012 鉤爪の隠し事
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目の前に突如として姿を現した魔物さえ、その巨体な全身を捉える間もなく胴体と首が切り離される。魔物は瞬く間に灰となり跡形もなく消え散った。
その理由は後ろに凛々と居座る彼女にあった。一見王族の姫と見間違える程に美しい美貌を持った彼女だが、人間とは思えぬかけ離れた強靭さで覆われていた。
彼女はその素早さと鋭く尖った鉤爪を武器としている。それがあるからこそ魔物に瞬きの猶予すら与えない彼女の戦闘形態が成り立っているのだ。
鉤爪にこびり付いた血を壁に擦りつけ拭く彼女。まるで金属と金属を擦り合わせるかのような鈍い音が辺りに響き渡る。
「ところで私達は今何処へ向かっているのですか?」
「目的地と言う程のものはありませんが、手分けして効率よく捜索するには私達が廃坑全体を周る方が良いでしょう」
「それじゃあレオさんは何処へ……」
「……流石の私でも位置情報は特定できませんよ」
一瞬渋い顔を見せたループスに何処となく不信感を覚える。何か私に隠し事をしているのかという疑問だけが
そんな考察をしていたら分かれ道に出逢った。
「どちらに行きますか?」
「……えぇっと。右に行きましょうか」
「理由をお訊ねしても?」
「……理由なんてありませんよ。私の勘と言えば宜しいでしょうか」
やはり何かを隠しているな。視線を私から逸らしまるで嘘を突き通すかのようだ。私の勘違いとは思えない。
「……では左にしましょう」
「ど、どうしてです?先程私が右に行こうと……」
明らかに焦った素振りを見せるループスに確信を持った。恩人ではあるがこれ以上、彼女に嘘を装う事などさせない。
「理由は無いのでしょう?ならば右でも左でもどちらでも宜しいのでは?」
「で、ですが!」
「……何かやましい訳があるのですか?」
「………」
無言の肯定、か。まあ彼女がどれだけ否定しようと私は左を選んでいたけれども。
「別に理由があるのでしたら強制はさせません。お構いなくここでお待ちになっていてください」
そうだ。これは私からの提案であって私の身に何かあったとしても彼女の責任ではない。
本音を言えば元からループスさんを巻き込む形にしはしたくなかったので、私としてはデメリットなどない。逆にメリットだ。
「では、これにて……」
「待ってください。私も同行致します」
「どうしてです?私は強制などしていないのですが……」
「いいえ。頼まれたのではなく私がしたいのです。そうでしょう?」
微笑んで見せるループスに観念せざるを得なかった。まさか私と同じ
「……分かりました。では先へ進みましょうか」
「えぇ」
■□■⚔■□■
魔物の雄叫び声も何も聞こえない廃坑。その一角で壮絶な戦闘が行われていた。
「何処だ!居るなら大人しく出てこい!」
男の叫び声が辺りに響き渡る。一見変人が廃坑で暴れ回っているようにしか見えないが、そこには確かに”ヤツ”が潜んでいた。
サッ
空気が裂ける音と共に男が慌てて背後を振り返る。
「そこかッ……」
咄嗟に剣を構える。……だが手遅れだったのか”ヤツ”は瞬く間に男の胸倉に飛び込んだ。
妖しげな闇が光のようなスピードで辺りを覆い尽くす。
「……く、そッ」
そこで男の意識は途切れた。
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