ニコリと笑いながら「秘密です」と言った。

すると突然コンコンとドアがノックされた。声をかけると扉越しからクローネがやってきたが少し急いでいるようだ。


「失礼します。また国王からの依頼です」

「依頼内容は?」

「公爵家に関する依頼だそうです」


そう言われた時、イザベラはセバスチャンの方に顔を向けた。セバスチャンは信じられないと驚いている。


「ちょうどその公爵について話していたところだ」


そう言ってイザベラはニヤリと笑った。











































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