第56話 『勉強会なんだけど純美とコタツの中で』
1986年(昭和61年)2月22日(土)<風間悠真>
1年最後のテスト、期末テストは27日(木)に英語・数学・社会、28日(金)に国語・理科がある。ため息がでる。
例によって今日は
美咲と凪咲は前回の実力テストの時に自宅で勉強デートをした。勉強デートというものがあるのかはわからないが、まあ、口実だ。
朝から、純美からこんな提案があった。
「ねぇ、悠真。今日の午後、一緒に勉強しない?」
テスト勉強として、菜々子と恵美以外の四人とは休日に勉強をしようという暗黙の了解ができていた。今日は土曜日だが、16日の日曜日は祐介の家でバンドの練習だったからできなかったのだ。
「今日は土曜日だけど、バレー部は?」
「うん……その……頭が痛くて……」
はにかむように目をそらす純美。
「大丈夫か? 熱は?」
オレは手袋を外してそっと純美のおでこに触る。
「だ、大丈夫……だよ。熱はないみたい」
うーん、どうなんだ? 早退というか、部活は休むつもりなんだろうか?
あ! あー、なるほど。そういう事ね。
13脳だけじゃ絶対に気付かなかっただろうな、こういう女の子の可愛らしい策略に。
51脳だからこそ分かる。本当は勉強したいから、バレー部を休む言い訳として頭痛を使うつもりなんだ。熱はないけど頭痛を訴えれば、誰にも確認のしようがない。
「そうだな、頭痛いなら無理して部活は行かない方がいいかもな。オレもテスト前だし、今日は練習休むよ」
言い訳には深く踏み込まないのが大人の対応だ。
「で、何時ぐらいがいい?」
「えっと……3時くらいかな?」
部活を休んで、かつ不自然じゃない時間。これまたよく考えてるな。
「じゃあ、3時に行くよ」
純美の家までは40分以上かかるから、2時過ぎには家を出ないと。
祐介には悪いけど練習は休ませてもらおう。こういう『チャンス』を逃すのは、オレの人生経験上、よくないんだ。
「本当に具合悪そうだね」
周りにバレー部の子はいないけど、建前は続けておく。
「うん……ごめんね……」
嘘をついている事への『ごめん』なのか、具合が悪い姿をみせての『ごめん』なのか……。
多分前者だろう。
申し訳なさそうに俯く純美。この表情が演技なのが、また可愛らしい。
■放課後
昼までの授業を終え、祐介に『悪い。今日は休ませてくれ』と伝える。一瞬意味ありげな表情を見せた気がしたが、『テスト前だしな』と簡単にOKしてくれた。
礼子の手作り弁当を食べながら考える。
「ごめん、今日は練習休むよ。テスト前だし」
「うん、そっか」
毎週の楽しみだったようで礼子は少し寂しそうだ。バンドのメンバーというわけじゃないが、土曜日のオレとの時間を楽しみにしていたのだろう。
いつの間にか礼子はテニス部を辞めていた。
運動が苦手という訳じゃないが、休みがちになり、幽霊部員をへて退部となったらしい。学校側も推奨はしないが、基本的に全員部活に入るが、絶対ではなくなったようだ(実は前からそうだった)。
どっちにしても今日は礼子と一緒に帰る日だ。
「じゃあ練習ないし、早めに一緒に帰れるね」
「そうだな」
いつもは練習後だから夕方(夜?)になるけど、今日は昼過ぎには帰れる。そこから着替えて身支度して……3時には純美の家に着けるはずだ。
いつもより早い時間の下校。礼子は南小出身なので、オレの自宅とは反対方向だ。
「明日は、勉強だっけ?」
「うん。10時からだよね?」
「ああ、なんか今からテスト前って感じだな。でもオレは勉強よりも、礼子の手料理の方が楽しみだ」
「もー、悠真ってば、またそんなこと言ってるし!」
そうは言っても礼子は嬉しそうだった。
礼子と別れ、家に着く。1時半を少し過ぎたところか。
「ただいま」
着替えて、教科書とノートをバッグに詰める。純美の家まで40分以上。急いで支度をしないと。
前世はがっつりイケてない中学生だったので、女の家で勉強しようもんなら倒れて
彼女なんか夢のまた夢。手をつなぐどころか会話でさえ業務上(日直とか学級委員とかそういうの)以外はないに等しかった。しかも今日の純美は、オレに会いたくて部活まで休むなんて……。
まあ純美がオレに
人間、惚れたら負けよ。惚れさせないと。
誰が言ったか知らないが、事実だ。
2時45分。
ちょっと早いけが、純美の家に到着。
インターホンを押すと、すぐに応答があった。
「は、はい!」
急いだ足音が聞こえ、純美が玄関を開ける。制服から私服に着替えていた。
「ごめんね、早かった?」
「ううん、全然。あの、お母さんにはテスト勉強って言ってあるから……」
そうか、バレー部を休んだことは家でも内緒にしているんだな。
「お邪魔します」
靴を脱いで上がると、リビングから純美のお母さんの声が聞こえる。
「あら、風間君。いらっしゃい」
「こんにちは」
前回と同じ、2階の純美の部屋で勉強することになっている。
「じゃあ、勉強してくるね」
「そう。あとでお茶持っていくわ」
純美の後について階段を上がる。
前世なら緊張で足がガクガクしただろうな。でも今は……いや、それでも純美の部屋に入るときは、どきどきする。
多分13脳だ。
コタツの前に座布団が二つあった。前回は四人だったけど、今日は二人きりだ。隣り合って座ると純美の香りが漂ってくる。
「えっと、数学から……?」
「うん。体積を求める問題なんだけど、公式がいっぱいあって……」
純美が教科書と問題集を広げながら言うが、オレは寒くて手をコタツの中に入れていた。思えばエアコンの普及率って、当時はそこまでなかったんだよな。
あっても一家に一台。居間にあるくらいで、子供の部屋になんておいてない。だからコタツがあり、夏は扇風機があったのだ。
オレは事故を装ってコタツ布団に隠れた純美の太ももを触ってみた。
「え? あ、ちょっと……」
純美はコタツ布団をめくり、オレの手をはたくが、その仕草も可愛らしい。
「もう! 勉強しに来たんでしょ?」
いや……まあそうなんだけどさ。
怒ってはいない。恥ずかしさと期待が混じったような表情だ。
でもさ、こんな美少女と二人きりで部屋にいたら『そういう』気分にならない方がおかしいってもんだ。
「じゃあさ」
オレは左にいる純美の方を向くと、左手でスカートの中の太ももに触れてさすってみる。
「あ……ぅん」
純美は身をよじってコタツの中に手を入れてどかそうとするが、その手をオレは左手でつかんで引き離す。太ももをさすりつつ、その手を下着に近づいていく。
純美の太ももは驚くほど柔らかく、あったかい。コタツ布団に隠れてオレの指先が、優しくスカートの中を
「あ……悠真……」
甘い声を漏らす純美だが、問題集は開いたままだ。建前は守らないとな。
「この問題は……」
左手で太ももをさする一方で、右手で問題集を指さす。答えを導き出す公式と解を教えて、キスをした。純美の顔はすでにぽわんとしている。
「お茶を持ってきたわよ」
「あ、はい!」
階下から足音と同時に純美の母親の声が聞こえた。秒で(?)姿勢を正し、オレの手は素早くコタツの上に戻る。
「頭痛は良くなった?」
ノックと共にドアが開いた。
「う、うん。もう大丈夫……」
お茶とお菓子を置いていく母親に対して赤くなった顔を必死に隠す純美。なんて間が悪いんだ! この辺はマジで漫画としか言いようがない。絶妙なタイミングで親とか友人がでてくるのだ。
しばらくは本当の勉強をする。
このくらいの間隔を置くのが大人の余裕というものだ。純美の指先が時折、問題集に触れる。その仕草一つ一つにドキドキしてしまう13脳と、余裕で受け止める51能。
でも、コタツの中でときどき触れ合う脚に、オレも純美も意識せざるを得ない。
今度はスカートの中の、さらに下着にさわってみた。
純美の体はビクンと反応する。
「ちょ、ちょっと……」
思わず手で口を覆う純美だが、目はとろんとしている。そしてもう一度太ももに……。今度はさっきよりも強くさする。下着の中に左手を入れ、はしない。
下着の縁を持ち上げては戻しながら、純美の反応をみてみる。
「あ……んん……もお、悠真♡」
12脳は爆発寸前だが、51脳は客観的に純美を観察してYESとNOの境界線を探っている。
「勉強に、なんないよ~♡」
「ごめんごめん、でもあんまり純美が可愛いからさ……」
純美は顔を真っ赤にして上目遣いで甘えてきた。
「それより、この問題集、あと3ページ終わらせとこうか」
最後はちゃんと勉強して、できなかった問題の解き方を教えてあげる。5時になる頃には予定していた範囲を終えることができた。
「もう5時だね。そろそろ帰らないと」
「うん……」
名残惜しそうな純美の声。たったの2時間だけだったが、今日は特別な一日だった。
「風間君、もうお帰り?」
玄関まで見送りに来た純美のお母さん。
「はい。ありがとうございました」
冬の夕暮れの中を歩きながら、今日という日を噛みしめる。明日は礼子との勉強会。そう言えば家に行くのは2回目だ。また違った意味での緊張が待っているんだろうな。
次回予告 第57話 (仮)『礼子の自宅。2回目』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます