004 問題点
「本当?!や、やった!」
またもや子供の様に駆け回っては大喜びをするソーラ。
それに釣られ私も思わずニコッと微笑みを浮かべてしまう。
「おいおい、それでも亜人かよ………」
「始めは驚きますが、いつしか慣れますよ」
「そういうものなのか………?」
すると突如足を止めたソーラが、男に訊ねる。
「そういえば君、名前は何て言うの?」
「名前?クルー・マイナーズだけど……」
「クルーだね。実に良い名前だよ」
「……そ、そうか」
クルーと名乗る男も、ソーラに褒められ何処か嬉しそうに頬を緩めた。
私は既に気が付いていたが、ソーラの力は絶大だ。
相手が他種であれ何であれ、彼女は関係なく仲間になれる。
これはもう能力と言っていい程のソーラの武器だ。
「先程から専門分野だの仰られていましたが、詳細を教えて貰っては宜しいでしょうか?」
「別に構わないけど……」
そして男は、洞窟を探索していた意図、そしてここで倒れるまでの経路を、全て教えてくれた。
「へぇ……という事はクルーって、溶解炉について詳しいの?」
「まあな。溶解炉は性能や機能性も抜群なんだが欠点があったりするんだ。一つは資源不足に弱い事。もう一つは猛吹雪でもし溶解炉内に雪が侵入したとなれば、瞬く間に機械は故障。最低三日は使用停止だ。だから建設するとなれば溶解炉周辺にバリアなんてのが張れればいいんだが……そんな都合のいい物なんて無いよな」
クルーの渋い顔を見て思わずソーラと目を合わせ、更に渋い顔を見せた。
■□■⚔■□■
「雪が……雪が消えている!どういうことだ!?」
クルーを洞窟外へ案内すると、あからさまに驚いた素振りを見せた。
そう。本来は洞窟から数百メートル離れた地点に<
「これは世紀の大発見と言えるぞ‼一体、如何なる手法を使ったんだ!?」
興奮状態のクルーが荒い息をしながらソーラに攻寄る。
これにはソーラも引き気味な様子で戸惑った表情を見せつつクルーに説明をした。
「そんな興奮する程難解な手法じゃないよ。単純に魔法を使ったのさ」
「魔法だと……?何を言っているんだ。そんなの仮想空間を題材にした
「その魔法が御伽話という事こそ仮想の話だよ。魔法は世で確かに存在しているし、亜人界では一般的に使用されている。魔法を知らないという事は、やはり亜人との交流の浅さが滲み出ているんじゃないかと私は思うんだ」
「……で、亜人と人間が交流できるような種族差別のない国を目指すって事か」
「そう。だから君には、将来的に誰もが快適に過ごせるよう溶解炉の制作を頼もうと思うんだ。……勿論、対等の褒美も用意してある。実に良い話だろう?」
ニヤリと唇の端を釣り上げ、如何にも悪そうな笑みを浮かべるソーラ。
その話、私も初耳なんだけどなぁ……。
「……ほうほう。そういう事なら承ろう。となれば、資源の採集についてはそちら側で行ってくれるのか?」
「勿論だとも。クルー君には建設に集中して貰って構わないよ。資源の採集が進み次第、建設を始めてくれ!」
自慢気に胸を張り無駄に主導者感をアピールするソーラに、陰でそっと呆れる。
「とはいえ、ここは荒れ狂う氷河です。資源の採集なんぞ簡単な問題ではありません。一体どういうつもりですか?」
「フフフ。今に見てなよ」
露骨に不吉な笑みを見せるソーラに、嫌な予感が波のようにこちらへ押し寄せてくるようだった。
すると突如、素手を空気中に向かい突き付けるソーラ。
その動作はまさに、<
あの小さな指先から何か途轍もない魔法でも繰り出すのではないか、と恐る恐るソーラを見つめる。
故に十分………。
「あの……まだでしょうか?先程から一歩も動かれていませんけれど」
「ちょっと!話しかけると集中が途切れちゃうじゃんか……ってもう切れちゃった。何するんだよ!今凄くいいところだったのに………」
「良いところも何もないでしょう!?人を何分待たせているんですか!」
凄まじいチョップをソーラの頭に吹っ掛ければ、いででで、と泣き喚くソーラを華麗に薙ぎ払う。
この完璧なパフォーマンスに、隣で見ていたクルーが引き気味な様子で拍手をした。
「あのですね、ただ単に素手を空中に突き出しているだけじゃ何も起きないんですよ!ささっと魔法を繰り出してくれません!?」
「だって仕方がないじゃん。森林の場所を探知していたんだよ。この前みたいに<
「……あのですね。まずは遠くを見る前に周辺の探索をしてはどうなんですか?」
「えー、だって見たってしょうがないじゃん。どうせ探知で特定できるんだから」
「時短と言う言葉を知らないんですか?効率的に作業するにはそれが最適でしょう」
「分かったよ。じゃあ先にあそこら辺から……って、え!?」
ソーラのあからさまに驚いた表情に、怒りを通り越して呆れる。というより呆れ果てる、の方が正しいだろうか。
「き、ききき木!?木があるよ!しかも大量に!」
「そうですね。では早速採集を行いましょうか」
「ちょ、ちょっと待って」
足を止めまたもや素手を空中に突き出すソーラに、今度は何だと気怠さで開こうとしない瞼を持ち上げ見つめる。
「<
呪文が唱え終わった後もソーラの指先には変化が感じられなかった。
ただ、ソーラのずっと奥……<
木々が生い茂るそこでは、切り刻まれた木材が宙を浮き段々とこちらへ近づいているのだ。
そうか。木材に掛かる重力を適度に逆転させる事で対象物を宙に浮かすことが 出来るのか。
思わず見惚れる様に空中を眺めていると、隣からソーラがひょこっと顔を覗かせ私の反応を伺っていた。
「何ですか」
「驚いてるかなって思って」
「そうですか」
「何だよ!眉ひとつだって動いてないじゃん。お世辞でもいいから少しは驚いた顔を見せてよね………」
「お世辞でもいいなら何度だって笑って見せますよ。逆にソーラさんは、お世辞でも宜しいんですか?」
「うーん……だって少しは自分が役に立ったって思うでしょ?」
「存在価値を示す為ですか……やはりお世辞でも辞めましょうか」
「ち、違うんだって!そういう事じゃなくて……私は存在価値が大切だと思うから。逆に言えば、誰からも必要とされずに人生を過ごすなんて、飛んだ話じゃないでしょ?」
「私であれば寿命が尽きる前に自害しますね」
「でしょ?でも極端な話、存在価値で人を軽蔑する様な真似はしてはならないけど、存在価値こそが私達の生きる希望を携えていると思うんだ」
「それには共感ですね。やはり可もなく不可もなく……そんな生涯が一番望ましいと私は思います」
「価値観は皆それぞれ異なるから、グレイシャとは異なる価値観も存在すると思う。でも正直に言えば、私もグレイシャ派かな」
「ソーラさん、そういえば運んでいる木材は大丈夫なんですか?」「
「……え?」
当たり前の様に素っ頓狂な声を出すソーラに、はぁと溜息を吐く。
少し見直したと思えば速攻にこのざまだ……。
色々と事態が生じたものの、その後は無事に木材の運搬に成功し大量の資源を入手する事が出来た。
一度クルーの元に戻ると、私達の後ろから大量の木材が浮いて来る事に気が付いたのか露骨に驚いた顔を見せた。
「け、結構な量を採って来たな?」
「これで数カ月程度は持つと思います。ところで溶解炉の方は?」
「順調………とは言えないな。効率よく都市全体を温暖にするには溶解炉はやはり都市の中心に設置しなければならないのだけれど、少し難しくてな………」
「難しい、というと………?」
「溶解炉は勿論お分かりの通り、石炭を投入する事で辺りの気温を一段に上げる機能を持つ。だがそれはデメリットにもなりうるんだ。もし一度に大量の石炭を溶解したとなれば………」
すると突如、気まずそうに顔を背けたクルー。よく見れば瞳は揺らぎ視線が不安定だった。
そのクルーの態度に少し違和感を覚えた。
「何か言いずらい理由なんぞ知りませんが、何時まで躊躇していても時は立ち止まって貴方を待ってはくれません。出来れば早急に、直結にお伝えお願い申し上げます」
「わ、分かったよ。………直結に伝える」
「石炭などを燃焼させると排出される”二酸化炭素”という空気物質が大量に発生し、瞬く間に都市全体を覆い尽くすだろう。それも、結界が張られ空気物質が密集したこの地では、特に」
氷河大開拓時代 静月夜 @Serena_0015
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