第1章〜どうぞ幸せになってほしいなんて しおらしい女じゃないわ〜⑥
その作品、『りんご100%』は、連載終了から、二十年近く経過している作品ではあるが、日本で最大の発行部数を誇る少年マンガ誌に掲載されていた作品だけに、タイトルを聞いたことがあるヒトも多いかも知れない。
学校の屋上で出会ったリンゴのパンツを履いた少女を巡るラブコメ作品で、少年誌らしくセクシー描写が多めという点は、小学生の自分にとって、少々、刺激が強かったのだが……。
それでも、女性作者ならではの細かな心理描写や恋愛の駆け引きには、見るべきものが多かった。
ストーリー全体のオチを知っているためか、物語を読み進めている途中で、ワカ
「
と、ニヤニヤしながら聞いてきた。
文学少女で地味な印象の東郷亜矢と、中学生時代から活発な性格で誰もが振り向く程の美少女・西田つばさ。
自分としては、明るい髪色のショートカットで積極的な性格の西田派だと伝えたが、それは、あくまで個人的な好みの問題で、物語の最初の設定から、主人公は、控えめな性格ながら一途に彼を想う東郷と最後に結ばれるものだと予想していた。オレが、西田を推していたのは、
(まあ、最後は主人公と東郷が結ばれるのが自然な展開だろうから……自分は、西田を応援しておこう)
と、考えていたからでもある。
なかでも、バレンタインのエピソードで、西田が手作りチョコの一つに、ふざけてものすごく苦いチョコを入れ、それを食べた主人公に
「あたし苦いチョコ甘くする方法知ってるよ」
と言ってキスをする場面では、作者の川下水樹先生に対して、
「どんな人生を送っていれば、こんなシーンが思いつくんですか!? 最高かよ!」
と、声を上げそうになった。
そんなことをワカ
しかし――――――。
小学生だった自分の予測は見事にハズレ、物語のラストで主人公と結ばれたのは、オレの推しキャラである西田の方だった。
「いや、そりゃ、オレ自身は西田の方が魅力だと思うよ? けど、この展開じゃ、東郷があまりにも可哀想じゃないか!?」
子供心に理不尽さを感じたストーリー展開に関する見解を述べたところ、ワカ
「でも、東郷ちゃんは、『ハチシロ』の
と、あらかじめ用意していたかのように返答を寄越してきた。
ワカ
ただ、自分の推しキャラではなかったものの、自身の予想に反して、東郷が物語における恋愛面で日の目を見ることがなかった、というのは、当時のオレに少なからぬショックを与えた。
(もしかして、ラブコメマンガやアニメに登場する想いが報われないキャラクターは、不幸を回避することはできないのか?)
小学生の自分でも結論にたどり着いたように、ストーリーが一本道である以上、ヒロインレースに敗れる敗者というものは必ず存在することになる(注:いわゆるハーレムエンドをのぞく)。
もう、こんなに不幸なキャラクターを見るのはゴメンだ――――――。
ということで、中学生になる頃には、必然的に自分が楽しむメディアは、複数のルート選択が可能なゲームに移っていった。
残念ながら、オレが、この道に目覚めたころには、いわゆるギャルゲー文化も、とっくに衰退期に入っていて、次々と話題の新作が発売されるような状況ではなかったが……。
それでも、数十年に渡って培われた文化の遺産は偉大なもので、過去に評判になったゲームをプレイするだけでも、十分にこのジャンルを楽しむことが出来ている。
すでに中学時代の数年の間に、スマホや持ち運び可能な運天堂ウイッチでプレイできる移植ゲームは、あらかたプレイし尽くした。
高校に入学する頃、ワカ
「乙女ゲー専用機だった、私のPFPと
と、ワカ
そんな訳で、
「誰ひとり取り残さない」
という、小中学校で大いに学んだ
今日の夕方のように、リアルな世界でのイザコザに巻き込まれるなんて、まっぴらだし、ヨネダ珈琲にいた幼なじみ同士の委員長コンビとも、今後は大して関わり合いになることはないだろう――――――。
正直なところ、食い逃げならぬ、飲み逃げ同然で店を出て行った
明日からは、また教室内で無害な空気キャラとして過ごそう。
そんな風に考えていたのだが……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます