第39話 『高遠菜々子と近松恵美。新ハーレム体制』
1985年(昭和60年)11月1日(金) <風間悠真>
9月15日の
今月、11月の10日は純美の誕生日だ。
いっそのこと下着でも贈るか。いや、さすがに引くだろう。
止めておこう。
身につける物なら……うーん、時計? この辺が無難かな? だんだん高くなっていくような……気のせいか?
日曜に佐世保に行って買おう。
そうだ! 悟くんの彼女の和美さんは純美の姉ちゃんだから……いや、そこ突っ込むと、このオレのハーレム計画がズレる可能性があるから、やっぱり店員に聞くのが無難か。
■放課後
キーンコーンカーンコーン……。
第2回の実力テストが終わって、教室内はほっとした気持ちと疲労感が入り混じった空気に包まれている。みんなそれぞれ誰かの机の周りに集まって、問題の答え合わせをしたり、難しかった問題について議論したりしていた。
「まじで、数学の最後の問題難しかったよな」
「国語の現代文、全然わからなかった……」
「英語は思ったより簡単だったかも」
各テストの間は10分しかないので、前のテストの反省や次の予習なんてできない。せめて終わった科目は無視して、次の科目の暗記をやるくらいだからだ。
オレは自分の席で静かにテストを振り返る。
51脳の知識のおかげで対策ができたから、第1回と同じようにほとんどの問題は難なくこなせた。現代の中学生らしさを出すために、いくつかの問題は意図的に間違えておいた。
……なんて事するわけない。
油断大敵なのだ。
そんなとき、菜々子がオレの机に近づいてきた。いつ見ても可愛い。
いや、本当に可愛い。背中の中ほどまで伸びたポニーテールが、軽やかに揺れている。髪は黒に近い茶色で、光を受けるたびに自然な色味が柔らかく輝いていた。
ぱっちりとした大きな二重の瞳と、微笑んだ瞬間に見える白く整った歯にオレの顔をニヤけそうだ。
……いや、実を言うと、最近のオレはなんだかちょっと変なんだ。
12歳の脳には経験がないから記憶なんかないはずなのに、51脳の記憶と12脳が融合して女の裸やエッチしている光景をリアルに脳裏に浮かばせる事ができるようになってきた。
想像とか、妄想とか、そういうレベルじゃないんだ。51脳は実際に見ているし経験もしているから、それに加えて前世(?)のAVの記憶だってある。
だから意識してそれをやれば、目の前にいる女の裸やそっちのイメージが勝手に膨らんでくる。スリーサイズはこのくらいだろうとか、カップ数はこれくらいだろうとか、だ。
……意識がそっちにいかないようにしないとな。
「あの……風間くん」
「ん? どうしたの、高遠さん」
オレが顔を上げて菜々子を見ると、ちょっとためらいながら話し始めた。
「実は、お願いがあるんだけど……」
「おー、なになに? なんでも聞いちゃうよ~」
と、おれはおどけてみせた。
本当は12脳は心臓が破裂しそうにバクバクしている。51脳は冷静に対処しようと必死に12脳を制御する。
「風間くんって、1組の遠野さんとか白石さんと、一緒に帰ってるよね?」
「え? ……あ、うん。よく知ってるね」
うーん、正確には美咲と凪咲と純美と、それから3人の公認になった礼子で合計4人だけどね。
「その中に、私も入れてほしいな〜。だって……もっと風間くんと話したいし、いろんなこと知りたいんだもん」
わーお! (古っ!)やったあ! コレでオレのハーレム計画はさらに拡大し、中学卒業までにエッチをするという目標にまた一歩近づくのだ。嬉しいことこの上ない。
でも、一応……。
「え? あの、それは……まあ、確かに嬉しいけど……」
「嬉しい? 私と一緒に帰るのが?」
「う、ん……嬉しいよ。だって高遠さん可愛いし、性格だってよさそうだし。それは学級委員を一緒にやってるからわかるよ」
オレは正直な感想を言った。歯が浮くような台詞も、51脳のおかげでスラッと言えるようになったのだ。
菜々子の顔が明るく輝き、その笑顔にオレの心臓が高鳴る。
「ほんと? じゃあ、一緒に帰ってもいい?」
「いーよ♪ ただ……他の子たちにも話してみないとダメかもしれない。みんなと決めた約束だから」
オレは少し考え込むふりをした。急に OK を出すのは不自然だからだ。菜々子は少し残念そうな顔をしたが、すぐに笑顔に変わる。
「そっか。でも、風間くんが良いって言ってくれたら、きっと大丈夫だよね?」
オレは微笑んで答えた。
「そうだね。じゃあみんなに聞いてみるよ。その結果を明日教えるってのはどう?」
「うん! ありがとう、風間くん!」
菜々子は嬉しそうにうなずいた。
「じゃあまた!」
「うん、またね!」
「……という事があったんだ」
オレは4人を集めて菜々子から言われた事をそのまま伝えた。
凪咲が腕を組んで、んー? と
……と、いいたいところだが、オレは実家に来られるのが嫌なんだ。コンプレックスだな。トイレだって水洗じゃないし、女の子なんて呼べないよ。
呼べたらどんなにうれしい事か。
で、学校からの方角は小学校とは反対方向にあるシーサイドモールに集合した。フードコーナーでお菓子とペットボトルのお茶を買って、休憩スペースに集まって座っている。
今みたいにガストのドリンクバーなんてないから、仕方ない。
純美がテーブルの上に置かれたオレンジジュースを一口飲んで、それからちょっと真面目な顔で言う。純美の髪はショートボブでおっとり
胸は1番大きい。2番目は礼子だ。
純美は少し考え込むような表情を見せた後、静かに口を開いた。
「悠真、高遠さんが一緒に帰るのって、本当にいいの?」
オレは純美の真剣な眼差しに、少し動揺を覚えた。どうしても胸に目が行く。おい!
「え? まあ、別にいいんじゃないかな。高遠さんも仲間だし」
「でも、今のメンバーでちょうどいいと思うんだけど」
「そうだよ。これ以上増えると、なんだか落ち着かないというか……」
美咲がほんのちょっと嫌そうな顔をすると、凪咲も同意するようにうなずいた。礼子は黙ったまま、オレの顔を見つめている。
だよねー。そうなるよねー。
「みんな、そんなに嫌なの?」
美咲が真剣な顔でオレを見つめる。
「嫌じゃないけど、悠真との時間が減るのは……」
今は礼子が毎週土曜日とテストの日になっている。
そして月曜が美咲、火曜が凪咲、水曜が純美で、木曜と金曜はジャンケンで決めているのだ。そのジャンケンの日に高遠菜々子が入ると、帰れるかもしれない日が1日減ってしまう。
凪咲が続ける。
「そう、私たちだけの特別な時間がなくなっちゃうような気がして」
「悠真の気持ちが、私たちから離れていくんじゃないかって……」
純美も小さな声で付け加えた。
「あーそれはない! みんなのことが好きだし、高遠さんにだけ気持ちが向かう事はない! これは約束するよ!」
そりゃそうだ。オレは全員とセックスしたいんだから、ハーレム状態(特定の彼女を持たない)から抜け出す気はない。
「よし、わかった。みんなの気持ちもよくわかったよ。じゃあ、こうしよう。高遠さんには週に1回だけ一緒に帰ってもらうってのはどうかな? これを3か月続ける。そうすれば、オレの気持ちが変わってないのが分かると思うよ」
オレの提案に、みんなは少し考え込む様子を見せたが、美咲が最初に口を開いた。
「それなら……まあ、いいかな」
「うん、それくらいなら大丈夫かも」
凪咲もうなずいた。
オレは内心ほくそ笑む。これで菜々子も仲間に加わる。ハーレムへの第一歩だ。でも焦っちゃダメだ。ゆっくり、着実に進めていこう。
? 礼子だけが……まだ何か言いたそうな顔をしている。なんだ?
「……ねえ悠真」
「ん? なに?」
「もしかしてさ……高遠菜々子のこと、好きなの?」
オレは手に持っていたペットボトルを落としそうになった。
なんでだなんで! ? なんでバレたんだ? ? ハーレム計画はまだ完成してないのに! いや、落ち着けオレ。きっと勘違いだ。
「え? そりゃあまあ、好きか嫌いかって聞かれたら、嫌いではないよ。嫌いな人なら断るし」
「悠真は、好きじゃない人と一緒に帰るの?」
礼子が疑いの眼差しを向ける。
うわー! どうする? いや、ここははっきりと言っておいた方がいいだろう。オレの本音を!
「いや、それは違うんだ。……えーっと、好きか嫌いかって聞かれたら好きだよってこと」
「ふーん。じゃあ、好きか嫌いかって聞かれたら?」
ぐほっ! どうした礼子? いつものおっとり控えめな礼子じゃねえぞ?
「えー? ま、まあ……そうだね……好きかな」
苦しい言い訳だ。自分でもそう思う。でもそれ以外に答えようがないんだよぉ~! !
「……わかった」
礼子は納得してないような感じだったけど、それ以上追及してこなかった。助かったぜ。オレは内心の動揺を悟られないようにしながらペットボトルのお茶を一気に飲んだ。
そして話題を変えたのだった。
ちなみに、なぜか当たり前のように近松恵美もその1人に入っていく事になる。
月曜日が美咲、火曜日が凪咲、水曜日が純美、木曜日が菜々子、金曜日が恵美、土曜日と特別日が礼子となったのだ。
これがオレのハーレムスケジュールだ。
うん、バンドってやっぱ、モテるんだな。
次回 第40話 (仮)『高遠菜々子とシーサイドモール』
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