第1章〜どうぞ幸せになってほしいなんて しおらしい女じゃないわ〜⑬

 午後10時を過ぎた頃――――――。

 メッセージアプリの無料通話機能の着信通知が表示される。


「やっほ〜! 遅くなって、ゴメン。ちょっと、仕事が長引いちゃってさ〜。で、どうだったのよ、高校初のクラスメートとのカラオケはさ?」


 応答ボタンを押すと聞こえてきたのは、オレに本日のレパートリーのセットリスト(?)をコメント付きで推薦してくれた張本人、母親の妹にあたる叔母のワカねえだ。


 ――――――ワカねえのおかげで、なんとか盛り下がることなく、無事に歌い切ることが出来たよ! 本当にありがとう。


「イイって、イイって! それより、『アニソンばっかじゃん!?』って、参加してる子にツッコミ入れられなかった(笑)?」


 ――――――あ〜、それは、歌い終わったあと、クラスメートの女子と二人になった時に言われたよ(苦笑)なんか、ワカねえの選曲をバカにされたようで、ちょっとムカついた……。


「そっか、そっか〜。まあ、あの選曲じゃ誰かは気づくよね(笑)でも、宗重むねしげが楽しめたのなら、私も少しは役に立てて嬉しいよ」


 ――――――うん、ホント、ワカねえの選曲のおかげで、カラオケ自体は、思ってた以上に楽しめたんだけど……そのあと、ちょっと、参加者同士の修羅場的な雰囲気になっちゃってさ……


「え〜、なにそれ!? めっちゃ気になるじゃん! 詳しく聞かせてよ、く・わ・し・く!」


 相変わらず年齢差を感じさせないノリでたずねてくる彼女の最後の言葉は、メッセージ交換なら、kwskって古いネットスラングの表記になってたんだろうな、と苦笑しつつ……。

 オレは、一昨日、ヨネダ珈琲で目撃した委員長コンビのナミダ・エピソードから、オレがカラオケに参加する羽目になってしまった経緯、そして、本日の久々知大成くくちたいせいを巡る名和立夏めいわりっか上坂部葉月かみさかべはづきのマウント合戦(と言っても、ほぼワンサイドゲームだった)について、ワカねえについて、時系列を追って説明した。


「いや〜、クラス内では、ほぼボッチだって言ってたのに、いきなり、ハイレベルな現場に居合わせてるじゃん! 何事も経験だし、イイことだよ(笑)」


 ――――――いや、マジで笑い事じゃないだって! なにが悲しくて、気を遣いながらカラオケに参加して、他人の修羅場に巻き込まれなきゃならんのよ……理不尽すぎるわ!


「まあまあ……他人の恋愛模様を観察しておくのも、良い人生経験になることもあるよ。その子達の言葉や振る舞いに納得いかないなら、反面教師にして、自分は同じことをしなきゃイイんだからさ」


 そこまで言われて、オレは、カラオケの場が、ほぼお開きになった小休憩のときに、クラスメートと交わした会話のことをワカねえに伝えることにした。


 ――――――ちょっと、ワカねえに聞きたいんだけどさ……女子って、告ってくる男子を避けるために、誰かと付き合ったりとか、打算的なことをするのは普通のことなん?


「あ〜、大学生くらいになれば、まあ、そう言うことも増えてくるかもね……(苦笑)けど、高校生でそこまで考えなくちゃならないなんて、そのは、よっぽど、男子にモテるんだね(笑)」


 ――――――たしかに、モテるのは事実かもだけど……あっ、それで、思い出した!


「ん、ナニよ?」


 ――――――さっき、クラス委員の男子と転校生が、『アナ雪』の『とびら開けて』を歌ったって説明したよね? あの歌を聞いたあとに、なんだかモヤモヤしてたんだけど、その理由が理解った! そもそも、『とびら開けて』のハンス王子って、エルサとアナの王国の利権とか財産を狙ってる悪者ワルモノじゃん! あの映画のテーマの「真実の愛」とか、そういうのとは正反対の人間じゃないか!


「あ〜ね、たしかに、『とびら開けて』って、デュエット曲として人気だけど……映画を観たあとだと、ちょっと、苦笑いになるよね。『そこに気付くとは、やはり天才か……』やるじゃん、宗重(笑)」


 ――――――そうだよ、あの転校生は、ハンス王子なんだよ! 性別は違うけど。


「で、アンタは、転校生ちゃんじゃなくて、幼馴染ちゃんに肩入れしてる、と……(笑)」


 ――――――別に、肩入れしてるって訳じゃないけどさ……。


 そう、オレは別に上坂部に対して、同情しているとか、そう言うわけじゃない。

 ただ、『いい加減、告ってくるオトコの相手をするのも疲れたし……告白けには、手頃な相手が見つかったけど』なんてことを言う女子にシンパシーを感じるオトコなんて居ないだろう?


「まあ、でも、他人のために怒れるトコロは、アンタの良いトコロだよ。さっきも、私の選曲を『バカにされたようで、ちょっとムカついた』って言ってくれたじゃん。そう言う気持ちは大事にしなよ」


 ――――――そうそう、あの転校生は、そういう人間なんだよ! 信用できないだろ?


「私としては、ノーコメント! そもそも、自分の知り合いじゃない人間の性格の善し悪しなんて判断できないし、するべきじゃない……でも、話しを聞いた限りじゃ、転校生ちゃんの性格って、アンタが私に薦めてくれたラノベの『どらドラ!』の河嶋亜依かわしまあいちゃんとか、『底辺キャラ 外崎とのざきくん』の木南蒼きなみあおいちゃんに似てない? アンタのにドンピシャだと思うんだけど(笑)」


 ――――――いや、そこ、ホント笑い事じゃないって! 現実には、あんなキャラいないから!


 まったく、甥の二次元キャラクターの好みを完璧に把握している叔母とは、こういう時に話しがしづらい。

 それでも、オレが、本気でツッコミを入れると、ワカねえは、ゴメンゴメンと謝りながら、こんなことを提案してきた。


「まあ、幼馴染ちゃんを応援したいなら、それも良いんじゃない? 私じゃ、高校生の恋愛相談に乗ってあげることは出来ないけど……私の住んでる街に、最近、恋愛相談を始めた、人気YourTuberが居るよ。アンタがチカラになりたいって考えてるなら、彼女に相談を持ちかけてみたら?」


 そう言ったワカねえが、通話の終了後に送ってきたリンクには、


白草四葉しろくさよつばのクローバー・フィールド』


という、チャンネル・タイトルが記されていた。


(同世代でもすでに、世の中に自己発信をしている人間が居るんだ……)


 と、感心しつつも、オレは、クラスメートとのカラオケという世知辛い現実世界の体験から自分の世界に没入するために、数日ぶりにPF・BETAベータを起動し、綾辻あやつじさんルートのエンディングを楽しむことにした。

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