011 英雄の君臨
ザシュッ
皮膚と骨が砕け散る鈍い音が辺りに響き渡る。驚いているのも束の間、目を開けると先程まで居座っていた魔物と代わり人らしき影が見えた。
恐怖心で震える足を精一杯持ち上げやっとのことで立ち上がる。
「大丈夫か?怪我はないだろうな?」
そこには一人の男の姿があった。薄暗い廃坑でも見分けれるような金髪をかき上げ額に汗を流していた。その姿は思わず見惚れてしまうような美男としか言いようがないが、今そこに気にしている場合じゃない。
「負傷したにせよ回復ポーションはもう尽きたわよ」
今度は後ろで待機していた女が男にそう訊ねる。
「心配は不要です。擦り傷だけですので」
きっぱりと言い切り、顔を上げまじまじと女の顔を見る。紫色の深みのある髪が灯火の灯で夕焼け空を思い描くように輝く。
こちらも男と同じく美女としか言いようが無かった。
「すみません。名前を伺っても宜しいでしょうか?」
「あぁ。申し遅れたが俺の名はレオ・カムバット。こちらはループス・デイルだ」
「私はグレイシャ・パイオニア。まず貴方達がここに居る理由を伺っても?」
こんな廃坑に人が歩み寄るはずがない。私は入っているけれど何か理由があっての事なのだろう。
そう丁寧に二人に訊ねる。
「一言で言えば……探険?みたいなものだ。最近ここらで魔物が出没するという情報を掴んで……まあこの通り。逆にグレイシャは何故ここに居るんだ?」
「私も同じく魔物や猛獣の生態系の現状について確認の為出向きました。貴方達は要するに、探検者の
私の疑問に二人は顔を合わせ渋い表情を見せる。またほかに事情があるのだろうか。
「いいずらいんだが、実はこの廃坑の探索最中に仲間と逸れてしまったんだ。多分採掘場跡地に居座る魔物の仕業だろう。普段は眠りについているようだが襲い掛かって来る別の魔物と対戦していたら起こしてしまったようだ」
レオの話を聞く限り、私がこのまま奥へ進み続けていたら確実に死んでいたと解釈して大丈夫だろう。正直のところ、幻覚を見せる魔物とは何なんだ。そんなの勝ち目もない理不尽な話に過ぎないじゃないか。
だが、あの魔物から私を救ってくれたのは彼だ。少しでも恩返しはしたい。
「分かりました。私も捜索を手伝いましょう」
「い、いいのか?頼んだつもりはないんだが……」
「いいえ。頼まれたのではなく私がしたいのです。少なくとも貴方達は私の命の恩人です。少しでも恩を返さなければ気に留まります」
「……そうか。分かった」
私の瞳に籠る熱気に気が付いてくれたのかリオン達は大人しく私の提案を承ってくれた。だがレオも私に負けじと熱気の籠った瞳を見せる。
「……だが。ひとつだけ俺から交換条件がある」
「交換条件……とはなんでしょうか?」
「……ここら一帯の魔物や猛獣は俺達が狩り通して来たが、先程言ったようにレベルが桁違いの魔物が奥に潜んでいる可能性がある」
「だから、付添人としてループスをグレイシャの護衛として派遣させよう。そうすれば捜索が断然と楽になるしグレイシャに危険性が無くなるだろう?」
レオの思わぬ提案に少し戸惑いを見せてしまう。
何というか……それは交換条件というよりか私にメリットしかないんだけれども。
まぁそれでレオ達が良いというのならば私は喜んで承るけれども。
「分かりました。その提案、承りましょう」
「よし来た!じゃあ宜しく頼むぞ!」
「えぇ。では宜しくお願い致しますね、グレイシャさん」
「こちらこそ宜しくお願いします、ループスさん」
付添人が来てくれるのであれば、どんな魔物や猛獣が現れようと大丈夫だろう。
唇の両端を釣り上げ微笑みかけるループスに勇気づけられるのであった。
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