第3章〜運命の人があなたならいいのに 現実はうまくいかない〜⑬
「あっ、ムネリン!」
教室に戻ると、オレの姿を見つけた
マコトは、自分のスマホの画面をコチラにかざしながら、したり顔で解説をはじめた。
「ねぇねぇ、ムネリンは、
つい先ほど、
マコトの口からその話しが出たということは、クラスでも、それなりの人数の生徒が、すでに、
だが、それならそれで、逆に都合が良い――――――。
オレは、ある決意を固めて、教室前方の教壇に向かう。
「まこりんペン、ちょっと、ついて来てくれ!」
塚口マコトに、そう声をかけると、
「も〜、その呼び方はヤメてって言ってるじゃないか〜!」
と、言いながらも、クラスメートは律儀にオレの後を追って来て、教壇に立ったオレの隣で、登校してきている生徒に顔を見渡している。
「き、今日は、
普段、大きな声を出し慣れていないので、第一声は、
「いま、塚口からも、話しを振られたんだが、この前の白草四葉ちゃんの『クローバー・フィールド』で取り上げられたお悩み相談について、オレから、みんなに伝えたいことがあるんだ!」
第一声で声を張った効果があったのか、今度は、セリフを噛まずに、最後までハッキリと言い切ることができた。その直後、クラスの視線は、一気に前方に集中し、教室内は喧騒に包まれる。
普段、クラスでは完全な空気キャラである立花宗重が、朝のショート・ホーム・ルーム直前の教室が最も騒がしい時間帯に、何事かを叫びだしたのだから、それも当然のことだろう。
「なんだよ〜、立花! いきなりデカい声を出して!」
「おまえ、白草四葉の動画とか見てるのかよ、似合わね〜! ちょっとは、自分のキャラを考えろよ?」
男子生徒の
だが、これくらいは、この場でカミングアウトをすると、覚悟を決めたときから想定していたことだ。
「あぁ、まったく似合わないことを前提で、あらためて聞いてほしい!」
ここで、一拍、間をおいたオレは、スマホを取り出して、あらかじめ準備していた画面を表示させ、そこに記された文面を読み上げる。
「『相談したいのは、クラスメートのことです』『自分のクラスには、幼なじみで良い雰囲気の男女が居るのですが・・・』『この春、転入生が転校してきて、男子の方が、その転入生と付き合い始めてしまいました』『自分としては思うところがあって、幼なじみ同士の二人を応援したい気持ちがあります』『彼女がデキてしまった男子と付き合うための方法があれば教えてもらえないでしょうか?』」
そうして、先日の投稿内容の文面を読み終えたあと、クラス中を見渡しながら、宣言する。
「こんな内容で、四葉ちゃんにお悩み相談をしたのは、なにを隠そう、このオレだ!」
オレが、そう断言し終えると、一瞬、静寂に覆われた教室から、盛大な笑い声の渦が巻き起こる。
「うわ〜、ナニ考えてんだ、コイツ! キメェ〜」
「ヤバッ……ただの陰キャだと思ってたら、そんな危ないヤツだったのかよ……」
そんな声が大半を占める喧騒の中、ふたたび、口を開いたオレが、
「ちなみに、この内容は、100パーセント、オレの創作なので……もし、なにか、誤解をしてる人間がいたり、誤解を受けたりしてるヒトがいたら、この場で謝っておく。本当に申し訳ない」
と言ってから、教壇を前にして頭を下げると、これまで発言していた男子生徒だけでなく、女子からも声が上がった。
「ちょw ないわ〜、どうやったら、そんなキモい内容、考えられるの?」
隣に目を向ければ、オレが教室に戻ってきたとき、楽しげに話しかけてきたクラスメートも、さすがに、ドン引きした様子で、オレにたずねてくる。
「ね、ねぇ、ムネリン……なんで、こんな内容で、四葉ちゃんに相談しようと思ったの? なにか、事情があったとか?」
「事情……か? 特別な事情と言えば、以前から四葉ちゃんが、幼なじみに強い関心を示していたからかな? 登校する内容に、そのフレーズを入れれば、動画で取り上げてくれる可能性が高いと思ったんだよ」
「へ、へぇ〜……そうなんだ」
今度こそ、完全にオレの発言に幻滅した、という感じで、マコトの表情から色が失われていく。
後方の席のクラスメートの顔色が変化していくのを見ていると、
(これで、
と、感情が胸の奥から、モクモクと湧き上がってくる。
大半は、自分の行いが招いた結果とは言え、夏休み前の最高の時期を暗澹たる気持ちで過ごさなければならないことを思いながら、心の中でため息をついた。
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