最後の子ども
筆者が御斗田島に滞在して二ヶ月ほど経った頃、ドゥンさんから「王の子どもが生まれたから見に行かないか」と誘われた。島の南側に唯一の病院があり、王とその子どもはそこで入院しているのだという。
単為生殖で増えるオメガというだけでも驚くべき生態だが、さらに驚くべきは胎児の発達する速度だ。大体三ヶ月ほどで一五〇〇グラムほどになりその状態で出産する。普通の赤ん坊で言う所の低体重児だが、王の子どもとしてはこれが通常の大きさなのだという。
低体重児といってもそれだけのスピードで胎児が発達するのだから産む側の体の負担は相当大きいものになる。王自身は取材を受けても良いと言ったが、赤ん坊の様子を見るだけにした。ドゥンさんも王の体調を案じてか「そうした方がいいと思います」と言った。
後に王から届いた文書によれば、彼はこの子どもを最後に産むのを辞めるらしい。年齢的な事情もあるのだろう。王が産むこの島最後の子どもだ。
王にとっては普通のことだが、やはり一五〇〇グラムという体重は赤ん坊には小さすぎる。子どもは保育器の中で慎重に、大切に世話をされていた。大人の両手にすっぽりと収まってしまうくらいの、丸裸の小動物のような赤子だった。極端に小さいことを除けば普通の子どもと変わらない。
我々が子どもの様子を見ている間、カゲキも病院を訪問してきた。彼は島に子どもが生まれたり新たに移住すると必ず様子を見に来るのだという。無類の子ども好きだ。
カゲキは感情を読み取りづらい顔付きをしているが、そわそわと保育器を眺める様子から嬉しさと心許なさが綯い交ぜになっているのが覗えた。筆者が声を掛けるとたどたどしくも「とても可愛いです」と顔を綻ばせた。
「でもこれで王の最後の子どもになると思うと少し寂しいです」
生まれた子どもはその季節により「ヘー」と名付けられた。「俺が王になったら皆にそれぞれ違う名前を付けたい」とカゲキは内緒話をするように筆者に告げた。
せっかくなので、カゲキにアヴノとの関係を聞いてみた。彼は「俺にとっては弟みたいな存在。アヴノが生まれた時も見に行った」と懐かしそうに語った。
「生まれた時から大きくて元気な子でした。この赤ちゃんよりもだいぶ大きかった。今は華奢な体つきだけど、子どもの頃は結構活発でしょっちゅう木登りしては落ちて怪我してました。今のアヴノは綺麗だけど少し痩せすぎかな」
その後カゲキはすぐ「勝つのは俺ですから」と取り繕うように言った。カゲキもアヴノもお互いを強く意識しているようだ。
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