005 新時代
「全滅……?」
思わずソーラと目を合わせ絶句してしまう。そんな私達に気が付いたのかクルーが横目でこちらを見つめていた。
「それは……解決策が存在するのでしょうか?」
「一応<
「その結界に施されている能力については知らんが、単純に結界が施されていなくとも人口が過度に密集する事で二酸化炭素の排出量が大幅に増えることは変わりない」
「でも確かに生物に影響を与えるとなれば、将来的に考えると魚類などの食料が減少してしまうのは勿体ないなぁ」
うーん、と全員で頭を抱えて悩む。
数分後、辺りが重い沈黙に包まれる中ソーラが静かに手を挙げた。
「実は、私の操る魔法は空間属性なんだ。だから二酸化炭素という物質も、術式を組換えば減少させられる可能性がある。でも私には想像図……イメージが足りないんだ。だからクルー君には空気物質というものを詳しく教えて貰いたい」
「詳しく……か。俺も専門分野じゃないから詳しくは知らんが、まあ空気物質と言うのは空気中に含まれる気体の集合体を意味する。その中で気体同士の割合が一定を保つことで生物がこの世界で生存する事が出来る、命の源と言う感じか」
「命の源………」
ソーラがぼそっと呟いた声が確かに聞こえた。横目でこっそりソーラの様子を伺うと目を瞑り何やら瞑想をしているような素振りをしていた。
クルーも私と同じくソーラを見つめており、またもや露骨に引いた顔を見せていた。
「イメージは出来たのですか?」
「何となくはね。でもやっぱり体験をしなければ難しいかもしれない。結果的に共感出来ない魔法は操ることが出来ないからね。まあいざとなれば空気を吸い込む事は可能だから、それ程過剰に考える事でもないと思うよ」
「そうか?まあ確かに時間は沢山残されているしな。今考える問題ではないか。そうとなれば、早速溶解炉の制作を進めるか」
「宜しく頼むよクルー君。都市の命が懸かっているんだ」
「そう言われるとプレッシャーが高まるじゃないか」
突如どんよりとやる気を失くしたクルーに、思わず腹を抱えて笑い出してしまった。ソーラとなれば笑い過ぎで瞳に涙が留まっており、まるで半泣き状態だった。
辺りに爆笑の渦が巻く中、やっとの事でクルーが喉を鳴らし爆笑を鎮めた。
「溶解炉の制作はこちら側に任せておけ。だからお前らは都市制作に集中するんだな」
「それって前にうちらが言ったセリフじゃ……」
ソーラの一言に先程の笑いの残骸も疼き出したのか、またもや辺りに爆笑の渦が巻き起こるのであった。
■□■⚔■□■
数か月半の時が経った。
<
住宅、食堂、そして街のシンボル……溶解炉。
まだ快適とは言えないものの、ここでは氷河期の猛吹雪の影響はなく生物が生存できる程度の気温は保たれていた。
「完成……しましたね」
「そうだね………」
「思ったよりも早いもんだな」
溶解炉の前には三人の人影……いいや人ではない者も混じっている。
一人は二、三十代のしかめっ面の男。もう一人は耳が極端に尖った亜人の女。そして最後。まだ十数才とは思えない凛々しい少女の姿があった。
吹雪の降る夜に溶解炉の灯だけが燦然と輝いていた。
その灯のせいか、あるいは漏れ出す希望の象徴か。三人の瞳は溶解炉に負けじと煌いていた。
その中で一人の少女は黄昏る様にその灯だけを眺めていた。だが唇の端を少しだけ釣り上げそっと微笑んだ。その姿はまるで舞い降りた天女としか言いようがなかった。いいや、彼女自身がそんな存在になろうと努力をしているのか。まるで誰かを真似る様に。
すると少女が、右手で胸を抑え一歩前へと踏み出した。
静かではあるが熱意の籠った瞳。その瞳に安心するかの様に続いて二人が一歩前へと踏み出した。
「この命に誓い、私達は氷河期を切り拓く!」
少女の掛け声と共に、荒れ狂う氷河に新たな時代が幕を開けた。
この時代は、たった十三の少女が氷河を切り拓いた功績の元、後に”大開拓時代”と呼ばれる事となる。
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