第27話 『生○Vを目撃しているのを目撃された』

 1985年(昭和60年)8月2日(金) 玉の浜海水浴場 <風間悠真>


 金を稼ぐにはいろんな方法があるが、最も一般的で誰もがやっているのが、自分の時間と労力、または技術を使ってその対価を得る方法だ。いわゆる会社員やアルバイト、もしくは自営業もコレに含まれる。


 もう1つは不労所得と呼ばれるもので、文字だけをみれば働かずに手に入るイカガワシイお金というイメージだ。しかしこれは、いわゆる投資と呼ばれるものも含まれていて、不動産投資や~投資と言われる利ざやを稼ぐものもある。


 あとは家賃収入とかだな。駐車場とかも。


 ただ、いずれにしても中学1年生のオレができるのは隠れバイトしかなく、その金額も時給×動労時間でしかない。つまりはこの海の家でのバイトや、実家の手伝いをするしか方法がないのだ。


 あせるなオレ。時間はまだたっぷりあるんだ。





 かずくんあかねの衝撃が網膜と脳裏から離れないまま10日が過ぎた。51脳ならなんでもないが、12脳の中学生には刺激が強すぎた。その後何をしたかはまあ……中学生の男なら誰でも(?)経験あるだろう。


 今日の玉の浜海水浴場は特に暑い。

 

「おーい悠真! ちょっと手伝ってくれ!」


「あ、はい」


 バイト先の海の家では、雑用から接客、調理場まで関係なく手伝いをする。今日も焼きそばの注文が入ったので、鉄板に油を敷いて麺を炒めているところだ。


 鉄板は大きめで2人で作業ができるようになっている。隣は叔父さんだ。教えて貰いながら、見よう見まねで焼く。言うまでもなく、叔父さんのOKが出ないと出せない。


 前世で料理はあまり得意ではなかったが、これも経験なんだろうか? そこまで修行をしなくてもある程度の味が出せてOKをもらえた。自分でも驚いている。


 ……想像できると思うが、むちゃくちゃ熱い。+暑い。だから滝のように汗がでるので替えのTシャツと飲み物は必須だ。


 焼きそばの麺が鉄板でジュージューと音を立て、香ばしい香りが漂う。オレは手早く麺をかき混ぜながら、熱さと戦っていた。頭の中ではいろいろな考えが巡るが、今は目の前の仕事に集中するしかない。


 焼きそばがいい感じに焼けてきた。

 

 鉄板の上で跳ねる麺が、しっかりと油を吸い込み、程よい焦げ目がついている。叔父さんが『そろそろいいな』と小さくうなずいたので、オレは手早く麺をお皿に盛り付け、青のりを振りかけた。


「はい、焼きそば一丁!」


 今日も暑さがピークに達している。海水浴の客もだんだん増えてきて、注文がひっきりなしに入る。オレのTシャツはすでに汗でぐっしょりだ。


「次の注文、焼きそば2つ! あと、ジュースもお願い!」


 接客担当の美咲が声を張り上げて注文を伝えてくる。彼女の明るい声が暑さに少しだけ清涼感を与えてくれる。


「了解! 凪咲なぎさ、ジュースの方お願い!」


 凪咲は手際よく冷蔵庫からジュースを取り出し、テーブルに運ぶ。


「焼きそば、もうすぐできるから!」


 オレは再び麺を鉄板に投入し、ジュージューと音を立てる焼きそばと向き合った。


 自分の手際もだいぶ良くなってきている気がする。

 

 純美はせっせとテーブルの片付けをしていて、何も言わなくても、それぞれが自分の役割を淡々とこなしているこの雰囲気、なんか心地いい。


「悠真、ちゃんと水分摂れよ!」


 叔父さんがふと声をかけてくる。


「はい!」





「ふうー。やっと一段落ついたな。よし、もうすぐ5時で店じまいだし、悠真、休憩したらゴミ捨てに行ってきてくれ」


「あ、はい」


 オレはポカリスエットを飲みながらベンチに座って休憩する。美咲も凪咲も純美も休憩で、それぞれ飲み物を手に座る。ふと見ると美咲の首元に目が行く。汗で髪の毛がくっついて妙に色っぽい。


 というかエロい。


 反射的に凪咲、純美を見る。


 全員、エロい。


 いや、直接的じゃなくても、なんでこんなにドキッとするシチュエーション? 12脳にはたまらんだろ?


「ねえ、悠真」


 美咲の声にハッとして顔を上げる。


「な、なんだ?」


「顔赤いよ? どしたの?  大丈夫?」


 美咲が心配そうに近づいてくる。その仕草が妙に色っぽいし、至近距離で胸に目がいってしまうオレ。


 いかんいかんいかん!


 オレは思わず後ずさりした。


「あーほんとだ? 悠真なんかエッチな事考えてたでしょ?」


 凪咲が美咲の反対側に回り込んで、そう言った。


「は? 馬鹿な事言ってんじゃねえよ!」


 オレは全否定するが、純美が言う。


「悠真ってホントわからないよね。妙に大人っぽいかと思えば、子供みたいにも見えるし、ホント不思議」


 何言ってんだ……オレたちゃ全員子供だろう?


 確かに51脳と12脳が混在して主導権を奪い合ってる今のオレなら、端から見ればそうなのかもしれない。


「よし、じゃあ悠真、そろそろゴミ捨てに行ってくれ」


「あ、はーい」


 オレは素早く立ち上がり、リヤカーにゴミを積み込む。


「気をつけてね」


 3人が同時に声をかけてくる。オレは手を振って海の家を出た。坂道を上りながら、オレは深呼吸を繰り返した。落ち着け、落ち着け。51脳が12脳を必死に抑え込む。


「ふう……」


 こんな状況、良くも悪くも前世では絶対に経験できなかっただろう。ゴミ捨て場に着く前、オレは立ち止まった。あの岩陰だ。思わず目をやる。


「……!」


 まじかよ。


 オレは息をのんだ。そこにはまたしても、あの2人がいた。カズくんとあかねは、今日も岩陰で密会していた。2人は熱い抱擁を交わし、キスを繰り返している。


 オレは目が離せなくなった。12脳が完全に支配権を握っている。


「あっ……トモくん……」


 え? トモくん?


 誰だ? 誰なんだ? って、知るわけない。でも目をこらしてよくみると……。


 マジかよ! 嘘だろ?


 男は知らない。でも女は……。


 オレをよしよし可愛がってくれている、バレー部のあの山本由美子先輩(推定Dカップ)じゃないか! 


 オレは思わず目を見開いた。山本由美子先輩……あの胸の大きな、いつもオレを可愛がってくれる先輩が……。


「トモくん……もっと……」


 先輩の甘い声が聞こえてくる。トモくんと呼ばれた男の手が、先輩の水着の中に入っていく。オレの心臓が激しく鼓動する。喉が渇く。12脳が完全に支配権を握り、51脳の理性が消え去っていく。


 ショックだという感情もあり、残念という感情もあった。でも、それよりもなによりも……もっと見たいという欲望が勝ったのだ。


「……真」


「……悠真」


 なんだよ! と言葉には出さないが後ろを振り向くと、なんと美咲、凪咲、純美の3人がいたのだ。


 な、なんでいるんだ? ? 一瞬にして12脳はパニクった。


 オレは一瞬で血の気が引いた。美咲、凪咲、純美の3人がなぜかここにいる。しかも、オレが2人の行為を覗いているところを見られてしまった。


「お、おまえらなんでここに……」


 オレの声は震えていた。12脳はパニックで、51脳も状況を把握できていない。


「心配だったから……」


 美咲が小さな声で言った。


「帰りが遅いから叔父さんが見てきてくれって、ねえ……」


 凪咲が美咲にふると、『それで、様子を見に来たの』と純美が付け加えた。


「あん……ん……」


 やばい! こっちに気づいてない! まだ続けてる!


「いや、後で話そう! ちょっと、これはダメだ。帰ろう!」


 オレは無理やり3人と一緒に帰ろうとした。慌てて3人を引っ張って岩陰から離れようとしたんだが、3人は動こうとしない。


「ちょっと待って、あれって……山本先輩?」


 美咲が小声で言うと、凪咲も目を凝らす。


「え?  うそ……」


「まさか……」


 純美も驚いた様子だ。


 オレは焦った。このままじゃマズイ。でも、3人の好奇心は抑えられない様子だ。


「馬鹿! もし山本先輩だったとして! 見つかったら明日から練習になんねえぞ! 気のせいだ! 帰ろう!」


 オレは3人を、やっとの事で押し返して、ゴミ捨て場に行き、そして海の家に戻った。





「おー、お疲れさん! ん? どうした、みんな顔が赤いぞ?」


 どう考えても、そうそうできない経験(行為を目撃+その行為の相手が知ってる女の先輩)をしたオレと3人であった。





 次回 第28話 (仮)『有川港花火大会』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る