第4章〜こっち向いてほしいけれど あきらめることも私なりのファイトでもある〜⑧

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 ガールズファイトって曲について

 知ってることがあれば教えてほしい

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 ハルさんのライブ(?)を見届け、浦風うらかぜさんと別れたあと、オレは、そんなメッセージをワカねえに送っていた。

 既読はすぐについたが、なかなか返信がないことから、いくら、サブカル全般の知識が豊富なワカねえでも、自分の生まれる前の楽曲については知らないか……と、考えながら、帰宅して夕飯と風呂を済ませ、自室に戻ってみると、スマホにこんなメッセージが届いていた。


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 ちょっと調べてみたけど・・・

 FM802のヘビロテだったんだね


 なかなか面白い曲を見つけるじゃん

 いまから、ちょっと、話せない?

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 さいわい、メッセージの着信時刻は数分前だったので、すぐに、通話アプリを起動させて、ワカねえのアイコンをタップする。


「やっほ~! 返信まってたよ。『ガールズファイト』イイ曲じゃん! どこで、こんな曲を見つけてきたの?」


 開口一番、そうたずねてくる叔母に対して、オレは、失恋したばかりの下級生に誘われて駅前の路上ライブを見に行ったこと、『ガールズファイト』は、そこで、ローカル・アイドルのハルさんが歌っていた楽曲であること、この曲は彼女のオリジナル曲ではなく30年近く前にリリースされたらしいこと、さらに、(本筋とは関係ないことではあるが)そのハルさんが、ヨネダ珈琲・武甲之荘店で、オレにクラスメートのフォローをさせた張本人であることを報告する。

 オレの本日のレポートを興味深そうに聞いてくれていたワカねえは、いつものように、「ふむり……」と、相づちを打ってから、


「なるほど……宗重むねしげは、代打で出場した打席で、キッチリと犠打ぎだを決めたか……ベンチに帰ってきたら、『ナイスバント!』って言って、ハイタッチしてあげるよ」


と、野球ファンにしか理解できない例えを語りながら、一人で納得している。

 地域柄、トラさんチームの熱狂的なファンであるウチのジイさんの影響を受けたのか、ワカねえは、我が一族でも屈指のトラ◯チでもある。そもそも、ワカねえが、深夜アニメを見始めたのは、サンテレビのプロ野球中継が終わったあと、夜中にテレビを付けたら偶然アニメを放映していて興味を持ったかららしい(ちなみに、アニメのタイトルは『超変身コス∞プ◯イヤー』だったとか……)。


 閑話休題――――――。


 野球には、それほど詳しくないオレだが、自分の今日の行動が、送りバントとして、下級生の次のステップにつながったのであれば、そのことを嬉しく感じる。


 ――――――まあ、オレのしたことが浦風さんの役に立ったのなら、良かったと思うよ。


「ふ~ん、良きかな良きかな……アンタが他人ひとのことを思える人間に育ってくれて、叔母としては嬉しいよ」


 ――――――いや、そんな大したことはしてないと思うんだけど……。


「いやいや! そうして、対人関係における経験値を積んでおくことは、あとの人生で絶対に役に立つよ」


 ――――――その経験値ってさ……ドラクエみたいに、貯めれば、レベルアップできるモンなの?


「うん! 当然、目には見えないけどね……ただ、私が生まれる前の時代なら、年齢には肩書と社会的地位が比例してたから、まさに、ドラクエの経験値理論が当てはまってたんだけどさ……」


 ――――――あぁ、いまでも、年齢 = レベルアップみたいな感じで、誕生日が来たらSNSに投稿してる芸能人が居るもんな~。誰とは言わんけど……


「まあ、彼女の言っていることも、大きく間違ってはいない。昔は、受験・就職・会社での出世、もしくは、恋愛・結婚・育児っていうステージが年齢を上がるごとに迫ってきただろうし……これを中ボス・大ボス・ラスボスの順番に倒して、クリアして行くのも、年齢に比例する経験値だけで、対応できる場合が多かっただろうからね」


 ――――――念のために聞くけど、やっぱり、いまは、そうじゃないの?


「そうだね~。男性だけが主な働き手で、終身雇用と賃金のベースアップが保証されているなんて時代は、バブル崩壊とともに消し飛んじゃったし……すべてのヒトが、大魔王ラスボスを倒すことを目的とするような時代では無いってことだけは、たしかでしょ?」


 ――――――じゃあ、みんな、どんなことを目標にして生きていけばイイのさ?


「私は、人生ドラクエ説じゃなくて、人生ポケモン説を推したいね!」


 ――――――人生ポケモン説?


「いまの世の中、ヒトの一生は、ひとつのストーリーをなぞって、外れないように進めていく『ドラクエ』のようなモノから、好きなポケモンを集めて育てるようなモノに変わってきた、ってこと。ポケモン的な人生は自由度が高いから、何をゴールに設定するのか……それは、プレーヤーの数だけ答えがあるってこと」


 ――――――いや……それってさぁ……もう明確な答えが無いってことと同じじゃないの?


「まあ、たしかに、そう言えるかもね~(笑)だけど、受験・就職・会社での出世、恋愛・結婚・育児だけが人生のすべてでは無い……年齢に合わせて『大魔王ラスボスを倒しに行くルートだけが絶対の正解ではない』って考えるだけでも、人生の視野は、色々と広がるってもんよ」


 ――――――そう、なんだ……


「これだけ世の中の動きが変わっても、いまの社会は、ドラクエ的な価値観から抜け出せていない部分も多いし、ポケモン的な生き方は、お手本となる先輩の事例……これをロールモデルって言うんだけど……自分に相応しい先例を見つけるのが難しいから、困難な道のりでもあるけどね」


 ――――――そっか……じゃあさ、ワカねえが、就職した会社を辞めて、いまの仕事をしてるのは、ポケモン的な人生を選んだってこと?


「おっ、なかなか鋭いところを突くじゃん? まあ、そこまで、カッコつけた決断って訳でもないけどさ」


 ――――――けど、そんな考え方もありかな、ってのは少しだけ思った……オレも、ワカねえみたいにポケモン的な人生の方が向いてるのかな? この先、良い会社に就職して、彼女ができて、結婚して、子どもが生まれるなんて、コミュ障のオレには想像もできないし……。


「ん~、どうだろう? ただ、ポケモン的人生を歩もうと思ったら、ドラクエ的な人生よりも、コミュニケーション能力は、重要だよ。フリーランスな生き方は、ヒトとのつながりが全てだからね! そのためにも、いまのうちから、対人関係の経験値は積んどきな。お気に入りのポケモンがあらわれたとき、キチンとゲットできるようにね」


 そう言って、ワカねえは、カラカラと笑い声をあげる。

 コミュニケーション能力が重要なら、「自分には、ポケモン的な人生の方が向いている」と言ったことは撤回した方が良いのかも知れない。


 ただ、それでも――――――。


 ワカねえが言った、『人生ポケモン説』は、これまで、オレに対して様々な助言をくれた彼女の言葉の中でも、ひときわ印象に残ったことだけは、確実だ。


 そして、「いまのうちから、対人関係の経験値は積んどきな」というワカねえの一言は、浦風さんの決断と並んで、オレに、あのクラスメートに自分の想いを告げようという、たしかな決意を芽生えさせた。

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