手紙を送った犯人
翌日早朝、イザベラ達はセバスの隠れ家で情報交換を行った。今日から会議が始まってしまうのでなんとか有効な情報が欲しい。
「では私から…」
「頼む」
コホンと息を整えてからセバスチャンは話し始めた。
「まずはアステール様に連絡しました。その後すぐに返事がきて、どうやら隣国の兵士達が集まっているそうです」
「まぁ防衛は大丈夫だろ。それに私の領地に傭兵もいる」
「えぇ。彼もイザベラ様からの最初に手紙を貰った時、嫌な予感はしていたそうで。周辺国の警戒を高めたそうです」
国の心配はなさそうだなと考え、別のことについて聞くことにした。
「それで誰が送ったのか分かったか?」
「えぇ。ですが…傭兵ギルドの人達ではありませんでした」
「なに?」
ガタッと立ち上がるイザベラ。これまでルークの名が入った手紙という観点から傭兵ギルドの誰かがやったという予想が外れた。確かにルークがやってないと言っていたので疑問にはなっていた。
「で…誰なんだ?」
「生産ギルドです。私も驚きましたよ」
「よりによってそっちか…」
傭兵ギルドと生産ギルドは同じ組織ではある。しかしイザベラは生産ギルドに関わることはなかったのでその人達をあまり知らない。
「一応名前は聞いておこう。誰なんだ?」
「バルド・グリム。別名『鉄の王』」
「知らないな」
「まぁ貴方様は商売に興味ないですからね。一応彼について簡単に説明しときます」
そう言ってセバスは彼について説明し始めた。
「たった一人でのし上がった天才商売人。また仲間に裏切られたりして破産寸前に追い込まれながらも立ち上がってきた男です」
「ほう?」
「二つ名の訳ですが…。顔の表情を崩さずに淡々と商談をこなす。また生産ギルドの長として強固な支配力を持つという2つの理由から『鉄の王』と言われています」
「詳しいな」
「裏の情報です」
ニコニコと笑うセバスチャン。彼にかかれば誰でもどこにいるのか、弱点なども分かってしまうため末恐ろしい。
「だが何故彼がルークの名義を?だとしたらどうやったんだ?」
「基本的にギルド本部に呼ぶという事はギルド長がそう命令したという事となんら変わりません。なのでそういったツテがあったと考えるしかないでしょう」
これ以上調べれることはありません。そう言ってセバスチャンの調査報告は終わった。
「…まぁいい。じゃあ次クローネ」
「はい。セバスチャンから聞いた通りでこちらもバルド・グリムという名が出てきました」
クローネに調べてもらったのはアゼリアにある組織と何か関係があるのかという事について調査してもらっていた。すると彼女は何枚かの紙を2人に渡した。
「これらは写しになりますが、どうやら教会と繋がっていたようです」
「ちっ…面倒になってきた」
教会・・・世界で最も絶対的な権力を誇る、最も厄介な組織。正式名称は聖エルドラ教会。はるか昔にエルドラという聖人がいたらしく、その人を崇拝する教会らしい。
また入信する条件も厳しくはない。ただエルドラという聖人を敬えば良いだけ。そのため信者の数は他の宗教よりも群を抜いて大勢いる。しかし基本的に傭兵達は宗教など信じていない。むしろ毛嫌いしている面がある。イザベラもその1人であった。
「神だか聖人なんかを信じて何が救われるんだ。ただのまやかしにすぎん」
「話を続けます。どうやら彼はかなり教会に献金しているようです。また彼の出身国…ウィンドミア帝国と教会が彼経由で繋がっていることが分かりました」
ウィンドミア帝国。フライム王国の2.5倍の国面積を持つ軍事大国。皇帝による独裁政治で成り立っているらしいがそれが本当なのかは分からない。またイザベラの持つ領地はウィンドミア帝国の領地と接していた。
「なるほど。そいつが失敗しても処分すれば教会がやった事にはならない。ましてや後ろにいたという事実も消え去るわけか」
「はい。よく考えられてます」
「やっぱあの時…潰すべきだったか…」
そう言ってブワッと殺意が溢れ出た。その場にいたセバスとクローネは冷や汗をかき、緊張が走る。すると何か思い出したようにセバスの方を向く。それと同時に殺意が消えていくのを2人は感じとった。
「もし…帝国との戦いが長引いたら?」
「イザベラ様の参戦が無ければ厳しいかと」
たとえ、戦力が五分だとしても物量差で押される可能性が非常に高い。その先にあるのは滅亡である。ギルド会議が長引けば長引くほど王国側が不利になる。
「なら聖騎士が来る可能性はあるか?」
「征服戦争になってしまうのならあり得ます」
「だろうな」
征服戦争…教会が唯一発令することができる戦争宣言。これが発令されると各地にいる信者は教会の命令に従わなければならなくなるため、国が内部から崩壊していく可能性がある。また教会には聖騎士という暴力装置がある。
…がイザベラは紆余曲折あって教会を潰そうとし、そのついでに聖騎士達も殺した記憶があるため新しい聖騎士が出てきたとすぐに分かった。
「取り敢えず今回のギルド会議には出るが早急に会議を終わらせる。その後背後からウィンドミア帝国を攻める。戦争法に違反はないな?」
「えぇ。大丈夫です」
戦争法…全ての国が了承した戦争の国際ルール。これに違反するとイザベラであっても処罰は免れない。今回はフライム王国とウィンドミア帝国の戦争でイザベラは王国側の貴族。そのため帝国の背後から攻めても戦時下なら問題にはならない。
「次にやってもらいたいのはクローネ…私の側近としてついてきてくれ」
「承知しました」
「セバスチャンはギルド周辺の警戒を傭兵と協力してやってくれ。もしかしたら私が暗殺される可能性もなくはない」
「分かりました」
よし…と言ってイザベラは椅子から立ち上がった。すでに外は明るくなっておりもうすぐ会議が始まる。
「ちょうどいい時間になったな。行ってくる」
「行ってらっしゃいませ。どうかご無事で」
「お前も」
「はい」
そう言い残してセバスチャンは消えた。それからイザベラは大剣を背中に担ぎ、クローネは彼女の背中を追うように部屋の外に出た。
「さて…行くとしよう」
「はい。あっイザベラ様1つだけ伝え忘れてました」
「なんだ?歩きながら話そう」
「教会について調べていましたが、どうやら新しい武器を開発しているようです。帝国と協力して」
「それはどんなやつなんだ?」
そう言って、彼女の方を見るとなんともいえない微妙な表情をしていた。
「まだ名称は決まってませんが魔法…魔力が込められた金属の塊を大砲や小型の筒に詰めて発射する代物です」
「他に何か言っていたか?」
「例の相手と王国に実験すると…」
間違いなく自分とフライム王国の事だろう。おそらく教会と帝国が手を組んだのは利害の一致だ。
教会はイザベラを殺したい程恨んでいる。それに対して帝国は領土を広げたい。しかしフライム王国には『国潰し』の名を持つイザベラがいるため攻めたら逆に滅ぼされる。そのため帝国出身の彼を経由してイザベラをアゼリアに呼び、その間にフライム王国を攻め落とすという流れだろう。よく考えられている。
「まぁ大丈夫だ。なんとかなるだろう」
「私は不安です」
「何のためにセバスチャンを警備にさせたんだ?」
「そう…ですね。一応イザベラ様も気をつけて」
「お互い様だ」
そう言いつつもクローネはどうしてもその不安感を拭えなかった。
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