015 同盟結託…?

―――― ソーラside ――――


「南西側に崩壊寸前の都市発見……か」


 溢れかえる程に積み上げられた資料共の対処に困り果てる。

 今は都市モダン発展の会議で提案された【崩壊寸前の都市を仲間に加える】という計画を実施している真っ只中。

 その為、ここ最近の私のルーティンとなれば、睡眠以外は資料を挟み机と格闘している事だけだった。

 忙しくなり始めたのは、丁度グレイシャが出張に向かうと決定した日からか。

……ん?そう言えば、今までグレイシャは何を務めていたのだろうか。

 元の私のルーティンは、いつも宿舎の皆と戯れる事だったり、偶に開かれる会議の司会を務めるかのどちらかだった為、グレイシャと過ごす機会が格段に減っていた。

 この仕事がグレイシャが出張へ行っている分の仕事量となれば、グレイシャは今までこんな仕事をあんな平然とこなしていたのだろうか。そう考えると、今更グレイシャの有難さに気が付かされる。

 そう言えばグレイシャが偵察へ向かってから6時間が経っただろうか。未だに返ってくる気配がないが、どうしたのだろう。

 今回の任務は採掘場の偵察だけのはず。なぜこんなにも遅れているのだろうか。

何か事件に巻き込まれて無けりゃ良いけど……。


「うっ……」


 体制を立て直すと、長時間椅子に腰を掛けていた為か途轍もない激痛が尻に走った。まるで尻が平らに変形してしまったような痛み。


「資料と闘っている最中に申し訳ないが、緊急報告だ」


 すると突如、部屋の扉を豪快に開き中に入って来たのは、勿論皆さまお分かりの通りクルー・マイナーズであった。


「こっちは精神状態も危ういんだよ。せめて良い話であってよね……はぁ」


 不安定な溜息を吐き、仕方がなくクルーの話に耳を傾けようと体の向きを変える。


「それを言えば、俺だって毎日毎日溶解炉や医務室の建設が波のように押し寄せて来てるわ。そんな中で俺はお前に時間を消費してやってんだぞ?少しでも感謝しろよな」

「はぁ?そっちはせっせと建設でもして体を動かしてるんでしょ!アンタ、一生椅子に凭れ掛かったまま資料を眺めてみなよ。頭は疲労するし尻は痛いし。これ以上の苦痛なんぞ存在しないよっ!?」

「いや体を動かした方が労働って言えるだろ!体力も消耗されるし、とにかく全身の筋肉痛が辛いんだよ!」

「いーやいーや!椅子に凭れ掛かっていても尻が変形するくらい痛いです~!筋肉痛と変わらないです~‼てかそれよりも痛いんですけど!?」

「この仕事をしてないから、お前はこの労働が分からねえだけだろ!?」

「それならアンタだって私の仕事一秒たりともやってないよね?!」


 お互いに一歩も引かず、二人の間に閃光が火花を上げて散る。

先に溜息を付いたのはクルーの方であった。


「ハイハイ、分かりました。じゃあ資料に見飽きた労働者さんにお伝えします。他国との貿易をする為に必要とされるものが俺らには無い。さ~て、それはなんでしょう?」

「他国との貿易に必要?えっと……信頼関係とか?」

「……不正解!正解は、他国との貿易には大半が【同盟】とやらを結ばなければならない、という事だ」

「【同盟】か……何か聞いた事はあるなぁ」

「まあ普通に考えたら、他国と自由に貿易なんてそんなに容易く出来るもんじゃないよなぁ」

「うーん……じゃあポジティブに考えれば、それを結んでおけば他国との貿易は楽々って事?」

「そんな簡単に結べるものじゃないと思うけど……」


 呆れた目で私を見つめるクルー。

……だけれど、既に造られた同盟を結んだとして、相手が正式な交渉をしてくれるだろうか。

 この世界は弱者に甘くはない。弱肉強食のこの世界で信頼関係の皆無な都市へ協調を要するなど馬鹿げた話だ。

 だとすれば……。


「私達が同盟へ加入するんじゃなくて、一から同盟を造っちゃえば良いじゃん!」

「――――は???」


という訳で。


「壊滅寸前の都市を救う……【救済同盟セーヴ】結成‼」

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