018 影の狂獣と廃坑の秘

 ペッロがソーラの逆鱗に触れ、更にはそれを知ったループスに二度刺しをされた後日。

 そんな事も知らず知らず、私はとある廃坑にて激戦を眺めていた。


「<獣の赤き眼ビーストレッドアイ>」


 神々しく光り輝く金髪を持つ男、レオ……正式名レビースト・オブ・プレイオは絶賛、巨大な目玉との戦いを繰り広げていた。

 だとしても、やはり相手は巧みに隠密をしている。いつ何処から攻撃を仕掛けてくるか分からない状況で、無闇矢鱈に動き回る事は出来ない。

 この魔物との戦い方を知っているレオは、まずは辺りの状況把握から始めた。


獣の赤き眼ビーストレッドアイ


 これはレオの能力スキルを用いた探索系魔術だ。普段一切の魔法を駆使できないレオだが、自身の能力スキルを用いる事でいとも簡単に行使する事が可能になる。

 ちなみに、この知識は全てモーノから得たものらしい。見た目によらず魔術師であるモーノに色々と教わっていたんだとか。

 すぐさま辺りの状況把握を始めるレオに、魔物が奇襲を仕掛ける。

……が、もう終止符は既についている。


ウギャィィイイ


 如何にも不愉快な奇声が廃坑に響き渡る。


「そこだな」


 ボソッと何かを呟いたレオは余裕な表情を浮かべ腰に着いた剣を引き抜く。

金属の擦り合う音がまるで魔物に対抗するかのように響き渡る。


「お疲れ」


 レオの声と共に目にも止まらぬ早さで魔物の目玉が真っ二つに切り裂かれる。忽ち緑黒い血が勢いよく目玉から噴射した。

 岩に凭れ掛かり私の隣でその激戦の様子を見ていたループスが、拍手をしながらゆっくりと立ち上がる。


「凄いわね。マシに戦えるようになったじゃない」

「まあな。全ては〈獣の赤き眼〉のお陰様だよ。モーノには感謝しかないな」

「隠密能力を持つ魔物は目を極めたレオさんにとって相性最悪でしたが、逆手に取れば別方向から更に目を極めることで隠密を越せる事が出来る。実に興味深いですね。いつか論文を出しましょうか?」

「その前にここの地形について調べるのが先だな。毎日ここを通っているが、未だに全く理解が出来ていない」


 レオの言う地形と言うのも、この廃坑に隠されている。

そう。実はここで倒した魔物は一定時間が経つとするのだ。

 実はレオが数日前に偶々ここを通りかかった時、同じ魔物が何もない場所から現れたのだという。

 最初こそは疑心暗鬼だったものの、早速出向いてみれば全く同じ魔物が全く同じ場所に居座っているのだ。更には何度倒しても数時間後にはまた生まれ出す。疑心暗鬼になる訳も分かるだろう。


「確かに、構造については研究の甲斐がありそうですね。都市の会議の話題として持ち出しましょうか」

「そうね。まあ私は構造の詳細とかはどうでもいいのだけど、同じ魔物を何度でも狩れるというのが何より有難いわね。お陰様で魔物との対戦が捗るわ。更にはストレス発散も出来るなんて神の恵みとしか言いようが無いわ!」

「ストレス発散?用途がちょっとズレているような……」


 すると突如、レオが後ろから私の背中をつついてループスには聞こえないような小声で話し出す。


「知ってるかグレイシャ。ループスが冒険者になった理由を」

「知りませんね……」


 小声で話すという事は何か事情があるのかと思い、私もレオの流れに乗って小声で喋る。

「そう……ストレス発散と快感の為さ。他の人々にとっちゃ命の危険になる冒険者を、ループスは快感の為だけにここまで来ているんだ」

「快感……!?魔物狩りとは気持ちの良いものなのですか?」

「全くだよ。世を脅かす存在を狩る為に決死の覚悟を持って挑むものだ」

「そ、そう考えるとループスさんって……結構頭が狂っているのでは?」

「……俺もそう思うな。でも本人に聞いたら頭を傾げて、普通じゃないの?って聞いてきたぞ。まあ、冒険者内では『影の狂獣』と言われていたものだし、その名に相応しいのかもしれないけどな」

「何を話してるのか知らないけど、絶対失礼な事考えているでしょ?」


 こちらを疑いの目で見つめるループスに焦りに焦るが、よくよく考えてみれば失礼ではあるが事実だから許容範囲内……。


「へぇ。さては私が冒険者になった訳を話しているのね?」


 やっぱ無理だったか。

怒りを堪えるかのように俯いているループスに、既にレオも諦め気味な表情でただただ硬化していた。


「確かかに快感の為に確入った事は間違いないけれど、一度狩ってみたら貴方も分かると思うわよ?だって魔物を真っ二つに切り裂く爽快さと、飛び散る鮮血はまさに芸術そのものだもの‼」


 瞳を輝かせ己惚れるかのように語り出すループスに少し引きつる。いいや滅茶苦茶に引きつる。

 世間に貢献する快さとかならまだしも、切り裂く爽快さと鮮血の飛び散りが芸術的?

 

「引き気味な様子だけれど一体どうしたの?まだ魔物狩りの経験がないグレイシャはその反応も分かるけど、レオは私が知る限り五年以上の魔物狩りの経験を持っているはずだけれど」

「いや普通でしょ?みたいな目で俺を見つめないでくれないかな?一応魔物狩りって命を懸けて挑むものだからね?俺だって易々と『快いから』とかで冒険者やってないから!」

「そうかしらね。命に関わるなんて普通じゃない?それこそ刺激があって冒険者の名に相応しいと思うけれど」


 だめだなこりゃ。

狂っている者は皆自身の事は絶対に『普通だ』って言い張るものだ。何度言っても理解する事はないし、潔く諦めよう。

 レオも同じことを感じ取ったのか、話題を変えるべく話し出した。


「ところで、一度倒した魔物が復活し湧き溢れる地形が地方の都市の何処かにあると聞いたんだが、情報の流れが素早い帝国育ちのループスとして、何か知っている事はあるか?」

「……そうね。私は正直興味のない分野だから記憶が曖昧なのよね……」

「そうか。なければいいんだが、そうなると当てがなくて困るな……」

「もしかしたら関係ないかもしれないけれど……そういえば昔訪れた都市にも似たような地形があったわね。確か土牢ダンジョンだとか何だとか……」

「いや滅茶苦茶に重要な情報じゃないか‼今まで何で教えなかったんだよ!」

「興味がないもの。仕方がないわ」


 はぁと溜息を付くレオに首を傾げるループス。

今日の出来事をきっかけに、この界隈パーティーの波乱さをじっくりと思い知らされるようだ。


「その都市の名前は分かりますかね?」

「うーん……確かルテッセだっだかしら」

「ルテッセ!?」


 ループスから発せられた言葉に思わず驚愕する。

間違いない。ルテッセはこの前、私の出張時にソーラが事前に用意してくれた資料の中でその名があったはずだ。

 そう。”崩壊寸前都市”の危険状態にある最重要都市として――――。



【影の狂獣】

百獣の王として君臨する獅子と同等、最強でありながら対象の存在であるもう一人の王、百影の王である狼が狂った姿だと言われている。

影の狂獣は自身の怨念のままに夜な夜な今日も何処かで徘徊しているという、世間でも有名な都市伝説である。

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