021 レビースト・オブ・プレイオ

「あ、あったけぇ……」

「ペッロさん、すっかり元通りになりましたね」

「そうだな……」


 モーノが魔法で熾した燦然と輝く焚き火を前に、モーノは如何にも心地が良さそうに蹲っていた。

 時の流れはこう。

まず洞窟に辿り着いた私達は、辺りの調査を進め危険がないか把握する。次に暖をとる為モーノが火を魔法で熾す。

 そして焚き火の温もりを感じ取ったのか、それか元々起きていたのか。急に目を覚ましたペッロは焚き火を目掛けてすぐさま猛ダッシュし、今の状況に至る。

 その一部始終をはっきりと見ていたモーノ(世話係)は、怠そうな呆れるような怒るような、そんな顔を見せていた。

 本当にこう見ると、モーノが可哀想に思えてくる。いいや実際、被害を受けているのだけれど。


 グウ……


 すると、誰かの腹の虫が鳴いた。恐らくペッロのものだろう。


「腹……減った……」

「自分で採りに行け」

「私は手伝わないわよ」

「精々頑張るんだな」


 そうペッロが口に出すが、全員口を揃えて却下。

それにペッロは頭の上で尖った耳をしょぼんと萎れさせた。

 頭の上で尖った耳……?

今までソーラの耳の影響で全く気にしていなかったけれど、そういえば皆人種とは思えぬ耳の形状をしていた。

 もしかしたらソーラと同じ亜種なのかもしれない。だけれど、無理に聞くのはやめておこう。

 もしかしたらソーラのように以前、種族差別を受けて来たのかもしれない。そう考えると、今質問するのは地雷を踏むのと同然。

 そもそも、皆こうやって私達に友好的なんだし、聞く必要のないことだ。


「……分かりました。では私が向かいましょう」

「……!?」

「ど、どういう事だグレイシャ!ペッロに任せれば……」

「そうよグレイシャ。ペッロだって自分の晩御飯くらい自給自足できるわよ」


 私の言葉に焦り出す三人。

だけれど、私はめげずに話し続ける。


「いいえ。ペッロさんは今、雪に埋もれて体全体が凍えています。このまま猛吹雪の中を歩いてしまえば、必ず凍死してしまうと思います」


 そう。それも理由の一つだ。だけれど、それ以前に私には成すべき必要があるのだ。


「………隣で誰かが苦しんでいるというのに、守ることが出来ない。目の前で誰かが一生懸命に敵と戦っているのに、私は何も出来ない」

「私は……皆さんと出逢ってから、思い知らされたんです。強くなければ、何も守ることが出来ない。都市も、都市の人々も、そしてソーラさんも……。だから、強くなりたいんです。何としてでも」




■□■⚔■□■



― レオside ―

 

 純粋な想いは胸に残る。純粋な瞳は記憶に残る。

それを訴えるかのように、グレイシャの瞳は如何にも真剣だった。

 いいや、真剣じゃないはずがない。彼女は決して自身の行動全てをペッロの為に行っている訳では無いのだ。


「どうする?」


 全員の意見を聞く為、他二人の顔を覗く。

そう。彼女の決断が正しいだろうが何だろうが、俺達が行かせるかは別の話である。

 そりゃあそうだ。この猛吹雪の中、ひとりで狩りをするのは命懸け。彼女の命が懸かっているのだ。

 俺は赤の他人の命を自身の命を滅ぼしてでも救う程、優しくはない。初めてグレイシャと出逢った時だって、ペッロとモーノの居場所を聞く為に助けたも同然だった。

 表面では『世を脅かす存在を狩る為』に魔物狩りをしていると言っていたが、そんなも糞くらえだ。俺は俺を守る為に生きている。

 でも、グレイシャには伝えたくはなかった。グレイシャとめぐり逢って、俺は長年閉ざされていた”親密”というものを教わった。

 グレイシャと俺の関係は、仲間じゃない。敵でもない。何とも言えない関係。でもそれが、俺にとって居心地が良かった。

 そして、あの純粋な瞳には、過去に苦しんだであろう儚げさや虚ろさの残骸が未だに残っている。

 グレイシャの過去なんぞ微塵も知らないが、俺がこの真実を告げた時、彼女はどんな顔を見せるのだろうか。既に想像はついている。

 彼女の瞳を闇に引きずりたくない。この関係を崩したくない。俺は一生、彼女から”自分”を隠し続けるのだと思う。

 だけれど、その前に彼女が死んでしまえば元も子もない。でも、彼女が望むのであればその願望に応えてやりたい。

 子を見守る親というのは、こんな感情なんだろう。


「聞く必要もない。行かせてやろう」

「そうね。彼女の純粋な気持ちは必ずしも何かを動かすわ」

「……そうだな」


 ループスの言う通りだ。

なんたって、ビースト・オブ・プレイはもう動かされているんだから――――










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