014 能力〈スキル〉
ループスから異様な圧を感じる。巨体な魔物さえ圧倒される程の威力だが、圧も所詮は脅し。頭の冴える”ヤツ”には子供騙しと然程変わらなかった。
”ヤツ”に威圧が効かないと分かったループスは圧を弱めることなく”ヤツ”へと急接近を図る。
「<
鋭く尖った鉤爪が瞬く間に”ヤツ”へと襲う。……だが二度目は効かないとでも言うように”ヤツ”は華麗に攻撃を避ける。
チッと舌打ちを打つループスに対し”ヤツ”は忽ち姿を消した。
「戦うのであれば正々堂々と殺り合うものじゃないの?大人しく出てきた方が身の為よ」
気怠そうな声を出すループスに反し一向に姿を現さない”ヤツ”。」
だがこの戦い、巨体な魔物を一瞬で切り裂くループスと言えど敵の姿が見えなければ意味がない。実に不毛な戦いだ。
戦闘中のループスに容易く話し掛ける事も出来ず、ただただ私は自分とレオの身を確保する事しか出来なかった。
悔しい。狼狽えていく仲間を目の前で見つめる事しか出来ない私が悔しい。その罪悪感だけが私を覆うように浸食してゆく。
何か私に出来る術は無いのだろうか。少しでもループスを助ける術が………。
「<
そんな事を考えていると、突如ループスが新技を繰り出す。
おふぁくしょん?とは何だろうか。鉤爪のように巨体な魔物を切り裂く技か?
期待に溢れる目でじっとループスを見つめる。
………が、一向に攻撃は繰り出されない。だが辺りの空気を嗅ぐような仕草を見せるループスに、やはり違う技なのか?と感じる。
「……そこね」
そう微かに呟いたループスは鉤爪を駆使し瞬く間に私の頭上の壁へと這いずる。
すると何もない空間を鉤爪で大きく引っ搔いた。その光景はシュールとしか言いようが無いものだが今の現状からして察せる。あそこに”ヤツ”が潜んでいるのだと。
ウギッ
魔物の悲鳴らしき声が聞こえると突如”ヤツ”が姿を現す。
今まで遠くからその姿を眺めていたが、こうして近くで眺めると如何にも酷悪な容姿をしていた。
これを見た子供は泣くだけじゃ済まないであろう。ぎょろりとした大きな目玉が一つ壁に這いずっているとなれば大人でも十分泣ける。
「<
ループス自慢の鉤爪で実に的確に”ヤツ”の目玉を引き裂く。目玉からは黒混じった緑色の血液が溢れるように流れ出す。その姿はグロテスクとしか言いようが無いが、じっと耐える。腹に全神経を込め吐き出さないよう必死に耐える。
「年頃の女の子には少し残酷過ぎる姿を見せてしまったわね。もう目を開けて大丈夫よ」
最終的には目を瞑っていたものの、ループスの声が聞こえるなり瞑っていた眼を開き始める。
「私の心配は不要です。ところでレオさんの治療は?」
「回復魔法の最中で足止めを喰らったからね。早めに魔法を掛けなくちゃ」
そう言いレオの治療を再開するループスに訊ねる。
「ループスさんは鉤爪と魔術を行使なさっているのですか?」
「正確に言えばと武術と魔術を別々で両立してるって感じね。<
「そうなんですね。武術と魔術を両立しているのは難しいんですか?」
「分からないわ。だけれど私的には途轍もなく難しかったわね。武術については努力で解決できる部分が多いけれど、魔術に関しては才能が強引に割り込んでくるから魔術操作や知識が身に付いたとしても扱えない場合も多いのよ」
「ではそうなると人間で魔術を行使する者は少ないと?」
「そう訊ねられると難しいわね。私の故郷は大国だったばかりに魔術者が多かったけれど実際は私も知らないわ」
首を傾げるループスにまだまだ疑問でありふれているが、回復の邪魔にならないよう質問は中断する。
「……よし。これで数分もすれば意識を覚ますと思うわ」
「レオさんでも気絶するのであれば今回の魔物は手強かったのですね」
「確かに魔物の実力も多少は影響していると思うけれど、単純にレオと相性が悪かったのね。レオは”視覚”だけで状況把握と相手の行動を予知しているからね。視覚を極めたレオにとってこの魔物との鉢合わせは不運としか言いようが無いわ」
「レオさんが目、という事はループスさんは何を使っているのですか?」
「そう訊ねておきながら分かっているでしょうに」
こちらをじっと見つめるループス。やはりループスより手強い者はいないと再度思い知らされるようだった。
「バレてましたか。ですが”嗅覚”を極める、というのは具体的にどのようなもので?」
「相手の匂いを一度覚えれば絶対に忘れないの。だから例え私に目が付いていなかったとしても魔物を倒す自信があるわ」
「では今回の魔物はループスさんには無効ですね。何せ隠密をしたって匂いは消せないですし」
「えぇ。それにアイツ、尋常じゃない異臭を漂わせていたわ。今までどれだけの悪を積んできたことか」
「そう。この世界の魔物には”臭”というものが存在し、人間を喰った回数だけ異臭が漂う。
これは猛獣も同等であり異臭がすればする程強いと言える。極端な話、魔物や猛獣は自身の強さを異臭で象徴していると主張する科学者も居たようだ。
「………っ」
視界の下で何かが動いたと思うと、レオが重そうな目を精一杯に開いていたところだった。
「レオさん……」
「回復魔法が完了したと言え体はまだ完治していないわ。無理に驚かせないように」
感激のあまり身を乗り出してしまうと、的確にループスから注意を受けてしまう。我に戻り身を整えて再度レオの回復を待つのであった。
■□■⚔■□■
「本当に助かった。グレイシャ達が駆け付けてくれなければ今頃俺はこの世の者ではなくなっていただろうな」
「不吉なことを言うんじゃないわよ。折角グレイシャが自ら身を乗り出して私とレオを庇ってくれたというのに」
「本当、グレイシャには助けられてばかりで済まないな。結局仲間達も見つからなかったし………」
「あ、それについてはもう心配は不要ですよ」
私の言葉に意味が分からず首を傾げるレオ。
そんなレオについて来てと合図し、その”目的地”に案内をした。
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