023 大盤振る舞い
「すみませんペッロさん。今日の晩飯は抜きで宜しいです……」
方角を覚えておいたお陰で、すんなりと洞窟に辿り着くことが出来た。
何かとホワイトアウトも北極熊との睨み合いの後に晴れたし、肉が採れないという以外は運がいいだろう。
ペッロに謝罪をしようと洞窟へ足を踏み入れるが、どうもいい匂いが周辺に漂っていた。
「こ、これは……一体何の匂いでしょうか?」
「あぁ、帰って来たかグレイシャ。それは……」
■□■⚔■□■
~遡ること数十分前~
グレイシャが洞窟を飛び出た後、何故かループスとモーノが手早く準備をしていた。
「な、何をしているんだ。ループスとモーノ?」
「何って、決まっているでしょう?グレイシャの偵察よ」
「グレイシャの身に何か起きたら、鍛錬とはいえ元も子もない。それに、俺達はグレイシャに”強くなること”を許可したが、”死ぬ”ことは許可するなんて一言も言ってないぞ?」
あぁ、そうか。そうだった。
お前たちも、
俺達は、グレイシャを想い、グレイシャの為に偽っている。
それが例え世間から自身を覆面で覆おうと。善人の仮面を被ろうと。
目的の為には手段を択ばない。それが偽善者には相応しいだろう?
「それでペッロは……完全回復したっぽそうだし、精々寂しく洞窟に籠ってろ」
「は……はァ?俺様は……」
「反論は認めない」
「意見を述べるなら、まずは日頃の行いを改めるべきね」
「う”………」
三人からの一斉攻撃に観念したのか、ペッロは最後に呻き声を上げて黙り込んだ。
……まぁその後、色々とグレイシャの戦闘を観察して時は経った。
因みに、この事はグレイシャには内密に。
■□■⚔■□■
「……まあ、
レオの意味深な回答に戸惑うも、どうせレオの
レオは偶に不可解な発言をすることがある。その発言は、まるで私から仮面を被るような感じがするから、あまり好きじゃない。
でも、その発言をする時、必ずレオは寂しそうな
それが、
だから、いつも不可解な発言には深追いをしない。
探れば探る程、私とレオの間に亀裂が出来てしまうから……。
「……不幸中の幸いってものですかね」
そう静かに微笑んだ。
数十分後。
料理が完成したのか、洞窟に丁度設置されていた岩石のテーブルに、次々と料理が置かれていった。
「肉汁たっぷりの赤身ステークと、卵かけハムバーグ。そしてピリ辛カルーライスに……」
モーノの口から発せられる呪文のような長文に思わず目が回る。
う………もう無理………。
「今夜は大盤振る舞いだぞ。たっぷりとご堪能してくれ………って、グレイシャ!?大丈夫か!?」
「おいおい!俺様のせっかくの手料理を食う前に気絶するとか、たまったもんじゃねーよ‼」
「……だ、大丈夫です。そ、その……これって今から私が食べれるのでしょうか?」
「……?勿論だぞ。フォークも用意したし、自由に食ってくれ」
「じゃあ……い、頂きます……」
目の前のステークから漂わされる香ばしい匂いに思わず喉を鳴らす。
これを今から私が食べれる事に、今も実感が湧かない。
肉を食べるのは何時ぶりだろう。生まれた時から氷河期の真っ最中で、肉なんてそうそう食べられるものじゃなかった。
昔一度だけ誕生日に食べたことがあったけれど、それも雑食獣の肉で美味しいとは言えなかった。
でも、この肉を見る限り肉食獣の肉なのだろう。
綺麗な赤身の肉を見つめていると、自然とよだれが垂れてきてしまった。
慣れないフォークでぎこちなく肉を刺すと、抑えきれない肉汁が溢れ出した。そして慎重に口に運ぶ。
あむっ
「……ッ?!」
口の中でとろける肉汁。弾力のある赤身肉。少しだけツンと来る辛味。
衝撃的な美味さに感激のあまり涙を流してしまう。
「ど、どうしたグレイシャ。少し辛かったか?」
「いいえ。美味しいです………っ」
「そ、そうか」
涙を流す私に少しざわつくが、素直に美味しいと伝えると、皆黙ってくれた。
よし。決めた。
お爺ちゃんの分も、私が美味しい料理を食べよう。そしてもう一度お爺ちゃんに在ったら、腹を膨らませて思い出話をしてあげよう。
……いいや。その必要はないか。
何せ、今もお爺ちゃんは私の事を影から見守ってくれているんだから。
とにかく、今は美味しいものを食べまくろう!
そうして、ステークを一瞬で食い尽したグレイシャに、隣に座っていたレオは引きつった顔を見せていた――――。
氷河大開拓時代 仮面の兎 @Serena_0015
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