010 忘れ去られた採掘場の廃坑

 奇妙な程に静まり返った坑道に足音だけが鳴り響く。定期的に配置された燈火でさえ薄暗い闇に吞まれている。

 ここは採掘場跡地の廃棄された坑道。そしてクルーが以前旅の途中に出向いた場所の一つでもある。

 なぜ私がここに居るのか。それには理由が二つある。

一つ目は早急に溶解炉の資源となる鉱石の採掘可能な採掘場を探る為。二つ目は洞窟や廃坑内の魔物や猛獣の生態系の現状を確認する為。

 そういえば、この前都市に押し掛けて来た患者はその後奇跡的に回復し心拍数も呼吸も安定。連れの少年少女達も父の復活に歓喜していた。

 だが問題は負傷の原因。医療担当のスーランいわく魔物の可能性が高いらしいが、この極寒で生物達が生き残れるのだろうか?特にここら一帯を支配していた魔物は熱耐性に特化したもので猛吹雪が降れば瞬く間に全滅だ。

 では何故患者は負傷をしたのか。張本人に聞くのが一番早いと思うが患者は今このありまさまだ。簡単に聞けるような状態ではない。

 という事で私が出向く事となった。まあどちらにせよ、生態系の現状確認は今後も役立つ有益な情報となる。その為魔物が在ろうが無かろうが結局は私が出向かなければならないのだ。

 だがソーラに指名されたときは嬉しく承ったものの、いざ廃坑を前にすると恐怖で足が竦んでしまった。廃坑から溢れ出す妖しげな雰囲気オーラが私の足を凍り付かせたのだ。やっとの事で足を踏み入れることが出来たが一歩一歩を踏み出すだけで廃坑に辿り着いたときの記憶が蘇るようだった。

 こんな事になるならば最初からクルーに任せておけばよかったと後悔をする。なぜ専門家であるクルーがここに出向かなかったのかと言えば、ご察しの通りクルーは医務室の建築や溶解炉の整備で疲労が溜まっている。そんなクルーに少しの休息を与えてあげようとする私の優しさが込められているのだ。

 そういして仕方がなく薄暗い廃坑を歩む。歩み続ける。

ゆえに数十分――――


 足が痛い。休みたい。その感情だけが胸から滝のように溢れ出る。絶えぬ激痛にもう恐怖なんて感情は消えていた。

 いつになったら採掘場に辿り着くのか。いいや、そもそも採掘場なんてものは無いのではないか。そうなればクルーの言葉と矛盾するが。

 まあ人間と言うのは所詮痛みに弱い生物だ。クルーには悪いがまた日を改めて出張して貰おう。

 そう後戻りをしようとしたその時。

ドゴ…ドゴ…

 今まで風の通り抜ける音の何も聞こえなかった廃坑の奥から破裂音のような足音が聞こえてた。それも段々とこちらへ近づいてきている。

 突如として降り注いで来たハプニングに思わず慌てる。そういえばだが私は魔物と対等に戦えるような武器を持っていない。どうやってこの状況を切り抜けばいいのだろうか。

 ドゴッドゴッ

足音が近い。すぐそこに居るというのに腰が抜けて足が動かない。脳内はこんなにも冷静だというのにいざとなれば体は順応しないのか。

 すると坑道の奥から巨体が見えた。人間とは程遠い大きさにぎょろりとした目玉に圧倒される。

 私はこのまま死ぬのか?こんな廃坑の奥で誰にも見つからずに?やっとソーラと出逢えて生きる希望を探す気力がついたというのに?

 ウゴォォォオオ

 魔物の雄叫び声と共に私は目を瞑り死を覚悟した。




 

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