ギルド会議

2人でギルドの方に歩いていると向こうから大声で何かを言いながら紙を撒いて走ってくる男がいた。何やら緊急事態らしい。


「号外〜!号外〜!戦争が始まったぞ〜!」


そう言いながら男は走り去っていく。おそらくギルド新聞の者だろう。イザベラはヒラヒラと落ちてくる紙を手にした。その紙には大きな文字で『帝国、進軍開始』と書いてあり、彼女の予想通りになった。


「戦力差は大きい…か」


紙に書いてある文面を見ながら呟き、紙をクシャッと握る。しかし彼女はニヤっと笑っていることにクローネは気づいた。


「楽しそうですね」

「すまん。傭兵にとって戦争というのは金を沢山貰える…言わばボーナスゲームみたいなものでな。昔の記憶が蘇った」

「…それはどんなに弱くてもですか?」

「あぁ。参加報酬が元からあって、それに自分の貢献度を加味して金が払われる。たとえその国が負けたとしてもな」

「なるほど」


戦いを職業にする傭兵。たとえ負けたとしても生きているその傭兵に報酬を払わないといけないのである。


「だが…負けが確定したら基本的にお金が払われる事はないと思った方がいい」

「それはどうしてですか?」

「負けた国に金を払える余裕はない。だから無茶苦茶な作戦に投入して殺す。それで金を払う必要は消える。傭兵は所詮その国の兵士以下。使い捨てみたいなものだ」


それで死んでいった者を何人も見てきたと小さな声で呟き、寂しそうに遠くの方を見つめていた。するとクローネが疑問を投げかけた。


「イザベラ様は悔しくないのですか?」

「悔しいって何がだ?」

「傭兵という役職がそんな…」

「確かに誰でも傭兵にはなれるから地位は低い。だが死んでいった奴らは単に運がなかったか、そもそも弱かっただけと私は考えている」

「…」


イザベラの言う事は割と的を得ている。強かったら生きれる可能性はあったし、負ける国を選んだ自分の運の無さも死ぬ要因となった1つだろうと彼女は言った。


「同期の奴らはルーク含めて、今は数える程しかいなくなってしまった。だが死んでいった傭兵や殺した兵士、民など…数多の屍の上に私やルークは立っている」

「ですが…」

「まぁそれが実績にもなる。クローネが深く考える事はない」

「はい…」


クローネはイザベラの事を心配していたのだろう。ポンッとクローネの頭を撫でて彼女を落ち着かせた。嬉しいのか耳がぴょこぴょこと動いている。




「さて着いたぞ」

「は、はい」


ギルドは昨日とは違い静寂に包まれていた。確かに各ギルドの支部長、そしてギルド長がここに集まるのだから無理もない。ちなみにギルドの建物は2つある。片方は生産ギルド。もう片方に傭兵ギルドの建物があり、その建物の間に専用の会議室が建てられている。


「イザベラ様ですね。お待ちしていました」

「あぁ。こっちは従者のクローネ。ランクはA。問題ないな?」


昨日の受付嬢が向こうから歩いてきた。イザベラは自分のカードをクローネはクローネのギルドカードを見せると受付嬢は頷いた。


「えぇ。問題ないです。ではご案内します」

「頼む」


受付嬢の後ろをついていくと、重厚な扉の前に着いた。すると彼女は扉の横に逸れた。


「ここから先は…」

「案内ありがとう」

「では失礼します」


両手でその扉を押してあけると、長方形の議場が目の前に広がった。中央に行くほど低くなっていて、すでに何人か座っている。


「クローネは初めてだから説明しておくが……こっち側が傭兵ギルド。真ん中から先が生産ギルドの奴らが座るところだ。それであそこに議長が座る」


ここの議場は傭兵ギルドと生産ギルドが真正面に向き合うように造られている。元々扇状の議場だったらしいが、前の傭兵ギルド長が今の形の方が楽だと言って独断で建て替えたらしい。そのせいで生産ギルドとあまり仲が良くないそうだ。


「なるほど…私はどちらにいれば?」

「あーそれは聞いてないな…ちょっと待ってろ」


そう言うと、最前列に座っていたルークのところに向かっていった。そして何か話した後、こっちに戻ってきた。


「クローネの役割は覚えているな」

「はい」

「ならいい。ルークが強引に話を通して、私の隣に座ることになった」

「なるほど…分かりました」


表情はあまり変わらない…が、尻尾が動いているのでおそらく嬉しいのだろう。欲を言えば笑ってほしい。


「私達はルークの隣だ」

「承知しました」


ルークの席に近づくと、2人に気づいた彼がこっちを向いて立ち上がった。


「さっきはありがとうな」

「全然構わないよ。イテテテ…君がクローネだね。今日はよろしく頼むよ」

「こちらこそよろしくお願いします」


昨日、戦ったばかりにまだ癒えてないようだ。クローネはルークと握手した時、手に包帯が巻かれていることに気づいた。


「にしても良いのか?下手したら議場を壊すことになるぞ」

「構わない。全責任は俺が持つ。所詮相手は知識で物言う煩いだけの奴らだ。昔は学がないと言われた傭兵ギルドだが…今はそうじゃない」


生産ギルドの言ってはならない地雷を踏み抜いているルークを見て、イザベラは笑った。


「面白い。言質はとったぞ。それと今セバスチャンがこの建物の警戒にあたっている」

「本当か⁉︎」

「あぁ」

「なら大丈夫じゃないか。あの人なら」

「正直味方で良かった」

「間違いない」


するとあの…とクローネが手を挙げた。何やら疑問があるらしい。


「セバスさんはそんなに凄いんですか?元々暗殺部隊に所属していて裏の世界では有名と聞いてましたが…」

「部隊に所属していた頃は凄かったよ。俺も死にかけたし」

「そうだったのか?初耳だぞ」

「まぁ誰にも話してないからね。夜寝てたらいきなり喉元にナイフが落ちてきて…避けても避けても至る所から刃物が現れて俺に向かってくるんだから。流石にあの時は死を覚悟したよ」

「凄いですね…」


日頃からメイドと執事という立場で世間話をしているため、彼女から見た彼はいつもニコニコしていた。もちろん昔の事情は知っていたがまさかそこまで凄いとは思っていなかった。


「割と顔に出るようになったが、昔は表情一つ変えずに任務を遂行する猛者だった。何回か手合わせしたが…もし彼が全盛の頃なら私も苦戦しただろうな」

「そんなに…」


クローネが驚いていると真正面に男が座った。ルークがそれに気づき、2人に目配せした。


「あいつがバルド・グリムだ」

「真面目そうだな」

「そう見えます」

「頭は良い。商いに関して右に出る者はいないと言われてるしな。だが中身は真っ黒」

「なるほど」


イザベラは彼が黒いオーラを放っているのに気づいていた。それが彼自身のモノなのか殺された奴らの怨みなのかは分からない。しかしとんでもない切れ者が目の前にいるということがよく分かった。












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