第2章〜ふられたての女ほど おとしやすいものはないんだってね〜②
「ねぇ、あれ、
三階フロアから四階へと登って行くエスカレーターの前方で、オレと同世代と思われる女子二人のうちの一人が、五階のフロアで談笑している髪の長い女性を指さして言った。
「ホントだ、
聞き覚えのある名前が耳に入ってきたので、つられて、彼女たちの視線を追う。
ガラス張りになっている五階フロアの手すりの向こうには、話題の主を中心として、ちょっとした人だかりが出来ていた。
すぐにオレの乗ったエスカレーターは目的の四階フロアに到着したが、そのまま書店には入らず、場所を少しだけ移動し、モールが吹き抜け構造になっていることを利用して、四階のフロアから、階上の五階フロアの小さな人だかりに目を向ける。
普段のオレなら、多少の人だかりが出来ていようが、有名人がいようが気にも留めないし、足を止めることもないのだが……。
前日のワカ
遠目からでも目についた輪の中心人物は、子鹿を思わせる華奢な身体つきと、カモシカのようにスラリと伸びた脚が、とても印象的だった。
彼女を取り囲んでいる女子たちが平均的な体型だとすれば、彼女の身長は一六◯センチほどと、さほど高くは無さそうだが、首から上のパーツがあまりに小さいため、八頭身の黄金比を形成している。
肩のあたりに柔らかく落ちた黒髪は、極限までサラサラ&ツヤツヤを追求し、丁寧に手入れされていることがわかる。
彼女が言葉を発しただけで、ファンと思われる周囲の人間は歓声をあげ、見慣れたはずショッピングモールの風景が、まるで、その周辺がドラマの中の風景のように、華やかな印象になる。
脚部と同じように細く伸びた腕に目を向けると、視線は、自然とキレイに整った指先に誘導され、あたかも、完成された彫刻のように感じられた。
新学期のはじめ、転校してきた
話題の
(あれが、ホンモノのスターの存在感ってヤツか……)
そんな感慨を抱きつつ、遠目とは言っても、いつまでも特定の相手を凝視するのも失礼かと思い、階上を見上げることを切り上げ、今日の本来の目的である書店でのライトノベル探索に移ることにする。
前日、一緒にカラオケに行った久々知大成から、コーヒー代金が(迷惑料込みの金額で)戻ってきたので、新刊を一冊購入した上に、一階にあるスーパーで読書のお供のドリンクとスナック菓子を買ってもお釣りが来そうな金額が財布に入っているのだ。
「迷惑を掛けたぶん、釣りは取っておいてくれ」
と、北里柴三郎の紙幣を気前よく出したクラス委員の男気に感謝しつつ、その少し前に自分だけが耳にしたクラスメートの発言を思い出して、ふと考える。
「いい加減、告ってくるオトコの相手をするのも疲れたし……告白
四月に転入してきてから、わずか二ヶ月ほどで、どうやって
彼女が口にした言葉が本心であるなら、ヒトの良い久々知と、その幼なじみであり、現在のところ失恋状態にあると言って良い
そんなことを考えながら、オレは、買い損ねていた、『この街でラブコメできないとだれが決めた?』の最終巻を購入したあと、ドリンクとスナック菓子を買い足すために、スーパーマーケットのイズミヤに向かう。
エスカレーターで四階から階下に降りる途中も、五階の
(あれだけ人気なら、自分がメッセージを送ったところでなぁ……)
と感じつつも、まあ、それでも文章を打つだけなら、無料でできる……と、考えて頭を捻り始める。
帰宅した直後、気が変わらないうちに、オレは、ショッピングモールの帰り道で考案した文面をスマホに打ち込んだ。
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はじめまして!
四葉ちゃんが、このチャンネルで恋愛相談を始めたということでメッセージさせてもらいました。
相談したいのは、クラスメートのことです。
自分のクラスには、幼なじみで良い雰囲気の男女が居るのですが・・・
この春、転入生が転校してきて、男子の方が、その転入生と付き合い始めてしまいました。
自分としては思うところがあって、幼なじみ同士の二人を応援したい気持ちがあります。
彼女がデキてしまった男子と付き合うための方法があれば教えてもらえないでしょうか?
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