第4章〜こっち向いてほしいけれど あきらめることも私なりのファイトでもある〜④
オレが、過去の経験を語り終えると、
「そっか……そんなことがあったんだ……」
「タッチーは、小学校のころから、苦労人なんだね〜」
と、苦笑するような表情をオレに向けてくる。
「いや、苦労なんてことも無いと思うんですけど……」
オレが、そう返答すると、上級生は、今度はニコリと微笑んで断言する。
「謙遜しなくて、良いよ……キミの行動の恩恵を受けている人間が、ここに居るんだから」
右手で、自分の胸元をトントンと叩きながら、彼女は、自らの存在をこちらにアピールする。そして、
「タッチーの小学生時代のことを聞かせてもらったから、今度は、私の話しを聞いてもらって良い?」
とたずねる
「栄一と私が幼なじみだってことは、もう聞いてるかも知れないけど……あいつも、私も、なかなか、お互いに自分の気持ちを素直に相手に伝えられなくてね……って言っても、栄一が、あんなに私のことを考えているなんて、一昨日まで気づかなかったし、それは、向こうにしても同じかも知れない」
彼女は、自嘲するような笑みを浮かべながら語り続ける。
「神社まで歩いているときに、キミに言ったよね。三年になると、夏休みは、受験勉強モードになるし、期末テストが終わった、今の時期が、最後の息抜きの時間だ、って。だから、栄一と、どこかに出掛けるなら、この時期の夏祭りか花火大会かなって思ってたんだけど……これも、一昨日、話したみたいに、私も栄一も、付き合いが長いのと、周りに気を使ったりして、なかなか素直に自分のしたいことを言えなかったんだよね」
先輩の言葉から、土曜日の神社までの道のりで、彼女が話したことを思い出して、相づちを打つ。
「だから、栄一から夏祭りに誘ってもらったときは、ホントに嬉しかったんだ。高校最後の夏だし、いままでは、お互いにこの時期は部活で忙しくて、二人で出掛けられる機会がなかったから……高校生活では、もう浴衣で出掛けられるチャンスも無いかも知れないと思って、サプライズで、とっておきの浴衣姿を披露したつもりだったんだけど、アイツときたら……」
上手く化けたな――――――と、言った小田先輩のそのときの言葉を思い出したのか、やや憤慨しながら語る長洲先輩の様子に、オレはつい、微苦笑を浮かべてしまう。
「いや、今だから言いますけど……小田先輩は、ニブいオレでもわかるくらい、長洲先輩の浴衣姿に見惚れてましたよ」
上級生女子の表情に、少し気分が楽になったオレが、そう返答すると、彼女は、体温が上昇するのを感じたのか、顔を紅くしながら、「まあ、タッチーが、そう言うならアイツを許してあげてもいいか……」と、つぶやいて可愛らしい反応を見せた。
そうして、自分の感情を落ち着くのを待ってから、先輩は、これから大事なことを告げる、と真面目な表情になってから、こう切り出した。
「でもね……あの射的のときに、栄一が、私を庇って後ろから抱きしめて、声をあげたことで、アイツの気持ちがわかっちゃったんだ。それに、自分自身の気持ちにも……『あぁ、やっぱり、私は栄一のことが好きなんだ』ってね」
これ以上ないくらい真剣な表情で語る長洲先輩に対して、
「だけど、あのときは、オレの不注意のせいで、先輩を危ない目に遭わせるところで……」
オレが罪悪感にかられながら言うと、彼女は、ゆっくりと首をヨコに振って、力強く断言した。
「そうじゃないよ、タッチー。あのことで、私たちは、お互いの相手の……そして、自分の気持ちに気づくことが出来たんだ。私と栄一にとって、タッチーは、キューピッドみたいな存在だよ」
「いやいや、キューピッドなんて、そんな大げさな……!」
そう声をあげるオレに、長洲先輩は、「大げさじゃない!」と、再反論してくる。
彼女によると、あのタイミングだったからこそ、オレたちと別れたあと、えびす神社の片隅で小田先輩が告げた告白も、素直に受け止めることが出来たらしい。先輩いわく、
「浴衣姿をディスったあとだったら、アイツの告白は断ってたわ!」
とのことだ。
「だから、夏祭りの参加と、そのあとに、キッカケを作ってくれたタッチーには、本当に感謝してるんだ。それに、もう一つ、私と栄一が、気にかけていた相手を、きちんとフォローしてくれたからね」
続けて語る上級生の言葉に、オレが、なんのことだ? と怪訝な表情を浮かべると、先輩は、ふたたび、ニコリと笑って、言葉を続ける。
「そんな、タッチーに伝えたいことがある女子が、いるんだって……そのコのお願いを聞いてあげてくれない?」
彼女に問いかけに、思わずうなずくと……。
長洲先輩は、突然、生徒会室のドアに向かって叫んだ。
コンコン――――――。
上級生の声に合わせて、ドアがノックされ、生徒会室に入ってきたのは、二日前、神社から歩いて、彼女の自宅まで送り届けた
そして、驚くべきことに、オレの顔を見るなり、下級生の彼女は、突如として、こう告げてきたのだ。
「立花先輩!
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