第1章〜どうぞ幸せになってほしいなんて しおらしい女じゃないわ〜⑨
オレが、セカオワのヒット曲を歌い上げている間、
(この歌、なんだっけ……? 聞いたことがある気もするけど……)
トップバッターとしての役割を無難にこなし終えたところで、先ほどモニターに表示された曲名について、記憶をたどったのだが……。
ワカ
そうして、映像が切り替わり、CGで描かれたアニメーションのキャラクターが登場し、たことで、ようやく、この曲が使われている作品について、思い出す。
♡ ねぇ、ちょっと、おかしなこと言っても良い?
♠ そういうの大好きだ!
「そっか……『アナ雪』か……」
二人がセリフを語るように歌い出したのと同時に、オレがそうつぶやくと、名和立夏がニヤリ……と、ほくそ笑んだような気がした。彼らが歌っている楽曲は、劇場映画として日本国内でも大ヒットしたディズニー・アニメ『アナと雪の女王』の挿入歌だ。
主人公のアナと王子のハンスが出会って、お互いの想いを伝え合う物語序盤の印象的なシーンで使われるこの曲が、デュエット曲として、カラオケでも自分たちのような年代に人気があるというのは、どこかで聞いたことがある。
しかも、いったい、どこで練習をしてきたのか、名和と久々知のデュオは、ピッタリと息が合っていて、
♡♠ ふたりだから〜
♡♠ とびら開けて〜
と、サビの部分もキッチリとハモっていた。
聞き馴染んだ曲ばかりとは言え、ワカ
気がつくと、セカイ系作品の主人公とヒロインも
(あれ……? でも、この曲を歌ってるハンス王子って……)
と、オレは、『アナ雪』のストーリーを思い出そうとしていたのだが、そんな完全な第三者の自分ですら、何ともいたたまれない気持ちになっている6平方メートルばかりのこの小さな空間には、ガタガタと身体を震わせている人物がいる。
言わずもがな……であるとは思うが、一昨日、駅前のヨネダ珈琲で人目をはばからず号泣していたオレたちのクラスの副委員長だ。
カラオケボックスの室内が、なんとも言えない空気に満たされる中、ワナワナと震える手でデジタル端末を操作した
印象的なリズムとメロディーではるものの、オレにとって、この時まで、あまり耳馴染みがなかったイントロのあと、彼女が選曲したタイトルは、すぐに理解できた。
♪ 愛はどこからやってくるのでしょう 自分の胸に問いかけた
♪ ニセモノなんか興味はないの ホントだけを見つめたい
(なぜに、今どき『LOVE 2000』……?)
その曲は、オレが歌った『RPG』と同様、冒頭の歌い出しにサビと同じメロディーが来るタイプの楽曲だった。しかも、自分が生まれる何年も前にリリースされたこの楽曲は、オレにとっても、この夏以降に重要な位置を占めそうなナンバーなのだ。
そう、この曲は、オレのイチ推し作品である
いたたまれない感じになってしまった空気は、明るいノリの曲で吹き飛ばすしかない!
そんな健気な想いさえ感じさせる選曲ではあるが……。
オレにとって、その姿は、
「負けヒロインが不憫すぎる」
という風にしか感じられなかった。
上坂部葉月が、なぜこんな古い曲を知っているのか理由はわからないが、なんとも微妙なこの空気は、オレ一人の素人ニワカ仕込みの歌唱ではどうにもならないだろう……。
(ハァ……だから、リア充な連中とカラオケなんて来たくなかったのに……)
そう感じつつも、オレは、スマホでメッセージアプリを起動し、ワカ
「な、なぁ、久々知……その……『アナ雪』のデュエット凄かったな。オレも男性ボーカルで歌いたいデュオ曲があるんだけど……い、一緒に歌ってくれないか?」
言葉につまりながら、世界的人気を誇る忍者アニメのOP曲のデュエットを申し込んだ、突然のオレの無茶振りにも、
「おう! モチロンだ!」
と、快く応じる我がクラスの委員長。
その性格の良さに異性を惹きつける理由があるのか……と、感心しつつ、なんとか空気が和んだことに安心していたオレが、自分の考えの甘さを思い知らされるのは、カラオケが小休憩に入った時のことだった。
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