アヴノ

 ドゥンさんの話によると、アヴノは夜にならないと会えないという。


 アヴノはカゲキよりも若く容姿は王に近い。カゲキは長年続けてきた畑仕事のせいか体つきがやや無骨で肌も浅黒いが、アヴノは元々の美しさを保っているのだそうだ。


 アヴノ本人に会う前に島民から彼について話を聞いてみた。評価は真っ二つに分かれた。


 飲食店を経営する男性は「あんな奴ただのビッチだ」と言った。


「十代から遊び歩いて男をたぶらかして金を稼いでいた。見た目が王に似ているとか関係ないね。あんな奴に王になって欲しくない。それなら純潔なカゲキの方が信頼できる」


 一方、移住者である二十代の女性はアヴノについて肯定的だった。


「王様に似てイケメンだし、あの人がいいんじゃないですか。偉くなって島の外にもっとアピールした方がいいと思います。どこの芸能事務所もほっとかないでしょ、あのレベルの顔」


 どうやらアヴノは繁華街の売り専バーで働いているようだ。無骨だが“純潔”であるカゲキと比較されるような発言が多く聞かれた。


 日が暮れてから繁華街で取材を続けていると、幸運にも“アヴノ推し”だという男性に会うことができた。彼は本土に住む四十代の会社員。アヴノに会うため月に一度のペースで御斗田島にやって来るのだという。


「初めて会ったのは二年ぐらい前だよ。旅行で御斗田島に来て一目惚れ。本土に戻ってからもずっと忘れられなくて結局こうやって会いに来てる。あんなに綺麗な子がこんな田舎にいるなんてね。あーちゃんは都会で活躍するべきだと思うんだけど、このまま知る人ぞ知るイケメンのままでいて欲しい気もするんだよなあ」


 アヴノの何が魅力的なのか、と訊ねると彼は「顔と体」と即答した。「御斗田島の経済を回しているのは実際あーちゃんだよ。ヤリマンって叩く奴もいるけど自分たちが助けられるの気付いてないんだろうね。いや、気付いてるけど認めたくないのかな」


 前述したように、御斗田島の経済を支えているのは観光業だ。四割の王の子どもの美しさに魅入れられた人々がこの地を訪れる。要するにこの島は風俗業で成り立っているのだ。


 売り専バーの開店時間を迎え、ようやくアヴノの姿を見ることができた。整った顔立ちのボーイの中でも一際美しいのがアヴノだった。滑らかな肌は王とほぼ同じ色。表情は王に比べると柔らかく魅惑的だった。王やカゲキと明らかに違う点は髪をプラチナブロンドに染めている所か。背筋もスッと伸びていて美しかった。


 アヴノは筆者の姿を見て彼の方から話し掛けてくれた。取材にも快く応じた。


「ここに入店し始めたのは五年くらい前かな。その辺で遊んでたのを今のオーナーに拾われたんだ。仕事は楽しいし僕に向いてると思う。パソコンカタカタ打つとか畑やる自分は想像できないな」


 国王候補であることについては、「それは別の話。王になる気は満々」と言った。「僕が王になったらこの島をもっと外にアピールしたいな。選ばれる自信?もちろんあるよ。僕が一番美しいから。純潔じゃないけど、王が純潔じゃないと駄目なんてルールないしね」


 他の国王候補の印象を訊ねると、やはり彼は自信たっぷりに「チギもカゲキも悪くはないけど僕ほどじゃないね」と答えた。「チギはまだ子どもだろ。よっぽどガキが好きな奴じゃなきゃ選ばないよ」と述べた一方でカゲキについては「カゲキが純潔っていうのは嘘じゃない。僕にはわかる」と一抹の危機感を覗わせた。


「カゲキには何度か助けられてる。あいつ世話焼きだから。付き合いも長いからカゲキの馬鹿正直な所も知ってる。僕みたいに遊ばないしいい奴だよ。でも国王の座を譲る気はない。僕は負けない」


 柔和な笑顔を見せるアヴノには、カゲキとはまた違う国王候補らしさが垣間見えた。


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