第35話 『別に不意打ちでも問題ないよね? ……文化祭でモテモテ?』
1985年(昭和60年)9月30日(月) <風間悠真>
オレはあれからヤツの行動経路を調べた。
調べた、といっても校内では他の生徒や先生にバレるから、必然的に登下校になる。登校は学校に行くから可哀想……というか色々と面倒が起きそうなので、下校時に決行した。
経路はオレとほぼ同じ。
中学校からの帰り道は小学校を通るが、距離的にはほとんど変わらないもう一つの道がある。
小学校の手前に海側に降りる道があり、それを進むと海岸にでて、さらに進むと小学校からの帰り道と合流するのだ。
つまりオレは小学校経由だと崇広の家の前は通らない。
小学校を通らなければ、崇広の家の前を通り過ぎて自宅にいくという形になる。どっちでも良かったんだが、いつもは美咲や
放課後、オレは祐介と3人に早めに帰る事を伝えて、30分早く下校した。
どこで待ち伏せをするかもちゃんと考えた。小学校方面から分かれる道を過ぎて海岸へ出てしまうと、見通しがよくなってしまうから襲撃には適さない。
人気のない見通しの悪いと所だと考えれば、分岐するまでの道だ。民家もなく道の脇には山がせり上がっていて、待ち伏せ場所には事欠かない。
待つこと1時間。
1人で歩いている川口崇広の姿の姿を見つけた。
「今だ……」
オレは家から持ってきた木製のバットをしっかりと握り、後ろから静かに距離を縮める。
そのままバットを振りかざした。
「おらっ!」
バットが崇広の右腕に直撃する。その瞬間崇広は体を大きくのけぞらせ、前のめりに倒れ込んだ。
「ぐあっ……!」
崇広は振り返ってオレを見る。
その顔には驚きと怒りが混ざった表情が浮かんでいたが、オレは一切ためらわずにさらに一歩踏み出す。
オレは崇広が立ち上がる前に再びバットを振り下ろした。今度は左腕に直撃し、鈍い音が響く。崇広は顔をしかめ、痛みに耐えながらも反撃しようとするが、オレの方が先に動いた。
「お前がやったことのツケを、今払ってもらうんだよ」
顔を狙うなんて馬鹿な事はしない。
肩もそうだし、背中だってそうだ。命に関わるし、骨だって折れるだろう。怒りにまかせてやれば……もしあの時オレがバットを持っていたら、そうしたはずだ。
しかし、あくまでも正当防衛にしなければならない。
良く考えればこの時点で正当防衛にはならないのだが、少なくとも骨折や救急車を呼ぶような大けがをすれば、罪に問われる。
だから日ごろつっぱっているコイツらが、恥ずかしくて親には言えないレベルの怪我で『わざと』すますのだ。目的は肉体的ダメージよりも精神的ダメージ。
『こいつには二度とオレに逆らわせない』
それが最大の目的なのだ。
痛みをこらえて崇広が拳を振り上げたが、オレはバットをさらに強く握り、次の一撃を彼の太ももに叩きつけた。足がガクンと崩れ、地面に転がる。
オレは引き続き、何度も叩く。
「だ、だれか……」
助けなど呼ばせるか。オレは逃げる事もできずにリンチされたんだぞ。腹を思い切り蹴った。
「おい……やめろ……」
崇広の声がかすかに聞こえたが、オレは聞き流した。
「脱げ」
オレは冷たく言い放った。
「ぼう、がんべんじでぐれ……」
「やぜらしか(うるさい)! よかけん(いいから)脱げ!」
オレは顔を蹴った。
まあ、このくらいなら大丈夫だろう。オレも蹴られたしね。ていうかオレはアレだけ顔を殴られて顔を腫らしたのに、コイツが無傷だというのも腹が立つ。
上着を着たままパンツ一丁でうずくまった崇広を放置して、オレは脱がせたボンタンを家に持って帰って、燃やした。
1ミリも興味ない。
漫画のビーバップハイスクールや湘南爆走族は流行っていた時期だ。前世のオレも読んだ。
しかし今世は、1ミクロンも興味がないのだ。オレが中途半端にそんな事やっても、モテない。
■10月1日(火)
「おーっす! おはよう! 元気か?」
「は? 何言ってんだお前?」
と修一。
■10月9日(水)
7日の月曜日には平山信行のボンタンを狩った。
もちろん不意打ちバットだ。あれ以来崇広は来なくなったようだが、まあ、来るとしてもちょっと控えめにしたボンタンを買ってからだろうな。
「おはよう! おう修一、どした? 顔色悪いぞ?」
正人も勇輝も同じだ。
■10月14日(月)
12日の土曜日に山内勇人を狩って(もちろん不意打ちバット)、今日だ。
「さ、2年は終わったから、あとはお前らだぞ。どうする? 脱いで明日から標準(規定のズボン)はいてくるなら許すぞ……」
ていうか同じ1年なのに、あいつらだけ先輩から認められて改造ズボンはけるなんて意味がわからん。それこそヒエラルキーの頂点予備軍じゃねえか。
いや、今となってはまったく関心0だが、腹が立つのだ。
「まあ、いいや。明日どっちをはいてくるかで決める。明日になったら問答無用だからな。標準なら許してやる」
翌日、修一と正人と勇輝は示し合わせたかのように標準ズボンをはいてきたが、その数日後……。
『どうしたの? 最近は真面目になったねえ!』
と美佐子先生が声をかけて、『うるせえっ!』とはね除けているのを見かけた。
だっさ。
■10月18日(金) 文化祭(文化発表会)
「悠真、頑張ってね」
「応援してるよ」
「私、曲全部聴いたから!」
美咲、凪咲、純美の順である。オレ達は出番を控え、準備をしている。体育館にはオレと祐介、それから悟くんとドラムの健二くん、……見た事ない人がいた。
「あ! あれ? 川下楽器の人? ですか?」
「ああ、音響手伝ってくれるってさ」
「ああ、あ、ありがとうございます!」
その人は軽く手を振って応えてくれた。
中学校のアマチュアバンド、しかも今回が初めてのステージで手伝ってくれるなんて……と思ったら、ちゃっかり垂れ幕を持ってきていた。
『協賛 川下楽器』
まあ、そうだろうね。
「あ、親父、これそっちに置いてくれる? ありがとう」
悟君のお父さん(ホテル新城のオーナー)もいて手伝ってくれている。仕事は大丈夫なのかな? 平日だから暇?
『協賛 ホテル新城』
あ、うん。やっぱりね。
次回 第36話 (仮)『スタンディングオベーションになるか? ニッキー・ユーマ・グループNYG(仮)』
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